実践的な歯科医療人の育成を目指す
~歯科医師国家試験では高い合格率を維持―九州歯科大学~
JR小倉駅から車で20分ほどの所に位置する九州歯科大学は、国内にある29の歯学部で唯一の公立歯科大学である。
1914年に設立された私立九州歯科医学校を起源とし、今年で109年目を迎える。
「社会に貢献できる医療人を育て、地域に根差すことが公立歯科大学の役割だと考えています」と西原達次理事長兼学長は話す。
西原理事長兼学長
◇公立の歯学部として地域社会に貢献
口腔(こうくう)医学の総合大学として地域と共に歩んできた九州歯科大学は、100年を超える歴史の中で専門学校から公立大学へと変遷を遂げてきた。
「大きな変化は、やはり2006年に県立大学から公立大学法人になったことです。法人化したことで県の直轄から離れ、大学が独立した形で自ら運営することになりました」
九州歯科大学は歯学科と口腔保健学科の1学部2学科を設置し、歯学科は歯科医師の育成、口腔保健学科は歯科衛生士の育成を行っている。現在は歯学部として歯科医療人の教育に当たっているが、過去には医科歯科専門学校となった時期もあったという。
「戦中の1944年4月から1947年4月までの間、福岡県立医学歯学専門学校として存在しました。その後、1949年に大学制度が設定され、本学は九州の地で歯学部を持つ新制九州歯科大学としてスタートしました」
九州歯科大学の本館(左奥)と講堂
◇患者に寄り添える歯科医療人の育成を目指す
創設から100周年に当たる2014年に西原理事長兼学長が自ら掲げたのが「Think globally, act locally(世界規模で考え、足元から行動せよ)」というスローガンだ。このスローガンには広い視野で物事を捉え、地域の中で実践できる歯科医療人であってほしいという願いが込められている。
「2006年に大学が法人化されて以降、6年ごとに公立大学が果たす役割について福岡県から中期目標が提示され、それに対して大学が立案する中期計画に基づき、大学運営について評価が行われてきました。2023年度は第3期の中期計画終了年度になりますが、私が関わるようになった第2期中期計画以降においては、福岡県が提示した目標を高いレベルで達成できたと思っています」
西原理事長兼学長が大切にしていることは、患者の気持ちに寄り添える歯科医療人の育成だ。
「知識と技能と人間力の三つをバランス良く学生たちに提供することが重要と考え、教員にも周知徹底しています」
2015年に作成された「九州歯科大学憲章」の前文には、患者中心の歯科医療を提供できる人材の育成が掲げられており、三つのポリシーであるディプロマポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシーが開示されている。
「患者の痛みを取り除くだけでなく、『この歯科医師に診てもらって良かった』あるいは『歯科クリニックに来て良かった』と言ってもらえるような、人間味豊かな医療人を育てること。このことを基軸として、これまで変わることなく教育を展開してきました」
グローバル教育にも力を入れている同大学は、教育連携協定を締結しているタイや台湾との間で大学短期留学制度(学生海外短期派遣プログラム)を導入している。
「海外への渡航費用や滞在費は九州歯科大学基金から出しているので、学生にはプログラムに係る費用はかかりません」
キャンパス内にある附属病院。地域の歯科医療の中核を担っている
◇歯科医師国家試験合格率は常に全国平均以上
社会構造の変化を背景に、歯科医師に求められる能力にも変化が見られるようになったという。それに加え、歯科医師国家試験の難易度が高まる中、九州歯科大学は高い合格率を維持している。
「歯学教育を評価する指標の一つである最低修業年限合格率は、本学の場合、2021年(第114回)の歯科医師国家試験で全29歯学部中2位、2020年(第113回)は1位となりました。過去5年間における最低修業年限合格率は国立大学歯学部の平均を上回っています」
歯科医師国家試験の合格率の高さについて、西原理事長兼学長は次のように話す。
「補講など特別なことは行っていませんが、学生が国家試験の勉強などで尋ねてきたときには『喜んで対応するように』と教員には呼び掛けています。学生が勉強しやすい雰囲気づくりを大切にして、教える側も教えられる側も場を多く持てる環境づくりを大事にしています。しかし、何より本学には歯科医療に対するモチベーションの高い学生が多いのだと思います」
◇基礎疾患を持つ患者の口腔機能を向上
2016年、九州歯科大学は北九州市歯科医師会および北九州市内の各地区の歯科医師会と連携し、「DEMCOP(口腔保健・健康長寿推進センター)」の運営を開始した。DEMCOPとは開業している歯科医師や現役の歯科衛生士などを対象にしたリカレント教育のことで、基礎疾患などを持つ患者の治療、口腔ケアおよび口腔機能の向上を目的としている。
「北九州市は政令指定都市の中で最も高齢化率が高く、高齢社会を背景に高齢患者が増加傾向にあります。高齢者の場合、摂食・嚥下(えんげ)障害や全身管理を必要とするような重篤な疾患を持つ人に歯科治療をすることも少なくありません。DEMCOPではそのような患者に安全な歯科医療を提供するための情報提供と実技指導を行っています」
さらに、2025年をめどに地域包括ケアシステムの構築が進められている中、九州歯科大学では市内で教育連携協定を締結している複数の医科病院において、歯学科および口腔保健学科の学生が臨地実習という形で実習を行っている。
インタビューに答える西原理事長兼学長
◇歯周病予防の検査キットを開発
西原理事長兼学長は、九州歯科大学で6年間学んだ後に東京医科歯科大学大学院を経て、国立感染症研究所において歯周病研究者として13年間勤務した。研究のベースを北九州に移して、現在まで歯周病の早期発見・重症化予防を視野に入れた検査機器の開発・実用化を目指している。
「歯周病は放置しておくと、歯周病菌が感染源となって歯の周囲の歯周組織が炎症反応によって破壊されます。歯周病の場合、治療が遅れて痛みを感じる頃には歯を支えている骨がほとんど破壊されてしまい、そういう状態になると抜歯寸前の状態になってしまいます」
近年、歯周病について多くの研究成果が報告されているが、特に歯周病が心筋梗塞や糖尿病、認知症などに関与していることが注目されている。そこで、西原理事長兼学長が考えたのが口腔内の歯周組織の病状を数値化する検査機器である。開発企業をはじめ、北九州市の歯科医師会などと共に、舌ぬぐい液を用いて歯周病菌の酵素活性を測定・評価する「歯周病リスク検査(アドチェック)」の開発に関わってきた。
「長年にわたりこの事業は研究者である自分自身へのミッションとして取り組んできました。福岡県知事にも賛同していただき、福岡県の歯科保健事業にも取り入れられました。昨年は政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2022)に、いわゆる国民皆歯科健診が明記されたので、この機運に乗ってさらに歯周病診断機器へと発展できればと思っています」
「歯科医療におけるさまざまな取り組みに携わることができ、今は歯科医学研究の道を選んで良かったと思っています。学生の中には医学部に行きたいという思いを引きずって在籍している学生もいます。そんな学生には私の過去の医師になりたかった経験を語って、歯科医学は生涯研究に値する学問であると話しています」(ジャーナリスト/美奈川由紀)
西原 達次(にしはら・たつじ) 1981年九州歯科大学歯学部卒、86年東京医科歯科大学大学院修了(歯周病学)。国立予防衛生研究所研究官、同研究所歯周病室長を経て99年九州歯科大学教授。2005年大学院歯学研究科長、06年理事・歯学部長、12年4月から現職。
【九州歯科大学 沿革】
1914年 九州歯科医学校創立
1921年 九州歯科医学専門学校に昇格
1944年 医学科を併設し、福岡県立医学歯学専門学校に改称
1947年 医学科を廃止し、福岡県立歯科医学専門学校に改称
1949年 新制九州歯科大学に昇格
1966年 大学院歯学研究科開設
2006年 公立大学法人設立
2010年 口腔保健学科創設
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(2023/05/31 05:00)
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産業医科大学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 配信より
産業医科大学 | |
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全景(2009年12月) |
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大学設置 | 1978年 |
創立 | 1977年 |
学校種別 | 私立 |
設置者 | 学校法人産業医科大学 |
本部所在地 | 福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1![]() ![]() |
学部 | 医学部 産業保健学部 |
研究科 | 医学研究科 |
ウェブサイト | https://www.uoeh-u.ac.jp/ |
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産業医科大学(さんぎょういかだいがく、英語: University of Occupational and Environmental Health, Japan)は、福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1番1号に本部を置く日本の私立大学。厚生労働省労働基準局が支援する公設民営大学である。略称は産業医大、産医大。1977年創立、1978年大学設置。
概要
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教育基本法及び学校教育法に従い、医学及び看護学その他医療保健技術に関する学問の教育及び研究を行う。特に、労働環境と健康に関する分野におけるこれらの学問の振興と人材の育成に寄与することを目的とする[1][2]。産業保健推進の中心的役割を担う産業医や勤労者医療従事者、産業保健に通じた看護師、保健師、産業保健のマネジメントの専門家、産業医学研究者等産業保健分野の人材育成と産業医学の振興を目指している。
こうしたことが労働者の安全・衛生の確保に必要な事業として労働者災害補償保険法に基づく社会復帰促進等事業から補助が行われている。私立大学でありながら、厚生労働省労働基準局所管の公益財団法人産業医学振興財団の助成を受けており、運営費用の大部分を労働保険特別会計労災勘定からの助成で賄っている。それゆえ「産業医学・産業保健」や「働く人々の健康」が強調されているのがカリキュラムの特徴である[3][4]。
その影響もあり、私立大学としては唯一、国公立大学共通一次試験を入学試験に利用した。共通一次の後継制度である大学入試センター試験も引き続き入学試験に利用し、国公立大学と同じ日程(前期・後期)で入試を実施していたが、2005年度(平成17年度)の入試からは独自日程に移行し、競争倍率が急増した。
九州大学医学部出身の教授が多いが、医学部や産業生態科学研究所では、卒業生の教授の数も増加している。
6年間の学費は3000万円程度だが、学費から国立大学の入学金および授業料に相当する額を除いた額は貸与され、卒業後9~11年間指定された機関で勤務すればその返還が免除される。この費用は産業医学振興財団を介して厚生労働省の産業医学助成費補助金により賄われている。2003年度(平成15年度)以前の入学者は学費の全額が貸与されていたが、補助金の削減などに伴い制度の改変がなされた。さらに、施設費など毎年徴収されるようになり、国立大学の3倍ほどの学費(6年間の実質負担額は約1100万円)が必要となっている。
産業医としての求人が東京、大阪などの大都市圏から多数寄せられるのに対し[5]、入学希望者は地元九州からの志願が多いため、卒業後の産業医就職を促進するために、推薦入試制度に地域推薦枠を設けたり、大都市圏の入学志願者の確保のための広報活動を通して入学者の地域偏在を是正する努力もされてきた[2]。
沿革
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- 1977年(昭和52年)12月 - 学校法人産業医科大学の設立認可及び産業医科大学の設置認可
- 1978年(昭和53年)
- 1月 - 学校法人産業医科大学設立
- 4月 - 産業医科大学開設
- 1979年(昭和54年)4月 - 産業医科大学医療技術短期大学開設
- 1982年(昭和57年)
- 1月 - 医学部が大学入学者選抜共通第1次試験参加
- 4月 - 産業医科大学医療技術短期大学専攻科開設
- 1984年(昭和59年)
- 3月 - 産業医科大学大学院の設置認可
- 4月 - 産業医科大学大学院開設。産業医学基本講座開設
- 1986年(昭和61年)4月 - 産業生態科学研究所を設置
- 1989年(平成元年)4月 - 産業医学卒後修練課程開設
- 1995年(平成7年)12月 - 産業保健学部の設置認可
- 1996年(平成8年)4月 - 産業保健学部開設
- 2004年(平成16年)4月 - 産業保険学部環境マネジメント学科開設
- 2011年(平成23年)4月1日 - 北九州市より北九州市立若松病院の譲渡を受け、附属病院に移行[6]
- 2013年(平成25年)
- 4月 - 産業医科大学大学院医学研究科医学専攻改組
- 10月 - 産業医科大学大学院医学研究科看護学専攻の設置認可
- 12月 - 産業医科大学大学院医学研究科産業衛生学専攻の設置認可
- 2014年(平成26年)4月 - 産業医科大学大学院医学研究科看護学専攻(修士課程)及び産業衛生学専攻(修士課程)開設
- 2015年(平成27年)4月 - 産業医科大学大学院医学研究科産業衛生学専攻の課程変更認可
- 2016年(平成28年)4月 - 産業医科大学大学院医学研究科産業衛生学専攻(博士課程)開設
- 2020年(令和2年)4月 - 産業保健学部環境マネジメント学科を産業衛生科学科へ名称変更[7]
教育および研究
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組織
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学部
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- 医学部
- 医学科
- 産業保健学部
- 看護学科
- 産業衛生科学科
大学院
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- 医学研究科
- 医学専攻(博士課程)
- 産業医学研究基盤コース
- 医学英語特別コース
- がん専門医師養成コース(がん治療と就労の両立支援医師養成コース、がんゲノム医療重点コース)
- 産業衛生学専攻(博士前期課程・博士後期課程)
- 看護学専攻(修士課程)
- 医学専攻(博士課程)
附属施設
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- 産業医科大学病院
- 産業医科大学若松病院
- 産業生態科学研究所
- 産業医実務研修センター
- 産業医学情報教育施設
- 産業医学研究支援施設
- 産業医科大学介護施設「デイサービス・ケアプランセンター 虹の丘」
- 病院同様地域住民のための施設であるが、同時に学生が介護現場の実態を学ぶための施設ともなっている。
関連団体
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- 一般財団法人産栄会
- 有限会社産医大サービス
- 病院売店・レストランなど、学外一般も利用する福利厚生施設の運営を行う企業として分離設立された。電子マネーに関する業務も担当。
- 株式会社産業医大ソリューションズ
- 産業医科大学の機能を補完する、産業医学・産業保健に関する教育・研修事業、コンサルタント事業、質の担保された産業医等の職業紹介事業等を行なう大学発のベンチャー企業。
対外活動
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交通
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その他
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- 学内では、接触型ICカードを利用した専用電子マネーシステムが導入されており、学生・教職員専用電子マネー以外にもテレビカードに採用されていた。しかし後にテレビカードは磁気カード式に移行。そして交通系ICカード全国相互利用サービスの開始を機に、事後研修等で全国からやって来る産業医らや外来患者の便宜を図ることを狙い、2013年(平成25年)3月に九州旅客鉄道のSUGOCAを導入[19]。それにより旧式の学内専用電子マネーシステムは同月末で廃止されることになった。
脚注
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- ^ “産業医科大学の理念・目的”. 産業医科大学. 2023年7月16日閲覧。
- ^ a b 『産業医・産業医科大学のあり方に関する検討会報告書』(PDF)(レポート)厚生労働省、2007年8月9日。2023年7月16日閲覧。
- ^ “医学部”. 産業医科大学. 2023年7月16日閲覧。
- ^ “産業保健学部”. 産業医科大学. 2023年7月16日閲覧。
- ^ “平成29年6月における卒業生の分布” (PDF). 産業医科大学. 2023年7月16日閲覧。
- ^ 「市立病院を経営難で大学に譲渡 北九州市」『47NEWS』全国新聞ネット、2010年5月21日。オリジナルの2014年4月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ “環境マネジメント学科の学科名称変更のお知らせ”. 産業医科大学. 2023年7月16日閲覧。
- ^ “第11回産学連携フェアについて”. 産業医科大学. 2014年4月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “第11回産学連携フェア参加報告”. 産業医科大学. 2014年4月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “北九州学術研究都市産学連携フェア 新技術説明会”. 科学技術振興機構. 2015年6月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “北九州学術研究都市”. 公益財団法人北九州産業学術推進機構. 2023年7月16日閲覧。
- ^ 「2001年の技術の成果」『技報 安川電機』 66巻、1号、安川電機。
- ^ “生命体工学研究科の構成”. 国立大学法人九州工業大学. 2014年2月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “4大学スクラム講座” (PDF). 産業医科大学. 2023年7月16日閲覧。
- ^ “4大学スクラム講座”. 北九州市立大学. 2017年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “4大学スクラム講座を開催しました - 公開講座”. 九州歯科大学. 2013年6月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “地域連携による「ものづくり」継承支援人材育成協働プロジェクト”. 北九州地区大学連携教育研究センター. 2016年3月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ “大学間連携ポータル 地域連携による「ものづくり」継承支援人材育成協働プロジェクト”. 大学間連携ポータル事務局. 2018年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月1日閲覧。
- ^ 『SUGOCA電子マネーを使える場所がますます拡大』(プレスリリース)九州旅客鉄道、2013年2月26日。2013年3月2日閲覧。
関連項目
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外部リンク
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