中国、コロナの窮状にあえぐイタリアを支援 本来〝絶賛〟で終わるはずが墓穴掘る 国際舞台駆けた外交官 大江博氏(1)

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中国、コロナの窮状にあえぐイタリアを支援 本来〝絶賛〟で終わるはずが墓穴掘る 国際舞台駆けた外交官 大江博氏(1)(産経新聞) - Yahoo!ニュース 配信より

 

 

公に目にする記者会見の裏で、ときに一歩も譲れぬ駆け引きが繰り広げられる外交の世界。

 

その舞台裏が語られる機会は少ない。

 

ピアニスト、ワイン愛好家として知られ、各国に外交官として赴任した大江博・元駐イタリア大使に

 

異色の外交官人生を振り返ってもらった。 

 

【写真】ピアノを演奏する大江博氏 

 

■部下の〝フライング〟 

《2020年1月、イタリア大使として古都・ローマに赴任した。

 

40年以上にわたる外交官人生の集大成となる地だ》

 

 赴任から約1カ月後、新型コロナウイルスが北イタリアを襲いました。

 

あっという間に全土に広がり、イタリア全土が都市封鎖(ロックダウン)されました。

 

欧州各国は国内の対処で手一杯で、すぐに本格支援をしてくれず、

 

イタリア国内では失望の声が多く聞かれました。 

 

そんなときに支援の手を差し伸べたのが中国です。

 

医療団が訪れ、支援物資が続々と到着。

 

コンテ伊首相は「支援に国旗はない。どんな国であれ、

 

イタリアを助けてくれる国には感謝する」と述べました。 

 

イタリアではもともと、対中感情は悪くなかった。

 

中国が黙ってそのまま支援を続ければ〝中国絶賛〟で終わったはずでした。

 

しかし、中国は墓穴を掘った。 

 

「中国に対しイタリア政府から正式に感謝の言葉を発表してほしい」との

 

中国側からの極秘要請がメディアにリークされ、

 

イタリア国民の対中感情が急速に悪化しました。

 

そうした指示はおそらく、習近平国家主席からではなく、

 

部下の〝フライング〟、たとえば駐イタリア中国大使による本国への忖度だと思います。

 

バカなことをしたと思いました。 

 

その後、中国提供の医療機器・マスクなどに不良品が続出したことに加え、支援が無償でなかったことが判明。

 

中国関係者が作ったとみられる「グラッツェ・チャイナ(中国よ、ありがとう)」と書かれた画像もネットで拡散し、国民の対中感情がさらに悪化しました。 

 

■「〝反イタリア〟はいつからか」 

《ローマ赴任の前年、イタリアは中国との間で、巨大経済圏構想「一帯一路」の覚書を締結した》 

 

中国は欧州の中でも、経済的に弱い国から順番に覚書を締結していました。イタリアが先進国7カ国(G7)の中で一番早かったのは、伊経済が一番弱かったからでしょう。イタリアは経済的なメリットがあるとの理由で覚書を締結しました。

 

赴任直後、伊外務省幹部に一帯一路の話をすると「締結した覚書にはいろいろ歯止めをかけており、懸念するような事態にはならない」と言われました。

 

ただ、アイゼンバーグ駐イタリア米大使はこの覚書締結を批判していました。彼はディマイオ伊外務大臣から「あなたはいつからそんなに〝反イタリア〟になったのか」と聞かれたとき、「『イタリアが中国と覚書を締結したときだ』と言ってやった」と私に話していました。

 

イタリアは結局、23年末に一帯一路からの離脱を発表。コロナの問題などで国民の対中感情が悪化したこともありますが、他国から批判される中、コロナ禍もあり、具体的なビジネスにつながるような利点がなかったのだと思います。

 

■「中国脅威」論、1人だけ

《今、イタリアのみならず、多くの欧州諸国が中国に厳しい視線を向けている》

 

私が2000年代半ば、東京大学で教授をしていたころ、オーストリア・ザルツブルクで「中国は『脅威』か『機会』か」とのテーマでシンポジウムが行われました。欧米から多数の学者らが参加する中、中国を「脅威」と述べたのは私1人。彼らから見ると、巨大な市場は「機会」でしかない。そういう意味では、中国に対する欧州の見方はここ10数年で、大きく変わったと思います。

 

「脅威」という観点で言えば、日本で北朝鮮、中国、ロシアを脅威とみる人が多い一方、目下のウクライナ侵略やパレスチナの紛争を自国の安全保障に直接関係する問題だと捉える人はあまり多くない。地理的な距離が大きく関係しているのでしょう。

 

■〝客寄せパンダ〟

《約3年のローマ赴任中、それ以前の各国赴任と同様、〝ピアニスト外交官〟としてたびたび演奏を披露した》

 

イエズス会の総本山、ジェズ教会でプロのオーケストラをバックに、モーツァルトのコンチェルトを弾く機会がありました。コロナ禍で無観客でしたが、ユーチューブで発信されました。それを機に「ヴィテルボ音楽祭」で、アマチュアピアニストとして初めて、ソロコンサートをさせて頂くなど、人々を前に演奏する機会を数多く与えられました。

 

若いころ、音楽の道に進んでいれば、そうしたオファーを与えられることはなかった。逆に「大使が弾くのは面白い」と、〝客寄せパンダ〟としてさまざまなオファーを与えられました。音楽の道に進まなくて正解だった、と思うゆえんです。

 

(聞き手 黒沢潤)

 

〈おおえ・ひろし〉1955年、福岡市生まれ。東京大経済学部卒。79年に外務省入省。国連政策課長、条約課長などを経て、2005年、東大教授。11年にパキスタン大使、16年に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)首席交渉官、17年に経済協力開発機構(OECD)代表部大使、19年にイタリア大使。現在は東大客員教授、コンサルティング会社「神原インターナショナル」取締役などを務める。

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最終更新:産経新聞

 

 

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