フォルクスワーゲンが北米向け「オフロードEV」を外注した理由 量産開始は2026年末、受託したマグナシュタイヤーとは何か

配信より
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フォルクスワーゲンが、マグナインターナショナルの傘下マグナシュタイヤーに、自動車開発を発注したと、地元オーストリアのメディアが同社関係者の話として報じた。対象となるのは、北米における新オフロードEVブランド「スカウト」の2車種だ。

ブランド復活目指すVW

 フォルクスワーゲン(VW)が、マグナインターナショナルの傘下マグナシュタイヤーに、自動車開発を発注したと、地元オーストリアのメディアが同社関係者の話として報じた。

 

 対象となるのは、北米における新オフロード電気自動車(EV)ブランド「スカウト」の2車種(ピックアップとスポーツタイプ多目的車〈SUV〉)。受注額は4億9200万ドル(約780億円)。

 

 報道によると、マグナシュタイヤーはすでにEV開発に着手しており、2026年末の量産開始を目指しているとされるが、開発委託先はどのような企業なのか――。

 

 VWがブランド復活を目指すスカウトの主力モデルを外注する理由について、本稿では解説する。

 

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フォルクスワーゲンが、マグナインターナショナルの傘下マグナシュタイヤーに、自動車開発を発注したと、地元オーストリアのメディアが同社関係者の話として報じた。

 

対象となるのは、北米における新オフロードEVブランド「スカウト」の2車種だ。

マグナシュタイヤーの実績

 マグナシュタイヤーはVWからEV開発契約を受注したが、そもそもそのような実力があるのか。

 

半信半疑の読者もいるかもしれないので、あまり知られていない同社について紹介しよう。

 

 マグナシュタイヤーは、1864年創業のシュタイヤー・ダイムラー・プフを前身とする老舗の自動車関連企業で、2001年にマグナインターナショナルの傘下に入った。

 

 これまでに、

・メルセデスベンツGクラス
・BMW Z4
・トヨタスープラ
・ジャガーIペース
・フィスカーオーシャン

 

などを開発・製造し、自動車メーカー11社向けに32モデル、累計400万台以上の生産実績があり、VWの「アウディTT」を開発した歴史を持つ。

 

また、メルセデスベンツの四輪駆動システム「4マチック」を開発するなど、その実力には定評がある。

 

オーストリアのグラーツにある本社には広大なテストコースがあり、開発車両を実車で評価する設備も整っている。

 

 一時は、VWが北米にフィスカーのEV生産拠点を建設するのではないかとの観測も流れたが、自動車業界で実力を認められているマグナシュタイヤーにEV開発を発注するに至った社内事情とはどのようなものなのか、最近の動向を探ってみた。

 

フォルクスワーゲンが、マグナインターナショナルの傘下マグナシュタイヤーに、自動車開発を発注したと、地元オーストリアのメディアが同社関係者の話として報じた。対象となるのは、北米における新オフロードEVブランド「スカウト」の2車種だ。

VW構造改革の波

 VWは現在、EVシフトに向けた構造改革を進めており、営業利益率を2022年の3.6%から2026年までに6.5%まで引き上げることを目指している。

 

 また、同社は2023年6月に発表した100億ユーロ(約1.6兆円)規模の大規模なコスト削減計画を推進しており、その一環として人件費を約20%削減し、早期退職や場合によっては工場閉鎖による人員削減が見込まれている。

 

 VWの社内では、開発・生産の効率化が求められており、古い慣習から脱却し、重複や非効率な作業を排除する努力が続けられている。

 

 製品サイクルの短縮はその一例で、現在の50か月から36か月への短縮を目標に掲げており、約8億ユーロが見込まれていた新研究開発施設の建設は凍結され、構造改革のペースはさらに加速すると見られている。今回のEV開発委託も人員削減の結果と考えるのが妥当だろう。

 

 VWが開発を委託しているスカウトは、米サウスカロライナ州に建設中の新工場で2026年末から生産が開始される予定だ。日本ではあまりなじみがないが、スカウトは1902年に米国で設立されたインターナショナルハーベスターが販売していたピックアップトラックのオフロードモデルに端を発し、1960年代から1970年代にかけてオフロード車の代名詞となった由緒あるブランドである。

 

 同社の事業は1986年にナビスターに引き継がれ、2021年にVWグループのトラック・バス部門であるトレイトンが買収してVWの傘下となった。スカウトは、VWが長年苦戦してきた北米オフロード市場でのヒットが期待される。

 

フォルクスワーゲンが、マグナインターナショナルの傘下マグナシュタイヤーに、自動車開発を発注したと、地元オーストリアのメディアが同社関係者の話として報じた。対象となるのは、北米における新オフロードEVブランド「スカウト」の2車種だ。

EV戦略に迫る暗雲

 しかし、スカウトの将来には暗雲が立ち込めている。2023年9月から数か月にわたって行われた全米自動車労働組合(UAW)による賃上げ交渉の結果、VWテネシー工場の従業員は11%の賃上げとなり、同じ賃金水準を維持することが固定費として経営を圧迫していることに加え、

・原材料価格の高騰
・EV需要の低迷

など、さまざまなマイナス要因が重なっている。

 

 VWが今後EV戦略を推進するための主な施策は次のとおりである。

・フォードとEVプラットホームを共同開発
・中国の小鵬汽車(シャオペン)に5%出資、BセグメントEV2車種を共同開発

 

提携先の数を増やすことで開発効率は向上しており、今回のマグナシュタイヤーへのEV開発委託は明らかにその延長線上にある。

 

 ドイツでは、EV需要の落ち込みから11月に生産調整が行われるなど、先行き不透明感が強まっているが、スカウト立ち上げに向けて構造改革を加速させる見通しだ。

 

 スカウトの計画生産台数は年間15万台程度だが、北米のオフロードEV市場はデトロイト3(ゼネラルモーターズ、フォード、ステランティス〈旧クライスラー〉)のピックアップEVに加え、リビアンR-1やテスラサイバートラックも販売されている激戦区であり、新ブランドが成功するかどうかはマグナシュタイヤーの開発力にかかっている。

 

 このビッグプロジェクトを成功に導けるかどうか、同社から当分目が離せない。