避難者800万人超想定…南海トラフ「2次避難」対策急務 関連死リスク、能登地震で焦点に
避難者800万人超想定…南海トラフ「2次避難」対策急務 関連死リスク、能登地震で焦点に - 産経ニュース (sankei.com)
能登半島地震の発生から2カ月が過ぎながら、被災地では水道などのライフライン復旧の遅れなどが目立ち、被災者の健康状態への影響が懸念されている。こうした中、今回の地震を機にクローズアップされたのが、被災地外に避難する「2次避難(広域避難)」だ。近い将来発生が予想され、太平洋沿岸全域で孤立状態をもたらす南海トラフ巨大地震に向け、2次避難への体制整備が急務となっている。
石川県によると、能登半島地震の2次避難のピークは、2月17日時点の5195人。2次避難所として県内外にホテルや旅館が多数確保されたが、地元を離れることに抵抗を示す被災者も少なくなかった。
これに対し、南海トラフ地震の場合、中央防災会議(内閣府)が平成24年に公表した想定では、震度6~7の地震や10メートル超の津波が広範囲に及び、避難者は最大880万人。能登半島地震とは比較にならない規模だ。
最大30メートル以上の津波が想定される高知県四万十町、黒潮町で20年にわたり避難対策を指導する矢守克也・京都大防災研究所教授は「東海から四国の沿岸部は全域で能登半島のように孤立するだろう」と指摘。さらに「能登とは異なり、(2次避難で)被災者を受け入れるはずの大阪、兵庫、中国地方沿岸部なども地震や津波で被災する可能性が大きい」と述べる。
まずは自立環境
いわば〝八方塞がり〟の状況でどう生き延びるか-。矢守氏は「まずは各市町村内で『自立環境』を整備し、不足部分は近隣市町村と協力する地域自立圏を整備すべきだ」と提言する。
矢守氏の挙げる自立環境の先進事例として、三重県尾鷲(おわせ)市賀田地区の取り組みがある。同地区は津波被害を前提に、高台にソーラーパネル、入浴場、調理場、簡易トイレなどを備えた施設を新設。避難訓練のたびに高齢者は衣類や備蓄品など私物を持ち込み、長期避難に備えている。
また黒潮町は、太陽光発電や蓄電池を普及させる「ゼロカーボン」の取り組みを通じ、震災時も自立できる福祉避難所の整備などに着手。電気自動車(EV)を利用した避難所運営や医療機器の稼働といった防災訓練も実施する。四万十町も沿岸の興津地区の高台にある介護施設を自立型福祉避難所として整備した。
黒潮町の担当者は「(県外への)広域避難は過疎化につながる恐れもあり、持続可能なまちづくりを目指す中で対策を考えたい」としている。
健康把握し備えを
南海トラフ地震で被害が想定される太平洋側の沿岸部では、多くの自治体で高齢化が加速する。心不全など循環器系の持病が多い高齢者は災害関連死のリスクが高く、自立環境の中で避難生活を続けるには限度がある。
このため、矢守氏は「各自治体は高齢者の個別避難計画を作成する中で健康状態も把握し、広域避難が必要な人数を把握すべきだ」と訴える。
インフラが壊滅状態に陥った能登半島地震では、医療を含む環境の整った2次避難先に、多くの高齢者らが移る事態となった。南海トラフ地震では、2次避難の計画策定がほとんど進んでおらず、今後本格的な事前準備が求められそうだ。
被災地派遣条例に疎開保険…備える自治体も
南海トラフ地震を巡っては、直接の被害が想定されていない自治体でも、被災地支援や避難者の受け入れに向けて準備を進めているケースがある。
南海トラフ地震で医療チームの派遣を想定するのは岡山県総社市だ。大規模災害時に職員を派遣する条例を平成25年に定め、南海トラフ地震で甚大な被害が見込まれる徳島、高知両県の9市町と協定を締結。発生直後から約1カ月間をめどに、避難所に1週間あたり200人の医療チームを派遣することにしている。
さらに総社市は29年、被災者の受け入れ条例も制定。条例によると、避難者を市営住宅の空き室で無償で受け入れ、1世帯当たり10万円を支給。月5万円を上限に支援金も3カ月間支給する。
市の担当者は「職員派遣条例とともに毎年予算を計上しており、迅速に対応できることが強み」と説明。今回の能登半島地震でも受け入れ態勢を整えており、「被災者目線で実態に即し、柔軟に対応したい」とする。
また、鳥取県智頭(ちづ)町では平成23年に「震災疎開保険」を整備。南海トラフ地震を含む災害時には、加入者に町内の避難場所を提供し、民宿で1週間の食事を保証する。
加入料は1人年1万円、家族4人なら年2万円で、現在、関東や関西を中心に契約者がいるという。担当者は「智頭町を知って訪れてもらうきっかけにもしたい」と話している。(北村理、鈴木文也)
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「災害の危険性訴え事前準備を」片田敏孝・東京大院特任教授(避難対策)
被災者が自分の住まいを離れ避難するのは非常な不安を伴う。特に高齢者に多く、避難対策を進める上で障壁になる。ましてや、居住地を遠く離れる2次避難(広域避難)に被災者が抵抗を感じるのは当然だ。
どうすれば避難に抵抗を感じなくなるのか。一つは、災害時に自宅など日常の生活圏にいたら命を落とす状況になると理解すること。もう一つは、避難先で安全と衣食住が保障されることだ。
令和元年の台風で利根川が最高水位を観測した際、流域で約4万人が避難し半数が居住地外の市町へ逃れた。流域住民は破堤(決壊)すれば流域が水没する危険性をよく理解していた。流域自治体も「逃げ遅れゼロ」を掲げて連携し、高齢者を車で搬送し避難所に受け入れる準備を整え、訓練を重ねていた。
具体的な避難計画に基づく事前準備もなく、住民に避難を促すのは難しい。南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないと政府も警戒感を高めている。各自治体は能登半島地震を教訓に、三重や高知などの先進事例に学び、対策を急ぐべきだ。
私のコメント : 令和6年3月3日、南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないと政府も警戒感を高めている。各自治体は能登半島地震を教訓に、三重や高知などの先進事例に学び、対策を急ぐべきだ。また、現在、能登半島地震の発生から2カ月が過ぎながら、被災地では水道などのライフライン復旧の遅れなどが目立ち、被災者の健康状態への影響が懸念されている。