女子校で理系大の教授が「出張授業」 広がる高大連携、背景とメリットは?

女子校で理系大の教授が「出張授業」 広がる高大連携、背景とメリットは? | 朝日新聞Thinkキャンパス (asahi.com)

配信より

 

2023/06/20

■大学トレンド

高校と大学が連携して教育活動を行う「高大連携」が広がっています。女子校と理系大学の連携や、高校・大学の7年間を通じた「高大一貫教育」の取り組みなど、連携の内容はさまざまですが、高大連携が広がる背景にあるのが中学・高校での学びの変化です。(写真=東邦大学提供)

女子校と理学部が連携 理数教育の魅力を伝える

2022年12月、東邦大学理学部は共立女子高校と高大連携協定を締結しました。同学部はこれまでも高校への出張授業などを積極的に行ってきましたが、今回は教員同士の相互交流や大学に高校生を招いて授業を行うなど、より踏み込んだ内容になっています。同学部教育開発センター長の千葉康樹さんは、その目的を次のように話します。

「まず、女子に理数教育の魅力を伝えたかったからです。本学は1925年に帝国女子医学専門学校として開設されたこともあり、理学部の学生の半分ほどが女性ですが、保護者世代には『女子は文系がいい』と考える方も多い。女性にも理系の進路という選択肢があることを示せたらと思いました」

23年3月には、系列の共立女子中学でも出張授業を行い、さまざまな植物の色素を調べる実験をしました。進路を考えるワークショップも併せて開きました。

「学生や大学院生がアシスタントとして実験をサポートしましたが、中学生にとっては自分の将来のロールモデルにもなり、進路選択の参考になります。また学生や大学院生にとっては、中高生に教えることで自身の学びが整理され、学んだことをアウトプットする力も身につきます」(千葉さん)

東邦大学では今後、医学部や薬学部、看護学部、健康科学部にも広げて、全学部での高大連携も視野に入れています。

共立女子中学での出張授業の様子(写真=東邦大学提供)

進路はまず学部・学科を決めて、最後に大学選び

こうした高大連携が広がる背景に、私立中高での学びが変わったことを指摘するのは、日能研グループ発行の中学受験情報誌「進学レーダー」の井上修編集長です。

井上編集長によると、かつての私立中高一貫校は高校2年までに高3までの学習内容を終わらせ、高3では受験勉強に費やす学校が一般的でしたが、現在は中高の6年間をかけて大学進学を考えるように変わっていると言います。

「今は中3から高1にかけて探究学習や研究活動に力を入れており、生徒はまず大学で何を専門にするかという興味から学部・学科を決めて、最後に大学を決めるようになっています。探究学習や研究活動を大学と連携して手伝ってもらおうとしていて、特に理工系の大学が積極的なため、理工系を中心に高大連携が広がっています」(井上編集長)

2020年に東京理科大学と富士見中学高校、21年に順天堂大学と吉祥女子学園中学・高校、恵泉女学園中学・高校、23年に順天堂大学と北豊島中学・高校、北里大学と湘南白百合学園中学・高校が連携協定を結ぶなど、女子校と理系大学との連携が目立っています。女子の理系志望が増えている背景には、こうした高大連携の影響があるのかもしれません。

井上編集長も中高側、大学側の双方から高大連携の橋渡しを頼まれることが増えており、高大連携がさらに広がっていくのは間違いなさそうです。

7年かけて「高大一貫教育」も

高校生の進路開発に取り組む高大共創コーディネーターの倉部史記さんも「理学や工学分野の大学が女子に目を向ける例が目立っています」と、次のように語ります。

「富士見中学高校と東京理科大学の連携では、大学の研究室の見学に加え、研究室での模擬実験講座を定期的に開催しています。また、昭和女子大学附属昭和中学・高校スーパーサイエンスコースには、医系総合大学の昭和大学との連携プログラムがあり、大学教員による実験の授業が行われています。同校から昭和大学へ進学する生徒も出ています」

高校・大学の7年間を通じた「高大一貫教育」の取り組みもあります。

大分市の岩田中学・高校は、立命館アジア太平洋大学(APU)と連携した「APU・立命館コース」を設けています。APUの教員や学生が高校生の学びに協力し、高校3年次に大学の単位を取得できるカリキュラムになっています。実際にプログラムの修了生がAPUや立命館大学に進学しています。

麹町学園女子中学・高校は、東洋大学、東京女子大学、成城大学、日本女子大学など6大学と連携しています。大学を訪問して授業や行事に参加するなど、大学と接する機会を多く持ち、生徒が学びたいことを明確にしてもらうのが目的です。東洋大学とは、「東洋大学グローバルコース」を設置しており、大学教員の授業を受け、一定の基準を満たせば、東洋大学に進学することができます。実際に毎年、コースの約7割の生徒が東洋大学に進学しています。

高大連携での学びが入試のアピールポイントにも

高大連携のメリットを倉部さんは次のように話します。

「高校生が大学の学びを体験したり、さまざまな学問に触れたりすることは、大きなプラスになります。大学でリアルな学びを知ることは、進路選択にもいい影響があるはずです。また大学レベルのプログラムを修了したりした実績は、他大学に出願する際にもアピールできるでしょう」

進路選択や、大学入学後の伸びにもつながる高大連携は、今の大学進学のトレンドの一つとして注目しておいたほうがよさそうです。

(文=菅野浩二、中村正史)