年金と経済 Vol. 41 No. 2 34 国名 イタリア 公的年金の体系  

 

2022Italy.pdf (nensoken.or.jp)

配信より

 

(中略)

 

保険料財源  税 財 源  企業・個人年金 報酬方式(1995年までに労働を開始した 者に適用。

 

いずれにせよ,2011年までの 保険料分に関してのみ) 拠出方式(1996年 1 月 1 日以降の保険料 納付分について適用。

 

ただし,1995年ま でに18年以上の保険料納付期間がある場 合を除く) 

 

被保険者 (◎強制△任意×非加入) 

 

◎被用者 

 

◎自営業者の大部分 ×無職(ただし△主夫・主婦) 保険料率 保険料率:被用者については33%,

 

自営業者については,年齢,居住地,所得,他の 保険制度への加入状況などに応じて22.8%~33%(2022年)。

 

 支給開始年齢 2018年から性別や職業を問わず原則66歳。

 

ただし,平均余命の伸びと連動させる形で さらに調整され,実際の受給年齢は,2026年までは67歳の予定。 

 

〈例外〉 「クオータ120」,繰上年金,社会的繰上年金,過重労働・夜間労働従事者に対する繰 上年金,19歳未満の早期就労開始者についての繰上措置等多数ある。

 

また,実態とし ては貸付の形だが,任意的繰上年金と呼ばれる早期受給に代わる措置もある。 

 

基本受給額 下記「給付の構造」参照。 給付の構造 報酬に直接連関する「報酬方式」で算出。 

 

【受給額】現役時代の年収額の平均×保 険料納付年数 (最高40年)×支給率(原則 2 %) 

納付した保険料額を年金受給額の算定の 基礎として用いる「拠出方式」で算出。 

 

【受給額】拠出総額×転換指数 

 

※ 拠出総額は,年収に算定率(被用者の 場合33%)を乗じた額を,全就労期間 について合算する。転換指数は,受給 開始年齢が高いほど高く設定されてい る。 

 

所得再分配 下記「国庫負担」参照。 公的年金の財政方式 賦課方式 国庫負担 最低手当やみなし拠出,社会的繰上年金 など,保険料に対応しない給付が支給さ れる場合。 

 

左に同じ。ただし,下記のように,最低 手当の保障はない。

 

年金制度における最低保障 低年金者かつ低所得者については,

 

①最 低手当(trattamento minimo,最大月額 524.34ユーロ,2022年)まで,

 

および,

 

②60歳以上について,年齢別に社会的増 額 措 置(maggiorazione sociale, 月 額 25.83ユーロから136.44ユーロまで,2022 年)までの増額等がある。 拠出方式で支給される老齢年金について は,左のうち,②のみ存在。 

 

無年金者への措置 イタリア在住の67歳以上(2022年の場合)の低所得者(単身者では年収6079.45ユー ロ以下,2022年)には,社会手当(assegno sociale)を支給(月額467.65ユーロ×13 か月分,2022年)。

 

ただし,手当の満額と前記年収を13か月で割ったものとの差額を 支給。 

 

公的年金と私的年金 補足的保障制度(previdenza complementare)により公的年金を補完。

 

また,伝統 的に退職手当(trattamento di fine rapporto,TFR)と呼ばれる退職金制度も存在。 

 

(中益陽子・亜細亜大学法学部教授)  

 

税 財 源  企業・個人年金 169 各国の年金制度(イタリア) 

 

イタリアの年金制度 中益陽子(亜細亜大学法学部 教授)

 

 1 .制度の特色  イタリアの公的年金制度は,賦課方式で運営され る強制加入の公的年金制度を 1 階部分として,また 積立方式で任意加入の私的年金制度(補足的保障制 度と呼ばれる)を 2 階部分として整序されている。  

 

公的年金制度の対象者は,基本的に就労者のみで あり,日本のような国民皆年金の発想を現在はもっ ていない。

 

ただし,この場合の就労者とは,広く自 営業者を含む。現行では,伝統的なタイプの自営業 者(自営農,職人,商人)のほか,準従属労働者と 呼ばれるタイプの就労者(法的には自営業者に分類 されるものの,経済的・社会的従属性の点では被用 者と同視される者)などにも公的年金制度への加入 を義務づけている点が注目される。  

 

もう 1 つのイタリアの制度の主たる特色としては, 納付した保険料に年金額を連動させる「拠出方式」 という年金算定方式(いわゆる「概念上の拠出建て 方式」)が採用されていることが挙げられる。

 

同様 の方式は,スウェーデンやポーランドなどでも採用 されているが(いずれも1999年の年金改革において),

 

 イタリアでは,1995年のディーニ改革のときに導入 され,他国に先んじる形となった。

 

 2 .沿革  イタリアの公的年金の端緒として挙げられるのは, 肉体労働従事者に対して老齢給付を保障した1898年 の全国保障金庫の創設である。もっとも,この全国 保障金庫への加入は任意であり,強制保険への転換 は1919年だった。  

 

その後第 2 次大戦を経て,強制加入の適用対象者 が一部の自営業者にまで拡大したこと,またとくに 1960年代に保険財政バランスを欠く「寛大な」給付 が支給されたこともあり,年金財政規模が膨らみ, 制度を圧迫するようになった。  

 

しかし,1990年代におけるEU加盟を機に,これ 以降は,各種の制度合理化措置が導入されている状 況である。合理化措置の主たるものは,拠出連動型 の年金算定方式である拠出方式の導入と報酬連動型 の算定方式(報酬方式)の段階的廃止,そして老齢 年金受給年齢の引上げの 3 点であろう。  

 

他方で,公的年金制度を補完するものとして,補 足的保障制度も創設された(1992年)。それ以降, これまで何度か制度の加入促進措置等が講じられた ものの,必ずしも推進姿勢が貫かれているともいえ ず,不透明な状況にある(後述の 9 参照)。 

 

3 .制度体系の概要  

イタリアの公的年金制度は,被用者および自営業 者の大部分を対象とする賦課方式の制度体系である。  

 

現在では,ほとんどの被保険者がINPS(全国社 会保障機関)下の各種の年金事業に強制加入する(主 として自由専門職を中心に,INPS下にない特殊な 金庫を有する就労者もいる)。

 

INPS下にあって最大 の加入者を誇るのはAGO(一般強制保険)と呼ば れるもので,ここにFPLD(被用者年金基金)およ び一部の自営業者のための特別事業,そして準従属 労働者や基金の加入資格をもたない自由専門職のた めの独立事業等が含まれている。

 

また,無償で家政 活動を行う16歳以上65歳以下の男女(いわゆる主夫・ 主婦)には,特別基金(主婦・主夫基金)が用意さ れ,任意加入の途が開かれている。  

 

一方, 2 階部分である補足的保障制度は,就業者 から無収入者(労働所得を欠くが潜在的対象者とさ れるのに実質的に妨げがない主体)までを広く対象 とする任意加入の制度である。

 

財政方式は,積立方 式を採用している。制度の運営主体である年金基金 のタイプには,労働協約や就業規則によって企業単 位等で設立される交渉型基金(閉鎖型基金)が存在 することからして,補足的保障制度は,企業年金と しての性格ももつといえよう。

 

ただし,後述のとお り( 9 参照),企業を単位とするものは部分的であり, 単に私的年金と考えるのが適切と思われる。 

 

4 .給付算定方式,スライド方式,支給開始年齢

 

 ⑴ 給付算定方式等  給付算定方式は基本的に 2 種類ある。就労引退前 の報酬にもとづいて年金額を算定する報酬方式と, 納付した保険料額に年金額を連動させる前述の拠出 方式である。

 

2012年以降の新規加入者にはすべて拠 出方式が適用されることとなり,報酬方式は将来的 年金と経済 Vol. 41 No. 2 170 な廃止が予定されているため,ここでは,拠出方式 のみ紹介する。  

 

拠出方式では,「拠出総額」に「転換指数」を乗 じて年金額とする。  

 

拠出総額は,年収に算定率(被用者の場合33%) を乗じた額を,全就労期間についてすべて足して算 出する。この拠出額とは,あくまで計算上のもので あり,実際に保険料が積み立てられているわけでは ない。転換指数は,年金受給開始時における受給権 者の年齢に応じて異なり,受給開始年齢が高いほど, 転換指数も高く設定されている。

 

転換指数は,2010 年以降は 3 か年ごと,また2019年からは 2 か年ごと に徐々に引き下げる方向で見直されており,2021年 および2022年については,57歳の4.186(その前の 2 か年は4.200)から71歳の6.466(同6.513)までと なっている。

 

たとえば,40年間保険料を納付し,65 歳で年金を受給する被用者は,40年に算定率33%と 65歳の転換指数5.220を乗じて年金額を算定するた め,現役時代の平均年収の68.904%(同69.3528%) の年金を受給できることとなる。  

 

なお,この転換指数は,1995年の年金改革によっ て導入されたものであるが,導入直後の同指数は, 57歳の4.720%から65歳の6.136%までであった。

 

こ のため,この30年弱で,同指数が適用される年齢の 幅は上方向に拡大し,また最大で15%ほど(65歳に 関して,1996年から2009年までの6.136から2021年・ 2022年の5.220へ)低下する結果となっている。

 

 ⑵ 支給開始年齢  老齢年金の受給年齢は,2011年のフォルネーロ改 革以降,政策上最も関心をもたれているテーマの 1 つである。  

 

受給年齢に関する同改革の概要は,2018年以降, 老齢年金の受給年齢を,性別や就業状態にかかわら ず原則として66歳に引き上げるというものであった。 

 

なお,この年齢は,平均寿命の延びによって 2 年ご とに調整されることになっており,実際の受給年齢 は,2019年から2022年までは67歳である(これに加 えて,20年以上の保険料納付,および受給年金額が 社会扶助給付である「社会手当」額の1.5倍を超え ることも必要。

 

また,受給年齢が71歳以上のときに は, 5 年の保険料納付でよい)。

 

ただし,繰上年金 と呼ばれる例外措置が多く設けられており,実際に は,67歳よりも前に年金を受給することができるケ ースがある(以上,本誌37巻 2 号「イタリアの年金 制度」参照)。  

 

この受給年齢の点で最近注目される動向は,2019 年に新しく設けられた「クオータ100(定数100)」 制である。

 

これは,具体的には,62歳以上の年齢か つ38年以上の保険料納付期間を要件に年金の受給を 認めるものである。

 

保険料納付期間および年齢の両 者を合わせて「100」以上での年金受給を認めるこ とからこのように呼ばれるが,被保険者のイニシア ティブで年齢と保険料納付期間を自由に組み合わせ ることができるわけではなく,上記のような一定の 制限が設けられている。  

 

この仕組みは,フォルネーロ改革を硬直的なもの とみて,年金受給年齢の弾力化を意図して導入され た。

 

つまりは,年金の早期受給を可能にする仕組み の 1 つということになる。

 

もともとは2021年までの 試験的措置であったが,2022年予算法(2021年12月 30日法律234号)によって2022年も実施されること となり,なおかつ定数は「102」となっている(す なわち「クオータ102」)。

 

具体的に変更されたのは 年齢である。すなわち,38年以上の保険料納付期間 の要件はそのままに,年齢は64歳以上に変更された。 

 

2023年に予定されている年金改革において恒久的措 置として定着する可能性もあり注目される。

 

 5 .負担,財源  財源は基本的に保険料で賄うが,保険料に対応し ない給付については租税が投入される。  

 

保険料は,就労者のカテゴリーごとに決定される。 たとえば,被用者ならば,賃金(税控除前)の33% である(使用者負担23.81%,被用者負担9.19%, 2022年)。  

 

自営業者の保険料は職業に応じて異なるが,概ね 20%台半ばである(ただし,準従属労働者は,労働 者と同じ33%)。

 

なお,保険料は,職人や商人,自 営農については当該自営業者自身が全額負担するの に対して,

 

準従属労働者の場合は,保険料の 3 分の 2 を注文主が, 3 分の 1 を準従属労働者本人が負担 するという労働者と似た仕組みとなっている。

 

 171 各国の年金制度(イタリア) 集団や地域等,一定の集団ごとに設立される基金),

 

 ⅱ)開放型基金(銀行や保険会社等が設立する基金。 一定集団単位での加入と個人単位での加入のいずれ も可能),

 

ⅲ)PIP(Piano Individuale Pensionistico, 個人型年金プラン。保険会社だけが設定できる特殊 な生命保険契約),

 

ⅳ)既存型基金(1992年の補足 的保障制度の創設前からすでに存在した私的年金基 金)およびⅴ)FONDINPS(集団的な加入方法の ない産業や企業に属する者のためにINPS下に設立 された基金。

 

後述の退職一時金の積立金を移換する ことが可能)の 5 つの形式により提供すると整理さ れている。  

 

ⅰ)やⅱ)の一部,ⅴ)等のように,一定の集団 を単位とする加入方法は,集団補足年金方式とされ, 後述のように,退職一時金(退職手当 trattamento di fine rapporto。以下,「TFR」という)の積立金 を移換できる点や対象者の点(集団補足年金方式の 方が若干狭い)等で,個人単位での加入方式(個人 補足年金方式と呼ばれる)と区別される。

 

 ⑵ 補足的保障制度の財政確保措置  このうち,とくに注目されてきた仕組みはTFR の積立金の移換である。  

 

TFRとは,イタリア民法典2120条において,あ らゆる従属労働関係の解消につき労働者が請求権を もつとされる退職一時金である(公務員については 別の仕組みがある)。

 

額は,当該労働者の年収を 13.5で割った値を上限として,これに勤続年数を掛 けることで算定する。  

 

このTFRが捕足的年金制度との関係で注目され てきたのは,2004年のベルルスコーニ=ロマーニ改 革で,労働者が特段の意思を表示しないときには補 足的保障制度へ加入したものとし,併せてTFRの 積立金を補足的保障制度(2005年に集団補足年金方 式のみに限定)へ自動的に移換する仕組みを導入し たためであった(「黙示の合意」と呼ばれる)。  

 

もっとも,このように,補足的保障制度の加入を 財源面で強力に後押しするとみられたTFRである が,2015年以降は,その受取り方法の選択肢が増え (労働者が明示的に意思表示をすれば,毎月の賃金 として受け取れるという仕組みが新たに設けられ た),補足的保障制度にとっての影響度は相対的に 

 

6 .財政方式,積立金の管理運用  

拠出方式にせよ,報酬方式にせよ,公的年金制度 については賦課方式で運営されている。  補足的保障制度は,積立方式である。 

 

7 .制度の企画・運営体制  

年金制度の企画は,労働社会政策省(2022年 4 月 現在)が担当している。  公的年金制度を運営する中心的な機関は,前述の INPSである。 

 

8 .最近の論議や検討の動向・課題  

(今後の見通し,評価を含む)  イタリアでは,2023年に次の大きな年金改正を予 定している。逆にいえば,それまでは根本的な制度 改革は行われない。2023年年金改革に向けての具体 的な議論は,2022年11月から始まることになってい るが,イタリアでは,政府の経済・財政関連の政策 方針について記した経済財政報告書(DEF。議会 に対して政府の政策を示す趣旨のものであって法的 な拘束力はないが,政府を政治的に拘束する)が毎 年 4 月10日までに議会に提出されるため,この時期 までには年金制度改革の骨子が提示されるものとみ られている。  

 

いずれにせよ,ドラギ首相の考えとしては,フォ ルネ―ロ改革によってもたらされた年金受給開始に 関する硬直性(すなわち,一定年齢にならなければ 老齢年金を受給できず,しかも同年齢が次第に引き 上げられる)を弾力化すべきとの方針であるため, 拠出方式との関連性をいっそう強めるような(すな わち,一定の保険料納付さえ行えば,年金受給を認 めるような)内容の改革となる可能性があると指摘 されている。なお,この方針が現れた政策の代表例 とされているのが, 4 ⑵でみたクオータ制である。

 

以下の内容については、ここでは、省略しています。

 

 

○ フィレンツェで暮らしてみれば―年金夫婦のイタリア生活

三橋 昭/マガジンハウス

 

 

○ 間違いだらけの新NISA・イデコ活用術

田村正之/日経BP 日本経済新聞出版

 

 

○ 李家幽竹 花風水カレンダー2024 飾るだけで幸せ満開! ([カレンダー])

李家 幽竹/世界文化社

 

 

○ 世界でいちばん役に立つ! 「目安」の早わかり便利帳 (青春新書プレイブックス)

ホームライフ取材班/青春出版社

 

 

○ 現代イタリアの社会保障―ユニバーサリズムを越えて

晴洋, 小島,桂樹, 鈴木,夏子, 田中,理枝, 宮崎,陽子, 中益,眞男, 小谷/旬報社

 


 

イタリア 公的年金の体系_b0398201_06490249.jpg