シカで陽性率36% ヒトからコロナ拡大 昨冬にオハイオ州大調査
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電子顕微鏡で見た新型コロナウイルス=米国立アレルギー・感染症研究所提供
新型コロナウイルスがヒトから野生のシカに感染が広がっていることを米オハイオ州立大などのグループが確認した。
シカで広がった新型コロナが再びヒトに感染する恐れもあり、グループは監視体制が急務だと訴える。
オハイオ州では昨年12月半ば、1日の新規感染者数が7日間平均で1万2千人を超え、流行のピークを迎えていた。
グループはそれから6~11週間後、州内9カ所で1~3回調査した。
■陽性率は36% 計360頭のシカの鼻から検体を採り、PCR検査を実施すると、全体の36%にあたる129頭で陽性が確認された。
二つの検体から生きたウイルスを分離でき、感染力があるウイルスをシカが排出することも確かめた。
さらに、6カ所の調査地で、14の検体からウイルスのゲノム(全遺伝情報)も得られた。
遺伝情報に基づく系統で見ると、3種類。いずれもヒトで見つかっており、一つはオハイオ州で当時最も優勢な系統だった。
また、調査地ごとに同一の系統のウイルスしか見つからなかった。
このため、グループは、ヒトからウイルスが持ち込まれた後にシカからシカへの感染も起きていたとみている。
■イヌやネコ、ゴリラなどにも
新型コロナは、イヌやネコ、ゴリラなどヒト以外の動物に感染することが知られている。
2020年春に欧州では、イタチ科のミンクの農場で大規模なクラスターが起きた。
オランダのグループの調査で、ミンクで広がったウイルスがヒトに感染していたことを示すデータも得られている。
一方、ヒトと距離を置いて生活する野生動物は情報が限られ、実態はわかっていない。
今回とは別のグループが、米国4州で計152頭のシカの血液を調べ、4割で新型コロナの活動を抑える中和抗体が見つかったと報告している。
中和抗体があると、新型コロナに過去に感染したことを示唆する。
ただ、感染当時の状況はわからず、別の種類のコロナウイルスに対する中和抗体が誤って検出された可能性も考えられた。
今回はPCR検査なので、その時点でシカがウイルスに感染していることを示す。
■「これまでにない性質になってヒトに戻ってくる恐れも」
グループによると、シカからヒトへの感染は確認されていない。
だが、「新型コロナが米国の野生動物に対して感染能力を持ち、進化の新しい道を開く可能性がある」として、監視体制の確立が急務と訴える。
新型コロナの起源を調べる世界保健機関(WHO)の調査団に参加した国立感染症研究所の前田健・獣医科学部長も「シカは感染が広がりやすい動物だということがはっきりした。
ウイルスが動物の種を超えて広がれば、新たな変異が積み重なり、これまでにない性質になってヒトに戻ってくる恐れもある。
ウイルスを広げないことが重要で、世界的にデータを取って監視を強めていく必要がある」と指摘する。
一方、調査日が限られているにもかかわらず、陽性率が4割近い非常に高い値だった。
「調査のタイミングがちょうどシカの感染拡大時期と重なったのか、シカでは感染が持続しやすいのか、現段階では判断できない」と話す。
前田さんのグループも国内で昨冬、シカ296頭(5県)、ハクビシン64頭(2県)、タヌキ36頭(3県)を調べたが、このときには新型コロナの感染は確認されなかったという。
研究結果は科学誌ネイチャー(電子版)で24日に公表される(https://www.nature.com/articles/s41586-021-04353-x)。(阿部彰芳)
朝日新聞社
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