<KYB改ざん>データ欠落、安全揺らぐ 免震装置不正

10/18(木) 6:30配信 、 最終更新:10/18(木) 6:30
毎日新聞 配信より


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油圧機器メーカーKYBと子会社による免震・制振装置の検査データ改ざんは、免震装置の性能を偽っていた東洋ゴム工業に続き、国内の免震装置への信頼を大きく損なった。KYBは建物の安全に大きな支障はないとしているが、検査データが残っていない製品もあり、不信感を払拭(ふっしょく)するには時間がかかりそうだ。

 KYBは16日の記者会見で、不正な免震・制振オイルダンパーを設置した建物を検証したとしたうえで、「震度7程度の地震にも十分耐えられることを確認した」として安全性にただちに影響しないことを強調した。ただ、建物の耐震性をサポートする免震・制振装置の品質を損なう不正が発覚したことから、国土交通省は「建築物の安全・安心に対する国民の信頼を揺るがす行為」として、同社の品質管理態勢を厳しく監視する方針だ。

 KYBによると、今年8月に製造工場の従業員の指摘で問題が発覚した後、国交省の指示を受け、安全性の検証を実施。構造計算の専門機関に依頼し、検査データが残るもののうち、基準値からのずれが大きい製品が使われた建物を選び、免震ダンパーで5物件、制振ダンパーで2物件を検証した。

 だが、データが残っているのは2003年1月以降の製品。データ改ざんが始まった疑いがある00年以降の製品や、03年以降の製造分でも一部のデータは残っていないという。検証では、基準値からのずれが42.3%と最も大きかった製品を使っていた建物についても「安全」とされたという。

 一方でデータのない製品は免震用で5137本、制振用で3232本もあり、さらにずれが大きい製品が存在する可能性は否定できない。同社は、製造時期によって基準値からのずれに一定の傾向があることから、「残っているデータから、これ以上ずれの大きな製品はないと推定している」と説明する。既に建物に設置されている製品の性能を検査するのは技術的に難しいため、同社は「データがなくても不適合の疑いがあるものは交換する」としている。

 今回の問題では、基準値からのずれは特に免震用で大きく、ダンパーの動きが基準より硬くなっていた。地下にある免震ゴムは変形することで揺れを吸収し、上部の建物に地震の揺れを伝えないようにする役割がある。ダンパーは免震ゴムの動きを調整しており、硬すぎると免震ゴムの変形は抑えられる半面、上部が揺れやすくなる。耐震設計に詳しい福岡大の高山峯夫教授(免震構造)は「(ダンパーの動きが硬いと)足元で急ブレーキがかかったようになり、高層建築物になるほど揺れやすくなる」と説明。耐震性能については「免震ゴムや数種類のダンパーなどを組み合わせている建物が多いので、大きな影響はないのでは」と話す。

 免震装置を巡っては、東洋ゴムによる免震ゴムのデータ改ざんが15年に発覚した。国交省によると、免震ダンパーはゴムのように建物の重みを支える部分に設置されていないため、交換は比較的容易という。一方、制振ダンパーは壁に覆われているものがあり、交換作業は大がかりになるとみられる。

 国交省の担当者は「東洋ゴムの場合は、基準に適合する製品を作る能力が欠けていたことを隠すために改ざんしていた。今回は品質管理の問題。ただ、再発防止策が示され、新たな検査態勢ができるまでは厳しく監視することになる」と話している。【花牟礼紀仁、池田知広】

 ◇製造業、現場任せ横行

 免震・制振オイルダンパーで国内トップシェアのKYBで不正が発覚、昨秋以降発覚した日本のものづくり企業の不正に終わりが見えない。背景には、コンプライアンス(法令順守)への低い意識、現場任せの品質管理、納期主義といった共通の問題が横たわる。

 「(検査で不適合になると)製品の分解や調整に3~5時間かかることが書き換えをした一因だと思う」。KYBの中島康輔会長兼社長は16日の記者会見で、納期の問題もあり、作業のやり直しを避けようとしたことが不正につながったとの認識を示した。

 品質不正を巡っては昨秋以降、神戸製鋼所や三菱マテリアル、東レ、日産自動車、SUBARUなど日本を代表する製造業で続出した。過去、厳格な基準に対応してきたという安全性への過信が共通。政策研究大学院大学の橋本久義名誉教授(企業論)は「日本では国や企業の品質基準が高いという意識があり、少々基準を下回っても安全だという現場の甘い認識が不正の裏側にある」と指摘する。

 またKYBでもこれまで不正が発覚した企業同様、甘い企業統治が不正の温床となっていた面がある。中島社長は会見で「現場で異常があれば上司に報告することを徹底してきた」と強調したが、不正発覚は検査と関係ない従業員の指摘がきっかけ。検査現場では不正が日常化し、改ざんの手法などは検査員の間で「口頭で脈々と受け継がれてきた」といい、経営幹部の管理体制は不十分だった。

 不正は少なくとも検査データが残る2003年1月から続いており、この間、05年の元1級建築士による耐震データ偽造事件や15年の東洋ゴム工業の免震偽装、旭化成子会社のくい打ちデータ改ざんなどが次々と明らかになったが、KYBでは不正を自ら断つ自浄作用は働かなかった。組織のガバナンス(統治)に詳しい久保利英明弁護士は「ものづくりの原点である『品質第一』の発想が『利益第一』に変わり、自己の(不正)行為を正当化している」と指摘する。品質管理を後回しにする組織体制を変えない限り、信頼を取り戻すのは難しそうだ。【松本尚也】


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私のコメント :  平成30年10月18日、KYBと子会社による免震・制振装置の検査データ改ざんは、免震装置の性能を偽っていた東洋ゴム工業に続き、免震装置への信頼を大きく損なった。KYBは、検査データが残っていない製品があり、問題解決には、国内外で、時間がかかりそうだ。