小説「ウォール街の幽霊」(1) | 希望が未来への力

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プロローグ「ニューヨークの朝」

2025年、1月。
ニューヨーク、マンハッタンのウォール街。午前8時45分。

J.P.モルガンのトレーディングフロアはいつもと変わらぬ熱気に包まれていた。ディーラーたちはターミナルを見つめ、開場前の先物取引を追っている。だが、その空気は一瞬で凍りつく。

「…おい、ダウ先物がマイナス二万?そんな数字ありえない!」
「サーバーが落ちたのか?」
「いや違う、複数のマーケットで同じ表示だ!」

同時刻、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティバンク。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)のシステムも次々にエラーを吐き出し、赤いアラートが画面を覆った。

さらに異常は拡大する。
ウェルズ・ファーゴやバンク・オブ・アメリカのATMが全米で一斉に停止。クレジットカード決済はエラーを返し、朝の通勤客はコーヒーすら買えない。
CNNの速報テロップが流れる。

「全米の銀行ネットワークに障害 市民生活に影響」

だが、それは単なるシステム障害ではなかった。

ワシントンD.C.。財務省の作戦室では、緊急会議が開かれていた。
「SWIFTネットワークに異常なアクセスログがある。だが、オランダ本部では異常を確認できていない…」
「つまりこれは、米国内のシステムを直接狙った攻撃だということか?」

沈黙。

誰もが思い出すのは、あのユナイテッド航空の不可解なシステムダウン事件。
航空の次は、金融。
黒幕は確実に“アメリカの血管”を狙いに来ていた。

そして、その頃。
ニューヨークの小さなアパート。
アレックスのスマートフォンに一通の暗号化メッセージが届く。

―――「ゲームは続いている」

 

第1話「ドルが止まった朝」

ニューヨーク、午前10時。
アッパーイーストサイドのカフェに、長蛇の列ができていた。
原因はただひとつ――カード決済が使えないこと。

「なんでカードが全部エラーなのよ!昨日まで使えたのに!」
「現金? そんなの持ってないよ!給料は全部口座にあるんだぞ!」
「ATMも止まってるって。どうやって現金手に入れろっていうの?」

店員も混乱していた。
「すみません、現金払いしか受け付けられないんです。システムが全部ダウンして…」

街に出ればさらに深刻だった。
ブロードウェイでは観光客が途方に暮れ、スマホを掲げて叫んでいた。
「UberもPayも全部決済できない!ホテルもチェックアウトできないんだぞ!」
「地下鉄カードの販売機も全部エラー!帰れないじゃない!」

マンハッタンの銀行前には長い列。
「ATMが動かない?ふざけるな!俺の金を返せ!」
「窓口も閉まってる!昨日まで普通に預金できたのに!」
誰かが怒鳴り、誰かが泣き、そして誰かは「陰謀論だ!」と叫んでいた。

同時刻、ワシントンD.C. 財務省地下のシチュエーションルーム。
FRB(連邦準備制度理事会)、財務省、FBI、NSAが集まり、緊急合同会議が開かれていた。

「連邦準備銀行の決済ネットワークFedwireが部分的に遮断されています。これが復旧しないと、国債の清算が止まる」
「つまり、政府の資金繰り自体が止まるってことか?」
「はい。最悪の場合、アメリカは“技術的デフォルト”に陥る可能性がある」

会議室に緊張が走る。
米国債は“世界の基軸資産”。その取引が止まれば、ニューヨーク発のパニックは瞬時にロンドン、フランクフルト、東京へと波及する。

FBIサイバー部門の女性分析官が報告を続ける。
「攻撃のトレースから判断するに、これは単純なDDoSではありません。複数の銀行のコアシステムに、同時に“偽のトランザクション”を挿入している痕跡がある。まるで見えない誰かが、内部から操作しているかのように」

FRB議長が椅子に深く腰を下ろし、唸る。
「つまり、我々の金融システムの“根幹”が乗っ取られている可能性があると?」

財務長官が口を開く。
「これは9.11以来の非常事態だ。いや、もしかすると、それ以上かもしれん…」

その頃。
ニューヨーク証券取引所の地下にあるサーバールームでは、赤いアラートランプが点滅していた。
画面に浮かび上がった、見慣れぬプログラム名。

“Black Ledger”

誰かが、アメリカ経済の心臓に毒を流し込んでいた。