美咲は一瞬の早業で警備兵が持っている荷物を蹴り上げると、前方へ弧を描くように飛んでいった荷物は空中で爆発した。
「何!」
それはこの世界の人間にとっては初めての爆発物だったのだ。
「もう少しでワシらは死ぬところじゃったのう…。でも、さっきの男はあの子に手渡したのじゃ。つまり…」
「あの子が狙われているってことだわ!」
命を救われた警備兵は助けられたとは思っていないようだ。感謝するどころか美咲の首を絞め上げた。
「うぅ…、苦しい…」
「貴様! あれで俺達を殺して逃げようとしたな!」
「それは違うわ! 彼女は貴方を助けたのよ!」
エレンは抗議の視線を向けた。
「そんな話、信じられると思ってるのか! 死ねぇ!」
美咲の顔がだんだん青くなっていく。
「やめてよ! 誰か、あの子を助けて!」
その光景を数人の民衆が見ていたが、保安局には逆らえないのだ。エレンとバド老師がもう駄目かと思った、その時だった。
「ぐはぁ…」
突然、警備兵の背に大きな剣が突き刺さった。首を絞めている指から力が抜けると、そのまま崩れ落ちた。そして、美咲も同じく…。
「もう、見てはおれん!」
そこに立っていたのは全身黒い装備で固めている長身の男である。残りの警備兵達は彼の姿を見ると逃げ出した。
「こ、黒竜だぁーーー!」
彼は剣を抜くと、血で汚れた剣を布で拭き取り、腰に収めた。
「クアジュ! 何で、今頃になって…!」
「エレン、すまなかった」
彼は三人の鎖を切った。バド老師が不思議そうな顔で彼を見る。
「エレン、この方は誰じゃ?」
「私の恋人だったクアジュ・セーガンよ…」
「エレン、許してくれ。色々な事情があったんだ」
「とにかくその話はあとにして、あの子の無事を確認するのが先じゃろう!」
バド老師は走り寄って美咲を起こした。何とか息はしているようだ。
「よし! 俺が運ぼう! どっちへ行く?」
「それなら、サレイトスのロティア橋に行って。途中で別れた仲間がいるの」
「了解!」
クアジュを含めた四人は、再びロティア橋に向かった。
バジュアとザフィネスはガーティア渓谷の南東端まで来ていた。
「どこまで行くつもりだ? そこからは妖精の聖域だ!」
南東端から五十メートルのところには、それがわかるように妖精の姿をした彫刻建てられている。
「もちろん、わかっている」
バジュアはその先へ足を踏み入れた。すると青白い光に包まれた女性が宙に現れた。それはまるで妖精か女神のように思えるほど美しい女性である。
「ここは私たちの聖域なの。お願い、それ以上こないで…。お願い…」
その女性が懇願するように悲しい声で語りかけると、風のように消えていった。バジュアはその声を無視するかのように更に奥に進んでいく。
「貴様、男の分際であの女性の頼みを聞けぬというのか!」
「あれを妖精だと思う貴様にはわからないだろう」
「何? それはどういうことだ?」
「いいから、黙ってついてこい!」
ザフィネスは彼のあとについていった。すると、大きな洞穴の奥に何かが置かれているのが見える。
「これが何かわかるか?」
「この世界にこんなものはないはずだ」
そう、それはこの世界の人間にはわかるはずがないホログラフを投影する機械だった。バジュアはその機械のボタンを押した。すると、小さな穴から光が出て、先程の女性が再び現れた。
「ここは私たちの聖域なの。お願い、それ以上こないで…。お願い…」
「そんな馬鹿な! 俺達が長い間信じていたのは妖精ではなかったということか!」
「そういうことだ。それだけではない、そこの岩を見ろ。まるで、何かを塞いでいるかのように置いてあるような気はしないか?」
「確かにそうだな…」
ザフィネスはバジュアが指した背丈ほどある大きな岩を動かそうとした。しかし、ひとりの力ではびくともしない。
「貴様も手を貸せ!」
二人は力を振り絞ってその岩を動かした。すると、暗くてよく見えないが、その奥があるらしいことは確認できた。
「何? ここは南東端じゃなかったのか?」
「とうとう知られてしまったか…」
黒いスーツ姿で仮面を付けている男が洞窟の前に立っていた。
「貴方は黒い稲妻!」
「何? 貴様の知り合いか。そうか、この男が黒い稲妻か…。それにしても、気配を覚られずに俺達に近づくとは只者ではなさそうだな」
バジュアはその男から何かしらの威厳を感じ取った。だが、それは以前にどこかで会っているように感じた。
「ザフィネス皇帝、その先は行かないで頂きたい。今日のところは引き返してはもらえぬか」
「その前にひとつだけ教えて欲しい。その先には何があるのだ?」
「貴方には知る必要のないことだ。それに下手に深入りすると、命を落とすことにもなる」
「何、俺を脅しているのか?」
今にも向かっていきそうなザフィネスをバジュアが止めた。
「やめておけ、ザフィネス! 帰るぞ!」
二人は黒い稲妻に敵対するような視線を向けながら、洞窟を出て引き返した。その時、救われたと感じたバジュアの心をザフィネスは知る由もなかった。
俺はエシャと別れた後、ガーティア渓谷へ向かっていた。ディーザを出て、システィアに入っていた。民家は所々で集落をつくるように建てられている。遠くから子供達が遊ぶ声が聞こえてくる。
(子供はいいなぁ。という俺もまだ子供だった…)
突然、スーツを着た男が近づいてきた。
(あれは! もしかして俺達の世界の人間じゃないか!)
俺は立ち止まった。
「君は瀬戸拓也君だね?」
「はい、そうです。もとの世界に戻してくれるんですか?」
「その話はこのプレゼントを受け取ってからにしてほしい」
俺は彼が持っている黒いガムテープで頑丈に巻かれた箱を受け取った。
「これは何ですか?」
「気になるなら、開けてみるといい。それでは…」
それだけ言うと、彼は姿を消した。
「あっ!」
(何だ! 今のは? それよりもこの箱は何だろう?)
目の前に子供達が遊んでいるボールのようなものが飛んできた。
「ねぇ、こっちに蹴ってくれる?」
十メートル先にいる小さな男の子が声をかけてきた。
(俺だって、サッカーぐらいできるさ)
受け取った箱をそこに置くと、ドリブルしながらその男の子と一緒に遠くで遊んでいる方へを駆けていった。
「わぁ~! すご~い! ボクも…」
その時だった。後方から大きな爆発音が聞こえた。
「えっ!!!」
そう、先程受け取った箱が爆発したのだ。
(まさか…、そんな…、俺が狙われているのか!!)