「なるほどね。つまり、貴方もアッダムってわけね」
「アッダム? 何それ?」
「そっちの世界には聖書とかいうものがあるんでしょ。そこに書いてあったわ。詳細は抜きにすると、こっちの世界がエデンの園。神という外界の力によってエデンの園に置かれたアダムがあんた達のこと。ここは聖書とは違うから外界からの者達をこっちではアッダムと呼んでいるだけよ」
「なるほどね。そういうことなら俺も美咲もアッダムだ。ところで、ガードナーさんとは知り合いらしいけど、さっき二人の話の中に出てきたザフィネスって誰?」
「あぁ、あいつのことか…。平たく言えば、私達の敵よ」
「キスカ、その話は後にして、早く出発しないとディテールの封印前に到着できないぞ!」
ガードナーの声がモニター画面の外から聞こえてきた。
「ディテールの封印って、何?」
「いずれわかるはずよ。とにかく行くわよ。こっちのことは心配しなくてもいいから、彼女の家族のことはわかってるんでしょ? 何とかしないと、マズいんじゃないの?」
「あっ! いけねぇ、忘れてた! それじゃあ、キスカさん、ガードナーさん、彼女のことお願いします!」
俺はモニター画面の前で丁寧に頭を下げた後、システムを終了させた。
携帯を見ると、午後六時を過ぎた頃だ。メールの着信がある。優子からだ。
“美咲、どこにいるか知らない?”
(このままではマズいよな。でも、何て説明したらいいんだろう。ゲームのこと、正直に話した方がいいのかな…)
確かにマニュアルには他言してはいけないと書いてある。しかし、だからと言って行方不明のままで通すわけにもいかないのだ。それに、警察の動きも激しくなれば、色々と面倒なことになりそうなのは目に見えている。
俺は、優子に美咲のお父さんと家に来るようにとメールした。それから三十分ほどして、二人が揃って現れた。美咲のお父さんは入ってくると俺の胸倉を掴む。
「拓也! てめぇ、美咲をどこに隠しやがった!」
「い、今から、ちゃんと…、説明しますから…、苦しい…」
「ちょっと、お兄さん! 拓也に乱暴しないで! 何か事情があってのことですよ。とにかく拓也の話を聞きましょう」
美咲のお父さんは俺の胸倉から手を離した。
「わかった! そのかわり、どこにいるのかちゃんと説明しろよ!」
(困ったなぁ…。こんな状況で、別世界にいるなんて言えるわけないよな…)
俺の困った表情を察した優子は話題を切り替えた。
「美咲さ、時々放浪癖があるから、きっと戻ってくると思うよ。そうだ! 拓也、この間美咲と一緒にコーチャンフォーに行った時のゲームやらせてよ」
「ん? 拓也、面白いゲームでも買ったのか? 俺にも見せろよ。優子の言うとおり、美咲は確かに放浪癖はあるからな。そのうち戻るだろ。ところでどれだよ?」
俺はパソコンを起動させてよいものか迷った。まさか、別世界と繋がっている交信システムなんて間違っても言えないからだ。
「いや、それがさ…、思っていたほどの内容じゃなくて…」
「どうせ、パソコンには入ってんだろ」
美咲のお父さんが俺のパソコンを起動させた。
「あっ! 勝手に触らないで下さいよ…」
「へぇ~、そのゲームって、色々と決まりごとがあるんだぁ。ゲームの内容も話しちゃいけないって書いてあるけど、何かヤバいゲームなの?」
優子がゲームの箱を見つけてマニュアルを読んでいる。
「おい、まさか十八禁のアダルトゲームじゃないだろうな?」
パソコンの電源が入り、システムが起動した。自動で起動するように設定しておいたのだ。
モニター画面にキスカが映し出される。
「あれ、あんたは誰?」
パソコンの前にいる美咲のお父さんを見て、不思議に思っているようだ。
(マズいことになったな…)
「おい、拓也。この女、何かしゃべってるけど、どうやってコマンド打つんだよ?」
「えっ? 何々、そのゲームって対話できるの? 何か面白そうだね」
優子までのぞき込んでいる。
「あっ、その女の子の服。彼女と同じ服じゃない! ガードナー、ちょっとその子をこっちに連れてきて」
「何だ、その女と同じ子でも現れたのか?」
「何? 何か、ゲームの中で話しているみたいだけど、どんな内容なの?」
優子が俺に問いかけた瞬間、美咲のお父さんが絶叫した。
「あれは! み、美咲じゃねぇか! おい、どうなってんだよ! 美咲がゲームの中にいるって、どういうことだよ!」
「ちょっと、どいて下さい!」
俺は美咲のお父さんをパソコンから引き離した。
「キスカさん、今、映っていたのは彼女のお父さんと友達なんです!」
「なるほどね。そういうことだったのね。ねぇ、全部話したの?」
「いや、まだです…」
「実は、全部話すと貴方はこっちに転送されてしまうのよ。でも、彼女のそばにいてあげられるのは貴方しかいないと思うの。今はこれしか言えないわ。あとは貴方が判断してね」
美咲のお父さんと優子は俺とキスカの会話を聞いて驚いている。
「な、なぁ、拓也。これって、マジで会話してるのか? 今の内容から察すると、美咲はゲームの世界にいっちまったってことなのか…?」
彼の顔が蒼ざめていくのがはっきりとわかる。
「拓也、私にもわかるように話してよ!」
俺は大きなため息をひとつ吐いた後、話し始めた。
「実は、これはゲームじゃないんだ。最初はゲームだと思っていたんだけど、これは異世界との交信システムなんだよ」
「え~っ!! じゃあ、異世界が存在するってことなの?」
「ちょっと待てよ! そうすると、美咲は異世界に行ったってことなのか?」
俺はゲームソフトをインストールしてから、現在までのことを詳しく話した。
それからのこと…。
「これをすべて話した俺は向こうの世界に行くことになるんだ。この部屋の鍵を優子に渡すから、こっちのシステム管理を頼むよ。但し、俺たちは生きているゲームのコマのようになる。それだけは忘れないでね…」
俺の体はだんだん透明になっていく。
「拓也、向こうに行ったら美咲のことを頼む。こっちは何とかして二人を戻す方法を交信しながら考えるからよ」
「拓也! 必ず、戻してあげるから美咲をお願いね!」
そして、俺は記憶を失った…。