拓也は一度に夢のようなことが起こって、頭の中がオーバーヒートしかかっていた。
「腹減ったなぁ…。なんか、あったかな」
拓也の母は、彼が生まれてすぐに他界したのだ。だから、家族は父親と二人。その父親も長距離トラックの運転手をしているので、一ヶ月に一度帰ってくるかわからないほど忙しいようだ。
だから、実のところは拓也の一人暮らしといっても過言ではない。
カップラーメンの買い置きがあったので、それを食べることにした。パッケージを開封したところで、携帯が鳴る。
「誰だよ、こんな時に…」
確認すると勇次からだ。
「はい、もしもし…」
「おぅ、トロ助! お前、美咲といい関係みたいじゃねぇか。しかも、この俺様を差し置いてよ! ちょっとツラかせよ! 今から河畔公園まで来い!」
それだけ言うと電話が切れた。
(何だよ、面倒くせぇなぁ…)
拓也は昭和町に住んでいるので河畔公園までは十分もかからずいける。
到着すると、優子が休憩所の柱に縛られている姿が見えた。
勇次の隣には雅人もいる。きっと、二人で力づくで縛り付けたんだろう。
「来たな、トロ助! 優子が全部ゲロったぜ! お前、俺達を差し置いて、美咲と出来てるそうじゃねぇか。トロ助の分際でいいご身分じゃねぇか。なぁ、優子…」
「拓也、ごめん…。美咲のことで、しつこくされて…」
優子は泣いている。
「トロ助、俺達がイケメンだってことぐらい、頭ん中までトロいお前でもわかるだろ?」
「はい…」
「俺達とトロ助のどっちが美咲と付き合うのがふさわしいか、わかるよな!」
「はい…」
「いいか、今後二度と美咲には近づくな! わかったな!」
「………」
「おい、コラ! 聞いてんのかコラ! 返事ぐらいしろよ!」
拓也は、ここでボコボコにされるのと、美咲を忘れて何事もなく終わるのとどっちがいいかを考えた。
(美咲はイイ女だから俺なんかにはもったいないかもしれない。あの子の為には、きっと俺が離れる方がいいかも…)
「はい、わかりました…」
「よ~し、トロ助! お前は物分りがいいぜ! もう、帰っていいぜ! やっぱり、俺達のどちらかじゃなくちゃよ、バランスってもんがあるからな!」
「そのかわり、優子さんを帰してください」
「おっと、忘れてたぜ! ほらよ、優子も帰んな!」
優子は目に涙をいっぱい溜めて、拓也に向かって歩いていった。
拓也の前で礼の言葉でも言うのかと思いきや、拓也の頬をバチ~~ン!とひっぱたいた。
「あんたなんか、見損なったわ! もう、私にも近づかないで!」
拓也は、すぐにその場を離れて家に戻った。
頬がひりひり痛む。でも、それよりも心が痛かった。空腹のことなど遠い記憶のように感じてしまった。
何ともやりきれない気持ちのまま再びパソコンを起動させた。そして、ゲームを起動させる。
(戦士を転送してもらわくちゃ…)
転送所の風景が見えてくるはずなのだが、そこに見えたものは…
(えっ! 何だよ、この風景は!)
見えたのは転送所などではなかった。それどころか先ほどまで見えていた街並みが崩壊していた。あちこちで火災が発生して、建物らしきものは何一つ残っていない。建物は崩れ落ち、瓦礫の下敷きになって動けないものや多くの人々の死体が見える。
(何があったんだ!)
システムがコネクトするエランさんをサーチしている。
システムが彼女を発見したようだ。瓦礫の下敷きになって動けなくなっているエランさんが見えた。
《コネクト完了》
「エランさん! 一体何があったの?」
「突然、空に……、光が見えたと思ったら…、こうなっていたのよ…」
息も絶え絶えに話している。
「あれっ、バド老師は? バド老師は生きてるの?」
「わからないわ…。一瞬のことだったから…」
「エランさん、ちょっと待ってて! バド老師にコネクトしてみるよ!」
エランの体にカーソルを合わせると、マウスと左と右の両方でクリックして、コネクトリストを開いた。しかし、そこにはバド・ローサの名前はない…。
「コネクトリストに名前がない! バド老師が…、死んだ…?」
「まだ、死んだとは限らないわ…。そのコネクトリストは…、ハァ、ハァ…、生命反応をもとに作られているのよ…」
「それよりも、まず、エランさんを助けるにはどうしたらいい? 転送はもう出来ないし…」
「転送…、そうね…転送がまだだったわね…。それは大丈夫よ、何が起ってもいいように、転送所は…、ハァ、ハァ…、核シェルターの中で守られているのよ」
「でも、エランさんがこんな状態じゃ…」
彼女は時計を空に向かって掲げた。そうすると、どこかが地鳴りをしているのが聞こえてきた。
「扉は開いたはずよ…。そこに戦士がひとりいるはずだわ…。コネクト…して…ちょう…だい…」
彼女の声が途絶えた。息絶えたのだろうか。
《只今、サーチをしています…》
モニターに映し出される映像が、彼女を離れ動き回り始めた。
「一体、どうなってんだよ?」
地面に大きな扉が開かれたところから、モニター映像が下に沈んでいく。大きなシステム室の中に人が入れるようなカプセルが置いてある。そのカプセルから一人の男の姿が見えた。
《コネクト完了》
どうやらシステムはその男にコネクトしたようだ。年齢は二十代前半くらいだろうか。長身で引き締まった筋肉質の体つきをしている。鎧をまとい、剣と盾を持っていた。
「君が俺のパートナーか。俺はガードナー・ジェシン、よろしく!」
「お、俺は、た、拓也…。よろしくお願いします!」
「タクヤか…。なんか、ガチガチに緊張しているようだけど、俺達はパートナーとしてやっていくんだぜ。気楽にいこうぜ! まぁ、試しにガードナーって、呼んでみてくれ!」
「はいっ! ガードナー……さん」
「だから、“さん”はいらねぇって。まぁ、おいおい慣れてくれればいいか。ところで何かすることあるか?」
「はいっ! すぐにでもお願いしたいことがあるんです! エランさんとバド老師を助けて欲しいのです!」
「そっちのコネクトリストに登録したことはあるのか?」
「はい、有りましたが…、今は、出ていません…」
「登録履歴があるなら何とかなるはずだ。そっちのシステムにコネクトキャラの画像があるはずだ! すぐにそれをこっちに転送してくれ!」
「それは、ど、どうすれば…」
「そんなもん、俺に聞いてどうする! タクヤ、お前が見つけるんだ! 命がかかってるんだぞ! お前ならやれるはずだ、急げ!」
(俺が早く見つけて転送しなくちゃ、二人が死んでしまう…)
拓也はシステムを色々と動かし始めた。説明書がないので、操作方法は自分で見つけるしかないのだ。
はたして、エランとバド老師は助かるのか…?
続く…