Ponkotutuusin

 

第14集

老人少年 著

小説

カラスの眼

 

第66話→第70話

 

ごあいさつ

Yahoo!ぽつうで、ご好評頂いた、カラスの眼文庫が、

今回、リニューアル版で、連載投稿させていただく事に

 なりました。毎週火曜日の、深夜、11時55分に、アップ

  ロードしてゆく予定です。宜しくお願いいたします。   

 

老人少年ブログファミリー

potuu 配信ほんぶ

 

 

 

谷田川の流れ

 

 

第六十六話 「コウゾー親分の陣立て」

 「そうなると、編隊の構成をどうするかだ。」こう言う作戦の話になると、コウゾー親分の世界なんだ。小さな群れでも、色んな作戦を工夫して、トンビやタカから公園を守って来た実績は、誰もが認めていたんだ。

 

 「大事な事が二つある。まず、前後左右、そして上空から見ても、綺麗で圧倒的な大編隊にしなくてはダメだ。バラバラで間の抜けた編隊なら、初めからやらない方がいい。そして第2に、何処から突っ込まれても跳ね返して、ビクともせず、列を乱さない強い編隊にしなくてはいけない。」みんな、矢田川の低空をカラスの大群が行く、そんな光景を頭に描きながら、身を乗り出して親分の話を聞いたんだ。

 

 「それぞれの群れから、何羽参加できるか教えてもらいたい。公園からは留守番を残して15羽出そう。」

 「城山から180」「覚王山は40」「池下は15」「天満は20」「清明山も20」最後にトクサンが「うちからは30羽出せる」

 「ゲンタ、城山の180は多くないか?無理はダメだぞ。」、とコウゾー親分が言うと、「去年巣立った29羽の内、14羽のオスとメス5羽は一丁前ですから、心配要りません。」、ゲンタ親分は胸を張った。

 

 「さすが大所帯だ、うちの群れの分ぐらいは、1年で生まれちまう。よし、総勢320羽だ。徳川園の30は、先頭に三角の編隊を組む。覚王山の40はその左右に20づつ、横2列に陣を広げるんだ。城山の180は36羽づつ5列で本隊を組み、その左右、少し離れて右に清明山、左に天満が20づつ1列で並んで横の守りに当たる。この290羽が、宮前橋の上空から次々と隊を組みながら、水面スレスレに、ゆっくり編隊飛行に入るんだ。人間達の寸法で言うと、矢田川橋までの3kmを、超低速、超低空で飛ぶ。特に本隊を組む城山の180羽は、何があっても隊列を綺麗なまま崩さないで飛ぶんだ。その上空を、公園と池下の計「30羽が、倍のスピードで前後に整然と往復し、上からの攻撃、特に後方上空に目を光らせる。少しの攻撃には、上空の30羽が対応して、先頭と両翼、左右の護衛部隊も上空部隊が守るので、出来るだけ編隊を保って飛ぶんだ。奴らへの対応も、オレの指示で動いてくれ。バラバラはダメだ。編隊も俺に従って欲しい。」

 

 「さすがコウゾー親分、完璧な大編隊だ。想像するだけでドキドキするぜ。」オンミョウ親分が、翼をバサバサさせて、興奮しながら言ったんだ。

 「いつも飛びながら群れを作る、そういう練習をしておいて良かったよ。ビクともしない立派な本隊を任せてもらうよ。」ゲンタ親分も息が荒い。

 

 コウゾー親分の、あまりの陣立ての見事さに、親分衆はみんな興奮を抑えられなかったんだ。

 

 

 

 

 

第六十七話 「作戦の詳細が明らかに」

 コウゾー親分の陣立ては、数や大きさ、形まで、すごく具体的で、聞いているとその姿が、頭の中で映像になるから、なおさら興奮するんだ。それでも親分は、更に細かく説明したんだ。

 

 「先鋒のトクサンのところだが、前方斜め上に鋭く尖った、槍のような三角形にして欲しい。編隊の何処にいても、隊のセンターと向きが、先鋒の尖った槍の先を見れば、誰にでも分かる。」、そうか、先頭の真ん中に作る三角の編隊は、隊全体の旗みたいな、目印なんだ。バラバラにならずに、綺麗な編隊を組むためには、とっても大切な事が、僕にも理解できたんだ。

 「その先鋒の左右に、大きな翼の様に飛ぶのが、覚王山の40羽だが、左右20羽の内、10羽は、隣との間にカラスが3羽入って飛べる間隔をあけ、横一直線になるように、常に隊形を整えながら、水面ギリギリを飛ぶんだ。あとの10羽はその真後ろを、少し上に高度をとり、前方の広い範囲を監視する。要は、アンテナの役目だ。これで、隊の進行方向の制空に、広い幅が確保できるんだ。」、なるほど、かっこいいだけじゃなく、大事な意味があるんだ。やっぱり親分の陣立てはすごいんだ。

 

 「本隊の右側面を守る清明山の20羽と、左側の天満宮の20羽は、本隊が作る縦36羽の列の、後ろから20羽の真横、少し離れて、水面から1m上に列を組む。前16羽分は空くが、前方は良く見えるし、前を飛ぶアンテナ隊の守りも効いているから大丈夫だ。」、だんだん、編隊の姿が細かい所まで、手に取るように見えてくると、みんなもぼくも、興奮して体が動いてしまうんだ。

 

 「本隊を組む城山の180羽は、周囲への注意は周りのカラスの任せて、とにかく、先鋒を目印に、左右前後のカラスとの間隔を一定に保って、水面スレスレヲ飛ぶ事に、集中して欲しい。一糸乱れぬ180の大編隊は、それだけで相手を圧倒する、質と量の力になる。編隊の良し悪しを決定付けるたいせつなところだから、しっかりやって欲しい。」、城山のゲンタ親分はそれを聞いて,応えた。

 「猛禽の奴らが戦意を失って、見惚れてしまう様な、立派で綺麗な隊列をご覧に入れます。」、ぼくはますますワクワクしてしまった。

 

 「おれを除く公園の14羽と、池下、蝮ヶ池八幡の15羽は、編隊中央のすぐ上を1列になって、前向きには隊より早く、倍のスピードで飛ぶ。本隊の先頭まで行ったら、今度は少し高度を上げて、ゆっくりと後ろ向きに飛ぶんだ。これをグルグル繰り返して、前向きの時は前方を、後ろ向きの時は上空と後方を警戒する。敵の挑発や攻撃があれば、最初にこれを叩く即応部隊だ。」、そして最後にコウゾー親分は、

 「最後にオレだが、編隊の最後尾の上5mの所を、すべての方向と隊全体に注意を払いながら飛ぶ。何かあればすぐに指図するので、したがって欲しい。矢田川橋まで行ったら、隊列はそのままで50m急上昇して、ナゴヤドームまで飛び、ドーム北広場に急降下して着地する。これが、作戦の詳細のすべてだ。」と言葉を結んだ。

 

 あとは、これをいつ実行するか決めるだけだった。

 

 

 

 

 

第六十八話 「今度雨が降れば」

 観光の人間達で賑う、徳川園庭園から、少し離れた美術館裏の森は、静かな歴史の森だけど、そこに集まった、七つの群れのカラスのリーダー達は、闘志に燃えていたんだ。それぞれの縄張りでの、日々の暮らしを脅かす猛禽たちに、カラスの団結と誇りを示すための、編隊飛行の計画に、体が震えるほど興奮していたんだ。

 

 「やるなら早い方がいい。水鳥たちが、大勢渡って来る前にやらないと、長旅で疲れた鳥たちを、驚かせてしまうぜ。どうだ、この次に雨が降った後に晴れた日と言うのは?」、編隊の先頭を飛ぶ事になった、ここ徳川園のトクサン親分がみんなに尋ねた。すると、反対する親分は1羽もいなかったんだ。

 「よし、決まりだ。この次雨が降って、日の出に雨が上がっていれば、その日の出の時を集合時間にしよう。集合場所は、宮前橋上流の川原だ。いいかな。」「よし、それでいこう。」「おお、」、力強い返事がコウゾー親分に返された。

 「さあ、めいめいの群れで、次の雨までにみっちり練習しておかなくちゃいけねえ。」、「よし、早速戻って練習だ。」、バサー、バサー、親分たちは、勢い良く美術館の森を飛び立ったんだ。

 

 「それじゃあトクサン,邪魔したな。」「お邪魔しました。」、ぼく達も元気良く森を飛び立った。カー子叔母さんが、「早く雨が降るといいねえ」、顔を輝かせて言った。編隊飛行が待ちどうしいのは、みんな一緒なんだ。コウゾー親分の説明が完璧だったから、編隊の様子が、手に取るように分かるし、カッコイイ編隊を想像しただけでも、体が熱くなるんだ。

 近くを飛んでいた城山のゲンタ親分が、僕たちに近づいて来た。

 「返ったら、早速練習だ。天満通りを宮前橋から城山まで飛べば、本番と大体同じ長さです。オンミョウ、ミチゾーの両親分には、話を通しておきました。コウゾー親分に、見てもらえたら助かります。」それを聞いて、コウゾー親分が嬉しそうに言ったんだ。

 「それはいい、うちも参加させてもらうぜ。これは楽しい事になったな。実際にやらないとわからない事もあるんだ。だから練習しておくのは大事だ。公園に戻ったら、カラスを集めてすぐに宮前橋に飛んでいくぜ。」

 「わかりました。」、元気に返事をすると、ゲンタ親分は猛スピードで帰って行ったんだ。

 

 公園に戻ると、いつもの、平和な昼下がりだ。猛禽たちから、この大切な公園を守るために、ぼくも頑張ろうと、改めて思ったんだ。カンタとカーキチに練習の事を話して、手分けしてカラスを集めたんだ。

 

 イチョウやトウカエデが色付いた公園に、もう、蝉の声は無かった。

 

 

 

 

 

 

第六十九話 「特訓に集まった320羽」

 さあ、編隊飛行の練習に行くんだ。昼下がりの公園を飛び立つと、お日様の角度が、ついこの前までとは違っていて、森の影が、随分長くなった。愛工大名電高校から真っ直ぐ東へ飛んで、天満通りを真北へ左折した。

 

 「オーイ、」、はっきりカラスと分かる、元気な心声に振り向くと、大勢の群れがスピードを上げて近づいてくる。ゴンニー、ガンイチの両親分が率いる、覚王山と池下のカラスたちだ。

 「ゲンタが、城山に返る途中で、声を掛けてくれたんだ。それでガンイチ親分の所にも、来てもらった。」元気に話すゴンニーに、「やる気満々だな。」、とコウゾー親分が言うと、「おっと、やる気なら負けねえぜ、」ガンイチ親分も嬉しそうに言ったんだ。

 

 谷口の信号で出来町通りを越えると、右側に広い鍋屋上野浄水場が見える。左は、清明山の向うに、ナゴヤドームのばかでかい屋根が銀色に光ってるんだ。そしてその方向から、カラスの群れが、黒い固まりになって飛んでくるのが見える。オンミョウ親分のところだ。いや、それにしては数が多い。徳川園のカラスも一緒だ。

 少し右へカーブし、宮前橋へ上がって行くスロープが、正面に見えてくる辺りで、トクサン、オンミョウ両親分たちと合流した。

 

 「ゲンタが城山の180羽を、試しに、天満通りで早速飛ばせて見ると言うから、徳川園の兄弟とこちらへ向かうと、トンビが1羽、20mの低空で旋回していたんだ。」オンミョウ親分に言われて上を見ると、高い高いところで輪を描く、小さな黒い点が見えた。

 

 「みんなで寄ってたかって、カーカー言いながら追い回し、たった今上空に追っ払ったところさ。」トクサン親分も、息を弾ませているんだ。やっぱり、出来町通りを北へ越えると、危険な猛禽との最前線で、こう言うスクランブルは、いつもの事みたいだ。

 僕たちはみんなで、天満通りをそのまま北上して、大きな宮前橋の上空に出たんだ。右下を見ると、上流の向かって右側の川原は、カラスで真っ黒だ。河川敷の深い藪と、川の流れとの間の狭い川原は、城山の180羽に、天満宮のカラスを合わせた200羽でいっぱいなんだ。

 

 僕たち120羽は、流れを挟んだ反対側の岸に下りたけど、こちらも藪が迫っていて、水辺に細長い川原があるだけだ。

 「下で列を整えるには、狭いですね。」ゲンタがそういうと、コウゾー親分が「大丈夫だ。」、と言って説明を始めたんだ。

 「確かにこの狭い川原で、最初から列を組むのは難しい。上を見ろ。空中は広いし何も無い。橋の手前300m程を往復しながら、前の方から順に編隊を組むんだ。オレが言うとおりにやってみてくれ。」

 

 さあいよいよ、特訓の開始だ。

 

 

 

 

 

第七十話 「姿を現す大編隊」

 「まずトクサンたちで、前が持ち上がった、船のへ先の様な三角の編隊を作るんだ。先頭が1羽、その次が2羽、この要領で7羽の列まで組むと28羽必要だ。あとの2羽は、トクサンともう1羽が、先頭の更に前に縦に並んで、ヘ先を尖らせるんだ。さあ、やって見てくれ。」、コウゾー親分が言い終わると同時に、バサー、バサー、バサー、と、徳川園のカラスたちが、上流に向かって飛び立って行ったんだ。「今度はゲンタ親分の180羽だ。」、「はい、」元気に応えるゲンタ親分と城山のカラスたちに、コウゾー親分は説明した。

 

 「戻って来た三角の編隊が、宮前橋でUターンして、また上流に向かう時に、その後ろに、5羽づつの列を作って飛ぶんだ。」 上流から、徳川園のカラスが、編隊を組んで戻って来た。トクサン親分とお伴の2羽が率いる、綺麗な前上がりの尖った編隊なんだ。橋の手前でUターンすると、川の水面に近付きながら、みんなが居る川原に差し掛かった。

 「よし、」、短くコウゾー親分が言うと、「今だ、徳川園に続け、」 ゲンタ親分の掛け声と同時に、バサー、バサー、と、次々に城山の180羽が三角の編隊に続いた。大勢が飛び立つ風圧で、水面にさざ波が立ったんだ。一瞬辺りが暗くなる大群の離陸に、ザザー、と、藪もゆれる、すごい迫力だ。城山の群れは、みるみるうちに列を整えて、上流へ向かった。

 

 「よし、残りのカラスは、全員で橋の上空を旋回するぞ。」

 バサバサー、バサバサー、前方両翼を受け持つ覚王山の40羽、本隊左右の護衛に当たる清明山と天満宮の20羽づつ、上空を回遊する公園の14羽と池下の15羽、全体を指揮するコウゾー親分、合わせて110羽のカラスが飛び立って、橋の上を旋回しながら、本体が戻ってくるのを待った。

 

 宮前橋の上空から上流を見ると、大きな三角の頭を持ち上げた、黒い大蛇の様な編隊が、川面を滑るように、こちらに下ってくるのが見える。一つの生き物のように統制の取れた、素晴らしい編隊なんだ。橋まで50m程の所まで来ると、編隊は、大蛇が身を起こすように、真上に上昇し、大きく旋回して向きを変えながら、こちらに向かって降下してきた。

 

 「まだだ、編隊を追う様に、後について、編隊の形を確認しながら、それぞれの配置の隊列を作るんだ。」そう言うと、編隊が完全に上流に向けて、水面を行く様になるのを待って、「今だ、編隊の後に付け、」と、号令した。そして、「まず前方に両翼を組む覚王山の40羽が、左右20羽づつに分かれて、ゆっくり本隊を追い抜くように、前へ出て横二列に広がり、後ろの列は前列を見下ろすように高度を上げろ。」、と指図したんだ。

 「行くぞ、」ゴンニー親分の、短く鋭い号令で、編隊の後を追うカラスの中から、40羽だけが静かに二手に分かれ、移動を始めたんだ。

 

 見事な動きを間近に見る迫力のすごさに、ぼくは体がブルブルと震えたんだ。

 

第七十一話へ

つづく

 

老人少年

老人少年ブログファミリー

potuu 配信ほんぶ