Ponkotutuusin

 

第11集

老人少年 著

小説

カラスの眼

 

第51話→第55話

 

お詫び

今回、都合により、1日遅れの更新となりました。

予告無しの、勝手な変更で、お詫び申します。

 

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ごあいさつ

Yahoo!ぽつうで、ご好評頂いた、カラスの眼文庫が、

今回、リニューアル版で、連載投稿させていただく事に

 なりました。毎週火曜日の、深夜、11時55分に、アップ

  ロードしてゆく予定です。宜しくお願いいたします。   

 

老人少年ブログファミリー

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第五十一話 「秋の色を増すポーの庭」

 あの夏の終わり、真昼の大雨の日に、キタナギを怒涛の排水口から助け出してから、もう3週間が過ぎたんだ。台風は来るし、ムシムシする日が続いているけど、公園が平和なのがやっぱり一番だ。暗くどんよりした天気を、跳ね返す明るさが、平和にはあるんだ。

 雨が降ると少し涼しくなり、蒸し暑くなるとまた雨が降ると言う繰り返しだけど、カエデやイチョウがほんの少し黄色くなって、夜は虫の声も日に日に賑やかになるんだ。

 

 今日は、昼過ぎにドシャ降りが1時間続いて、みんなで排水口の板をどかし、キタナギ達ハクビシンを逃がしたんだ。大雨の時の避難のサポートもすっかり馴れて、テキパキと避難できる。今では、ネコとカラスとハクビシンが兄弟なんだと確認する、大雨がそのいい機会になってるんだ。

 大雨のあとの毛虫のご馳走は、数は少し減ったけど、それをカバーするだけ、毛虫が大きくなったから、ぼく達に遠慮しないで、食事できるようになったハクビシンたちは、チビたちもどんどん育つんだ。

 それでも、大人のハクビシン達は、チビ達を植え込みの影から見守るだけで、昼間は餌を採らない。空から狙う猛禽の連中から、チビを守って、目立つ大きな体を、昼間は現さないんだ。

 

 それでも、一旦、上空でカラスとトンビが空中戦を始めると、キタナギ親分を先頭に、茂みから飛び出してトンビの気を引いて、ぼくらを助けてくれるんだ。公園の中の平和は、外の守りにとっても大事なんだと、ぼくも最近すごく良く分かる。戦うより仲良くなる方が、平和は強く大きくなるんだ。

 そのためには、普段から、小さな事も助け合って、どんな事も協力するのが一番大事な事だと、コウゾー親分やニセクロ親方が言っていた意味が、今は、ぼくにもちゃんと理解できるんだ。

 

 「ポー、天気も良くなったし、空の見回りに行こうぜ。」、カンタとカーキチが誘いに来た。「コウモリが出てくる前に、猛禽が来たら追っ払わないとね。」、コウモリをいじめたり脅かしたりすると、いざと言う時に敵に回す事になると、親分にきつく念を押されているんだ。

 光の眼は役に立たないコウモリも、夜でも見える音の眼を持っているから、仲良くすれば、公園の夜の空の目になってもらえるんだ。

 

 真っ青な雨上がりの空に、オレンジ色の西日が街を染めて、秋らしい乾いた風が気持ちいい。高い高い所に一羽、トンビが輪を描いているが、戦意はないみたいだ。

 

 

 

 

 

第五十二話 「コウモリが危ない」

 「あれ、おかしい。」ぼくは、カンタとカーキチに話しかけた。ぼく達への戦闘意欲は感じないが、日がこんなに傾いても、あんなに高い所にトンビが飛んでいるのは、今まで見たことが無かったんだ。

 

 「ここまで西日になれば、もっと高度を下げながら、矢田川のある北の方へ移動し始めるのが普通だけど、まだあんな所を飛んでる。」するとカンタが、「狙いはおれ達じゃないな。」

 「そうか、」今度は、カーキチが何かに気が付いた。「出の早いコウモリを狙ってるんだ。川のコウモリは猛禽を警戒して、真っ暗にならないと出てこないが、公園は、オレたちが攻撃しないから、早くから飛び出す、それを狙ってるんだ。」

 「よし、降りて知らせよう、コウモリが危ない、。日があるうちだとハクビシンもやられちまうよ。」、ぼくがそう言うと、カンタが上に残るといったが。1羽では危ないので、3羽一緒に急降下した。シューッ、パサパサーッ、

 ピッタリと翼を閉じて体を矢にすれば、200m上空からでも数秒だ。鳥のスピードは速い。それだけに、どんなに高い所でも、上空にトンビが飛んでいたら、警戒しなきゃだめなんだ。

 

 公園に下りたぼく達の所へ、「あのトンビはヤバイゼぜ。暗くなり際のコウモリ狙いだな。」、といいながらグレトラがやって来た。「ハクビシンは暗くなるまで、排水管の中に隠れさせたが、問題は気の早いコウモリだ。大勢のカラスで手分けして、出てくるコウモリを、片っ端からシイノキやケヤキに避難させよう。ヒラヒラ飛んでいたらトンビのいい餌食だぜ。」

 「分かった、親分に言って、ここに来てもらうよ。カンタとカーキチはみんなを噴水に集めてね。」、と言って、コウゾー親分の巣がある大ヒノキに向かった。途中空を見たら、あのトンビがやっぱり少しづつ高度を下げていた。コウモリが出てくれば、5秒で急降下できる高さだ。急がないとコウモリが危ない。

 

 手短に話すと、親分は「分かった、」とすぐに噴水に来てくれたんだ。もうカラスが全員集まっていた。

 「若いオスは上空を守れ、トンビを公園に近づけるな。メスと年寄りは出て来たコウモリを避難させるんだ。急げ。暗くなればこっちのもんだ。」

 

 

 

 

 

第五十三話 「公園の空を守れ」

 「いいか、こっちからつっかかちゃダメだぜ。やつを公園に近付けないのが仕事なのを、忘れるんじゃないぞ。」、途中まで一緒に来ていたコウゾー親分は、そう指示をして戻っていった。少し前の、シイノキ爺ちゃんのムクドリを追っ払った頃なら、母ちゃんを殺した一味への殺意だけで行動したけど、今は、群れを守る誇りと責任で行動している、以前とは違うぼくがいるんだ。

 

 「この辺にしよう。あまり高く上がると、トンビが急に突っ込んできた時に、体勢をとる暇がないからね。」、公園の上50mくらいで、ぼくはみんなにこう言ったんだ。ここならトンビまで400mはある。急降下をかけられても、追い払う体勢に移る何秒かの余裕が持てるんだ。もう、太陽は真っ赤になって、ぼく達も口箸だけが赤く光っていた。遠く西に霞んでいた鈴鹿の山々は、急に黒々と存在感をまして、赤く染まった空に、浮き上がっているんだ。

 そうだ、この景色をグレトラに見せてやろう。そう思っていたらグレトラから心声が飛んできた。

 「すげえなあ。こんな風に見えるのか。まるで西の山がこっちに迫って来るみてえだ。だけど、ちゃんとトンビがチラチラしやがる。仕事にぬかりはないな。」

 そのトンビが動きを見せたんだ。「気をつけろ、こっちからも見える。急降下するぜ。」グレトラの心声が途切れた。ぼくがトンビに集中できるようにしてくれたんだ。

 

 「おとりになる。北へ追い払ってくれ。」、カーキチはそう言うと、怪我をした様に、バサバさ大きな羽音を立てて、1羽だけ北側へと群れから離れたんだ。

 

 弱った獲物には、反射的に反応する猛禽の習性で、トンビは急降下にブレーキをかけ、カーキチに向かって北にコースを変えた。僕たちが狙ってたのはこの瞬間だ。6羽の若いオスガラスが、一斉にカアーカアーと大鳴き視ながらトンビを追い立てたんだ。

 カーキチは、もう怪我をしたふりを止めて、全速で西へ逃げた。一度狙うと追い続けるトンビの狩りの仕方を、100パーセント逆手に取ったんだ。

 「ダメだ、眼が利かなくなって来たぞ。」カンタが叫んだ。「ヤツも同じだ。頑張ろう。」ぼくがそういってカンタを励ましたその時だ。トンビはカーキチを追うのを止めて、北向きに高度を上げたんだ。出来町通りを越えた辺りで、十数羽のカラスが一斉に飛び立って、トンビに追い討ちをかけるのが見えた。清明山のオンミョウ親分の所のカラスたちだった。

 

 赤く真ん丸い太陽の一番したの所が、もう鈴鹿の山影にくっついていた。

 

 

 

 

 

第五十四話 「公園を守る仲間の力」

 トンビは夕暮れの北の空に、小さな黒い点になって消えていった。

 思わず見とれてしまう、真っ赤な西の空は眩しいけれど、真下に見える街は、もう夕闇の中だ。公園に戻ると、もう、コウモリやハクビシン達の活躍する時間で、カラスの時間は既に終っていたんだ。

 

 バサー、バサー、バサバサー、次々と噴水の周りに着地したぼく達は、緊張で乾いたのどを潤したんだ。中でも、自分からおとりを買って出たカーキチは、溺れるほど、池に首を突っ込んで水を飲んだ。「なーにヘッチャラサ」、と話は元気だけれど、もうヘトヘトなのが、カーキチの足と心声の震えで、ぼくには分かったんだ。

 

 「ありがとう兄弟。」、やってきたのは、コウモリの長老、クロサク爺さんだ。

 「また世話になっちまった。」ハクビシンのキタナギ親分も、ぼくらカラスにお礼を言いに、駆けつけて来たんだ。

 「夜はおれ達が公園を守る番だから、みんなゆっくり休んでくれ。蛇やワン公が悪さをしたら、すぐに知らせる。ニセクロさんとも協力して、夜の公園をしっかり見張るぜ。」、今まで恐れていたハクビシンの、親分のこの言葉は、今のぼくには、むしろ心強かったんだ。コウモリのクロサク爺さんも、アオダイショウの動きを見張ってくれる。

 こうして、夜は、以前よりずっとゆっくり休めるんだ。そしてその分、昼間しっかりと、みんなの為に空からの危険に備える事ができるんだ。

 

 「カンタ、お帰り、みんなもご苦労様だったね。もう何にも見えないねえ。」カー子叔母さんだ。「カーキチは大変だったね。トンビのやつ、まんまと引っ掛かってあんたを追っかけたのを、下からも見ていたよ。」、おばさんは、ぼく達の活躍を下から見て、応援してくれていたんだ。今日のカーキチ兄貴の活躍は、ぼくもみんなに宣伝して歩きたいほどの気持ちだったので、下から、仲間が応援してくれるのは、とっても嬉しいんだ。

 「俺たちも見ていたぜ。全くたいしたもんだ。完璧なスクランブルだし、無駄に喧嘩を仕掛けたりしないで、上手にトンビを追っ払った。」にセクロ親方に、こんなに褒めて貰えるのは、すごく嬉しかった。特に、コウゾー親分の言い付けどおりに、公園の守りを第一に、トンビを追い払ったのを、親方がちゃんと見ていてくれていたのが、ぼくには最高のご褒美だったんだ。

 

 「完璧だったな。オンミョウ親分も感心していたぜ。」そういって、真っ暗な公園に戻ってきたのは、コウゾー親分だ。清明山に、連絡をしに行ってくれていたんだ。なるほどとぼくは思った。

 

 

 

 

 

第五十五話 「ポーの独りごと」

 真っ暗になってしまったので、鳥の目には真っ暗闇で何も見えないんだ。

 頭に中のデータ、空間地図、それに、物音や気配を頼りに、いつもの様に巣へ戻った。ぼくの話も、今回で55回目。何でも、この話を、文字とか言う厄介な記号にして、インターネットなんて物で言いふらしている、老人少年ってのがいるらしいけど、よほどの物好きか、気の毒な暇人なんだ。

 

 きっと、昨日まで殺したり食われたりしていた同士が、突然仲良くなって、「兄弟」、なんて呼び合う展開に、「変だ、おかしい」、と思う方もいると思う。そこで、ずぼらな老人少年の代わりに、ぼくが少し説明しようと思うんだ。

 

 人間さんも入れて、どんな生き物も、食ったり食われたりしながら、命を、何千万年と繋いでいるんだ。たとえ百獣の王でも、その死骸は、ハイエナや鳥や昆虫やバクテリアの餌になり、その食べ残しやウンチさえ、草木の栄養になって、その草木を食べる生き物の餌になるんだ。

 100年、1000年と生きた大木でも、最後は、カブトムシやシロアリが食べて分解し、コケや草、そして自分たちが蒔いた種を育てる栄養になって、また立派な大木になる。

 

 こう言う命の物語には、嘘やでたらめは通じないし、そんなものでごまかす余裕も必要もないんだ。もし嘘をついたり、でたらめを言って、心声をブロックしても、ほかの心声に混ざって漏れ伝わるので、ばれてしまう。人間さんでも、嘘が分かってしまう事があるのは、元々心声を備えているからで、それに気付いていないだけなんだ。

 実は、一方で食ったり食われたりする間で、命がけで交わされる心声が、他方では同時に、無駄な衝突や殺しを防ぐ働きもしているんだ。だからそれは、むき出しの命のぶつかり合いなので、見方を変えれば、食う、食われるの係わりが強いほど、極端な裸の付き合いとなり、弱点や事情を知り尽くした、旧知の仲とも言えるんだ。

 

 ぼくは正直な話しか、しないけど、老人少年さんは人間さんだから、平気で嘘やでたらめをくっつけて書いちゃうんだ。だから、変なところや事実と違う所があるのは、僕のせいではないんだ。

 まだまだ皆さんには、お話したい事がいっぱいあるけど、今夜は眠たくなっちゃったから、もう寝ます。ぼくみたいな独りガラスの独り言に付き合ってくれて、ありがとう。

 

 あっ、それと、老人少年って人は、嘘や作り話を書いてるけど、そんなには、悪い人でもないので、許してあげてね。

 では、今夜はこれでおやすみなさい。

 

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つづく

 

老人少年

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