Ponkotutuusin

 

第8集

老人少年 著

小説

カラスの眼

 

第36話→第40話

 

ごあいさつ

Yahoo!ぽつうで、ご好評頂いた、カラスの眼文庫が、

今回、リニューアル版で、連載投稿させていただく事に

 なりました。毎週火曜日の、深夜、11時55分に、アップ

  ロードしてゆく予定です。宜しくお願いいたします。   

 

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第三十六話 「城山のゲンタ親分」

 バッサー、ぼくとカンタ、カーキチの3羽を従えて、コウゾー親分は、一旦高く上昇し、周辺の木々やマンションの上の仲間に、「オレからの合図がない限り、絶対に騒いだり動いたりしないでくれ。」と、心声を送りながら、ゆっくりと高い高度のまま飛んだんだ。

 

 「このままだと天満通りを越えちまう。」、カンタが慌ててそういうと、

 「いいんだ、たった4羽で200羽の中へ降りていけば、これ以上闘う気が無い事が、連中にも分かり易い。」そして、ゆっくりと円を描いて降りて行きながら、コウゾー親分が大きな心声で言った。

 

 「お早う、城山の兄弟達。千種公園のコウゾーだ、ゲンタ親分と話をしに来たんで場所を空けてくれ。」すると、1羽の大きなカラスが舞い上がって来て、「わざわざすまねえ、コウゾーさん。」、ぼく達を大きなヤブツバキの枝に招いたのは、二百数十羽の城山の群れを束ねる、ゲンタ親分だった。

 すぐにコウゾー親分が訊いた。

 

 「挨拶は後だ、死んだり、大ケガをしたカラスはいないか。」

 

 みんな軽症だと伝え、ゲンタ親分が「そちらはどうですか、親分。」と聞き返したから、コウゾー親分が、「ゴンニー親分が、頭に大きな爪傷を貰った以外は、殆ど無傷だが、親分のは大分大きい。」と言うと、

 「犯人は、おそらくオレです。きのうの夕方、うちの若いカラスが10羽ほど通りを越えちまったのをきっかけに、騒ぎが大きくなって、揚輝荘に入ったのを聞いて、50羽ほど連れて引き揚げさせに駆けつけたところで、ゴンニー親分たちが突っ込んで来て、..」

 「ハハハ、そうか。」ゲンタ親分の話を聞いて、コウゾー親分が笑い出したので、周りにいた城山のカラスたちも、息の詰まる緊張からは開放されたんだ。そして、ゲンタ親分も少し落ち着いて話をつづけた。

 「そこで、オレとゴンニーで格闘が始まって、うちの方も200羽ほどに膨れ上がり、戦ってる間に日が暮れちまった。ゴンニー達は寺の森に引き上げたけど、あの辺の様子がサッパリのおれ達200羽は、揚輝荘から動けなくなっちまったんだ。その時、実はおれも…」

見ると、ゲンタ親分の右足の付け根の羽根が抜けていて、大きな爪傷が付いていたんだ。

 

 「もう大丈夫だ。カーキチ、応援のカラス達に礼を言って、引き上げてもらってから、こっちに来る様に、ゴンニーに伝えに行ってくれ。」、とコウゾー親分は静かに言ったんだ。やっと城山の森に、朝日が射し込んできた。

 

 

 

 

 

第三十七話 「ハナモモの葉」

 「ゲンタ、この森に桃の木はあるか。」コウゾー親分が聞くと、「ハナモモなら神社の裏手に、2本あります。今なら実が赤くなって、食べごろです。」、と答えたゲンタ親分の隣にいた若いカラスに、「すまないがその樹に良く訳を話して、若い葉っぱを5~6枚、分けてもらって来てくれ。桃の葉っぱは、傷に当てておくだけで直りが早いし、傷が膿まない。」

 「分かりました。」バッサ、若いカラスは、コウゾー親分に返事をして、勢い良く神社の方へ飛んで行った。そのすぐ後だ。カラス達にサッと緊張が走ったが、すぐにそれは和らいだ。

 

 「兄弟、邪魔するぜ。」、徳川園のトクサン親分だ。ゴンニー親分と一緒に、清明山のオンミョウ親分、天満宮のミチゾー親分、蝮ヶ池八幡のガンイチ親分もいる。「うちの群れはどうした?」、戻って来たカーキチにコウゾー親分が訊くと、「カー子叔母さんが、みんなを連れて帰ったところです。」カーキチは元気に答えた。

 

 覚王山のゴンニー(ここからは敬称略)がゲンタに、「千種公園のカーキチ君から、大まかな話は聞いた。オレもいきり立ってしまって済まなかった。」と、謝ると、「イイヤ、調子に乗ったウチの若い者のせいだ。」、とゲンタが返した。

 

 「オレがお前たちの立場でも、おおかた似たような事にはなった。」そう言ってコウゾーが話を始めたんだ。

 「カラス同士が血を流せば、喜ぶのは谷田川の猛禽どもだ。大ケガや葬式が出る前に、賢い知恵が働いてよかったぜ。みんなそれを心配したんだ。数の少ない覚王山の側には付いたが、城山に攻め込もうなんて、誰も思ってやしないんだ。ゲンタ、ゴンニー、大きな群れをやっていくのは大変だが、それがお前達の仕事だ。困った時は、こうして駆けつけてくれる大事な兄弟が居るのを、忘れちゃあいけねえ。礼を言うより、もっと大切なのは、この兄弟達を信じて頼る事だ。」

 「みんなコウゾー親分の話を聞いたか。本当に城山を守るって言うのは、威勢よく威張り散らすんじゃなくて、近所の群れと、仲良く知恵を出し合う事なんだ。」ゲンタがそういっているところへ、若いカラスがハナモモの葉を沢山咥えて戻って来た。「いい物があるんだな、オレもオンミョウにやられた傷を、良く桃の葉で直したもんだ。」、とミチゾーが言うと、「そりゃ話が逆さまだ、葉っぱの世話になったのはこっちだぜ。」、とオンミョウが返す。

 「どっちが本当なんだねトクサン。」、とガンイチに訊かれ、「オレに訊かれても困るぜガンイチ。」、とトクサン、大笑いになった。

 

 「さあ、解散だ。」親分たちが心声を揃えた。ゴンニーとゲンタが傷の手当をする間に、空はすっかり明けていたんだ。

 

 

 

 

 

第三十八話 「秋色の空高く」

 「それじゃあ、邪魔したな。たまには遊びに来るんだぜ。」コウゾー親分は、そう言うと真上に向かって飛び立ち、一気に高度を上げた。

 

 覚王山のカラスたちが、一番疲れているのを気づかって、わざと高く飛んだんだ。

 海というものがあるらしい南の空の遠い所に、白く光る入道雲が並んで、ゆっくり東の方へ移動している。真上を見上げると、手の届きそうな所に、ぽっかりと綿雲が浮かんでいるその遥か上の、高い高い所に、真っ青な空と鱗雲が広がっているんだ。きっと、まだまだ残っている真夏の空気の上には、もう、ちゃんと秋の空気が乗っかって、下におりて来る準備をしているんだと、ぼくは思った。

 

 カー、カー、カー、

 大勢の高い鳴き声がするので、少し驚いて下を見ると、小さく見えている揚輝荘や、お寺や紅葉山の森から、何十羽ものカラスがこっちに向かって舞い上がって来た。そして、ぼく達4羽と一緒に飛びながら、「お疲れ様でした。」」「有難うございました。」と、次々にお礼を言いに来てくれたんだ。

 「せっかく気を遣って、高飛びしたのに、これじゃかえって疲れさせちまったな。もう大丈夫だ、かえってゆっくり休んでくれ。しっかり話は付けたから、これからは、城山と力を合わせて行くんだぜ。」、とコウゾー親分が、苦笑いしながら応えると、「コウゾー親分の顔を潰す様な事は、絶対しません。なあみんな。」と、近くに居た若いカラスが言い、みんなもカーカーカーと、大きな鳴き声で応えた。

 高度を下げながら飛ぶ僕たちに、ぼくらの縄張りとの境、イチロー通りの手前まで、みんなは見送ってくれたんだ。

 

 もう、市営住宅の向うに、キラキラと朝日に光る公園の森が見えている。早朝に起こされるまで寝ていた森だが、久しぶりに戻ったような、変な感じがしたんだ。キタナギ達との戦いもあるけど、今は平和ないい森だと思った。

 「ただいまーッ、」、4羽は、とりあえずシイノキ爺さんの所で翼を休めてから、噴水池で乱れた羽根を直した。池には、先にニセクロ親方とグレトラの兄貴が、水を飲みに来ていた。

 

 「おお、お帰り。カー子姉さんから話は聞いた。大変だったな。」、つんのめって、池に落ちそうな格好で水を飲んでいるところへ、ぼくらが来たので少しびっくりした親方とグレトラの、その様子がとってもおかしかったんだ。

 

 

 

 

 

第三十九話 「ニセクロ先生のお言葉」

 「カラスの事情は良く分からないが、親分も朝から大変だ。」、とニセクロ親方が、水を呑み終わって言うと、「親方やグレトラ君達が居るんで、朝から安心して公園を留守に出来る。有難い事だぜ。」、羽根をつくろいながらコウゾー親分は、猫達の日頃の協力への感謝も込めるように応えたんだ。

 

 そんなやり取りを聞きながら、毛づくろいを始めたグレトラの兄貴が、チラッと空を見ながら、「もう気が付いていると思うけど、きっと今朝の騒ぎを嗅ぎ付けたんだろう、さっきからトンビが3羽、高いところで輪を描いていやがる。やっぱり、公園にはカラスが居ないと、ぼくらだって安心してゆっくりは出来ないんですよ。」、というと、二セクロの親方が、怖い顔をして、「確かに、カラスが留守の時猛禽が飛んできたら、怖いのは確かだ。」そしてグレトラを諭すように言ったんだ。

 「おれ達が、カラスの心配ばかりしていられない様に、カラスにはカラスで、事情ってもんがある。ネコはネコの事に、カラスはカラスの事にちゃんと責任を果たせて、初めてお互いを信用し、力も知恵も出し合えるてえもんだ。カラスが留守の時は、普段の倍も3倍も頑張って、カラスの分まで公園を守るのが、いつも空の事じゃ世話になりっぱなしの、カラスに対する、せめてものネコの仁義だぜ。違うかグレトラ。」、「分かってるぜ親方。」、グレトラも、カラスだけを当てにする様なつもりは無いんだけど。ニセクロ先生は、特にその辺については厳しいんだ。

 

 羽根の手入れが終る頃には、お日様も高くなり、ザーザーと大きな音を立てて噴水も動き出した。青い空にはもう、さっきまで居たトンビも居なくなり、高いところに鱗雲が見える良い天気だけど、昨日より少し蒸し暑い気がするんだ。ゆっくりだけど、南からの生ぬるい風が吹き出した。今朝は早くから覚王山で頑張ったせいもあって、ウトウトと眠たくなってきたんだ。

 するとニセクロ親方が、「今は良く晴れて上天気だけど、この風が続けば、昼を過ぎて夕方までには、雨のキツイのが来るかも知れねえ。そうなれば、昨日の話通りハクビシンを見張るんで、また忙しくなるぜ。今のうちに昼寝でもしておこう。」、そう言うと、グレトラを連れて、ツツジの根元の狭い隙間に頭を突っ込むと、まるで壁を通り抜けるように植え込みの中に消えたんだ。

あんな牢屋みたいな所に入ったら、ぼくらは二度と出てこられないし、だいいち羽根が引っ掛かって入る事が出来ない。ネコはこうやって忍術のように狭いところに入って、トンビや鷹からの攻撃を、防いでいるんだとぼくは思った。

 

 「雨の匂いがしたら、昨日の約束どおりに大きな声で4回鳴くから、そうしたら、カンタのうちのトウカエデに集まってくれ。」カーキチはそう言うと、大木並木の巣へ戻っていった。

 

 「今朝は早くからご苦労だった。ネコの様に、器用に昼寝とまではいかねえが、みんなも巣に帰ってゆっくりしてくれ。」、コウゾー親分に言われて、僕とカンタも巣に戻る事にしたんだ。

 

 ツクツクホーシ ツクツクホーシ、去年はこの鳴き声を、母ちゃんと一緒に聞いたのを思い出し、さっきまで、公園の遥か上空で輪を描いていた、トンビへの、湧き上がる憎しみを、ぼくは必死で抱きしめたんだ。

 

 

 

 

 

第四十話 「待ちに待った大雨」

 ツクツクホーシ、ツクツクホッ……、

 すっぐそばで鳴いていた法師蝉が急に泣き止み、シイノキ爺ちゃんの樹の方に飛んで言った。覚王山から戻ってくるときは、南の遠くの方に見えた入道雲が、いつの間にか、頭の上にモクモクと白く盛り上がり、眩しく光っているんだ。そして、雲は下のほうから少しづつ、黒っぽくなって、生ぬるかった南の風が、冷たい東よりの風に変わった。

 乾いた落ち葉をひっくり返したような、そんな臭いを風に感じた時だった。

 

 カアーッ、カアーッ、カアーッ、カアーッ、

 カーキチの合図だ。公園のあちこちで、バサッ、と、カラスが飛び立つ音がした。僕もバサアーッと、勢い良く飛び立ち、テニスコートを一瞬で飛び越えて、カー子叔母さんの新しい家になった、野球場のすぐ南の大きなトウカエデの樹に到着したんだ。昨日の予定より多い、今朝覚王山に出動した15羽全員が、トウカエデの樹に集合した。

 「今日は朝から大変だったが、もう一働きして欲しい。これは、ハクビシン達がトウカエデに登れないのを確かめる、オレ達カラスにとって大事な仕事だ。ネコの知恵と力も借りているから。しっかり頼む。」、コウゾー親分はそう言うと、野球場南側の6本のケヤキ、2本のシイノキ、2本のイチョウそれぞれの一番低い枝に1羽づつ、カラスを陣取らせたんだ。

 

 親分とぼく、カーキチ、カンタ、カー子叔母さんの5羽は、南西の遊具エリアの大きなクスノキ、二セクロさんとグレトラ、そして今日は公園と病院のネコ、全部で9匹が、野球場西の大きなプラタナスを固めたんだ。

 

 もうすぐ真南になるはずだった太陽が、雲に隠れて間も無く、空は真っ黒になって、ポツッと、大粒の雨が落ちて来たんだ。

 

 「またゴミで管が詰まると、やっかいだ。」、人間の大きな話し声だ。1m四方もある大きな板を持って、公園作業員が2人やって来て、例の格子蓋の上に被せていったんだ

 

 ピカッ、....... ガラ、ガラガラ、ドオッスウウーン、ザアー、大きな雷と同時に、空のバケツのそこが抜けた様に、物凄いドシャ降りの雨になった。このままなら、ハクビシンたちは外へ出られず、配水管の中で溺れ死ぬしかないんだ。父ちゃんの仇、キタナギもこれで終わりなんだと、ぼくは心の中で笑っていたんだ。ところが、親分が意外な事を言った。

 

 「ややっこしい事になった。この場合敵味方を言っていると、筋の通らない事になるぞ。」、ぼくには良く分からない、「筋って何だ?」、と悩んでいたら、凄まじい豪雨の中、9匹のネコが猛スピードでぼくらの下を通り、格子蓋のほうへ走り抜けて行くのが見えた。そして、また、ぼくには理解できない、二セクロさんの心声が聞えて来たんだ。

 

第41四十一話へ

つづく

 

老人少年

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