Ponkotutuusin

 

第7集

老人少年 著

小説

カラスの眼

 

第31話→第35話

 

ごあいさつ

Yahoo!ぽつうで、ご好評頂いた、カラスの眼文庫が、

今回、リニューアル版で、連載投稿させていただく事に

 なりました。毎週火曜日の、深夜、11時55分に、アップ

  ロードしてゆく予定です。宜しくお願いいたします。   

 

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第三十一話 「引っ越し祝いお礼のモグラ」

 叔母さんもカンタ兄さんも、新しいトウカエデの樹が、とっても気に入ったみたいで、「ほーらカンタ、噴水まで良く見えて景色がいいねえ。」、と叔母さんが言うと、カンタも嬉しそうに答えた。

 「本当だ、ほら北側は大きなカイヅカイブキが三本で、南はうちの大ケヤキだ。夏は日陰で涼しいし、葉っぱが落ちる冬は日当たりがいい。それにカイヅカイブキが北風を防いでくれる。」

 「本当だ、おまえもいつの間にか、一人前に巣の良し悪しの話が出来るようになっちまって、母ちゃんはちょっと嬉しいよカンタ。」と叔母さんが言うと、カンタ兄さんが、少し膨れながら、「オレだって、いつまでもチビ助じゃないやい。」と言い返したのがおかしくて、みんなしてまた笑ったんだ。

 

 でも、確かにカンタが言うのは本当で、巣作りには、色んな大切な事がいっぱいあるんだと、勉強になった。それにしても、目の前が古巣の大ケヤキだから、庭先にもう一軒新築したようなもので、これなら棲みやすいと僕も思った。

 「こりゃあ驚いた。新築祝いでも引っ越し祝いでも、やりたい放題だぜ親分。」と、下からニセクロ親方、「そりゃどう言う事だね親方。」、とコウゾー親分が訊くと、「ゆうべの雨のお陰だよ親分。クモだの毛虫だのイモムシだの、それにセミまで山ほど落ちてやがる。オレ達ゃあ苦手だけど、カラスにはご馳走だ。少し遅いが、降りてきてみんなでワイワイ、ランチパーティーってのはいいんじゃねえか。」、親方はそういって誘ってくれた。

 

 「それは有難い、だが、少し待ってくれ。親方とグレトラのご馳走が無きゃいけねえ。オイ、誰かオレの巣へ行くと、モグラが一匹くたばっている筈だ。そいつを急いでもって来い。」、とコウゾー親分が言ったので、ぼっくもカーキチも羽根を広げようとしたんだ。

 「ちょっとお待ち、それはあんたが行きな。」、叔母さんに言われる前にもうカンタは飛び立って、「分かってるよ母ちゃん。」といいながら、噴水の向うの親分の巣がある、公園で一番高いヒノキの方へ向かったんだ。

 

 「いやね、けさの話だが、ユリ園の方からいい匂いがするんで行ってみたら、花壇の手入れをする二本足に、スコップでやられたんだろう、頭から血を出してすっかり弱っちまったモグラが、一匹のびていたのを、巣に置いて来ちまった。さっきまでピクピクしてたが、もうイッちまってるはずだ。」親分が言うと、下からニセクロの親方が、

 「そいつはダメだ。そんな滅多に無いお宝を頂く訳にはいかねえよ。」と、遠慮して言ったんだ。でも今度は、カー子叔母さんに、「そんなこと言わずに貰っておくれよ。せっかくうちのカンタが飛んでったんだ。いつも、何の得にもならないのに、カラスの心配をしてくれて、何のお礼もして無いんだ。今日はどうしたって食べてもらうよ。」、といわれて、戻って来たカンタに、目の前に活きのいい美味しそうなモグラを置かれてしまい、親方もニコリとしてしまった。

 「こんなもんを頂ける義理じゃないけど、フウ、あんまりいい匂いなんで、カラダが震えちまっていけねえ。なあグレトラ、」、「親方、オレももうだめだよ、嬉って尻尾が立っちまうのがどうにもならないっすよ。」そういいながらニセクロ親方とグレトラは、もう、モグラの足を咥えて、引っ張りっこを始めていたんだ。

 

 「よし、オレたちも始めよう。」バサバサバサー、「イモムシは、まだ動いているのもいるぞ。」、みんな賑やかにお祝いの食事を楽しんだ。

いつも寂しそうなカー子叔母さんが、嬉しそうにしていると、ぼくまで不思議と楽しくなったんだ。

 

 モグラが一番美味しいのはみんな知っていたけど、ニセクロ親方とグレトラが喜んでくれる方が嬉しくて、僕たちはイモムシヤやセミを食べたんだ。 

 

 

 

 

第三十二話 「作戦会議」

 「グルギャオッ、フガガッ、」「ゴキバキ、フガッ、」、モグラを食べる親方とグレトラは、何かとっても怒っているみたいに、ものすごい音と声を出し、怖い顔をしている。最高のお宝にありつけた、ネコの喜びの表現も、ぼく達カラスには、地獄の底からの恐ろしい音なんだ。

 「すまねえ、行儀が悪くていけない。オレ達ネコは、この手のお宝を見ると、自然にこうなっちまうのさ。」、前足を舐めて顔を掃除しながら、二セクロの親方は笑った。モグラは綺麗に毛皮だけになって、グレトラも普段のグレトラに戻っていたんだ。

 空を飛び回って、スピードで勝負するぼくらとは違う、ひら場にはひら場の凄さと迫力があって、それをすぐ目の前で見て、感じると、本当に恐ろしいんだ。「やっぱり、ネコとは仲良くしなくちゃいけねえ。羽根と骨だけにされたら、カーの音も出ねえからな。」、とコウゾー親分が笑った。

 「勘弁してくれ親分、ネコがゆっくり外で昼寝出切るのも、カラスが空を見張っていてくれるからで、こっちだって仲良くしてもらわないと、いつもコソコソ隠れていなくちゃならないんだ。」と、二セクロの親方がまじめな顔で言った。「フー、美味しかった、こんなに活きのいいモグラは、始めてかも知れねえ。ゲップまでいい匂いがしやがる。」グレトラのほうは、親方達の話は全然聞いてないんだ。それがおかしくって、みんなで笑った。

 

 「そうだ、今度の大雨の時、ハクビシンを見張って、奴らがトウカエデに登れないのを確かめる話だ。」、セミを突くのに夢中だったカーキチが、急に思い出して言った。「親分、今度雨のにおいがしたら、奴らが動き出す前に、オレ達カラスがこの辺の木の上に陣取って、奴らの動きを見届けようと思うんです。」

 「そうか、それはいい考えだ。親方の詳しい話を聞かせてもらおう。」、さすが親分、このアイデアがニセクロ親方の考えだと、お見通しなんだ。親方とグレトラが、作戦の内容を詳しく親分に説明した。

 「よし決まりだ。ここにいる11羽でやる。今度雨の匂いがしたら、カーキチ、おまえの大きな声で4回鳴け。それを合図にここ、カー子とカンタの巣があるこのトウカエデに集まれ。後はそのときに指図する。」コウゾー親分はそう言うと、「カーキチ、カンタ、ポー、付いて来い、下見だ。」と、バサッと飛び立ったんだ。僕も食べかけのセミを咥えたまま、一緒にとびたった。

 

 空はもう8月の太陽が西に傾いて、少しだけ涼しい風がふきはじめていた。

 

 

 

 

第三十三話 「コウゾー親分の知恵」 

   風は涼しくて気持ちのいい西日時だけど、咥えたままのセミを丸呑みしたので、クビの中で引っ掛かってムズムズするんだ。僕たちの口箸は、地面にある物を突いて壊したり、足で押えた物を、引っ張って千切ったりは出来ても、挟んで潰したり噛み砕いたりする力は、凄く弱いんだ。戦いに使う足の筋肉と、飛ぶための胸と肩の筋肉以外は、カラダを軽くするために削られて、あごの筋肉は小さくて、とても弱いんだ。だから、頭ごとあごの筋肉みたいな、二セクロさん達の様には行かないんだ。

 

 「ヨーシみんなここへ集まってくれ。奴らの殆どが、このクスノキと隣のプラタナスの樹に非難したらしい。」、と言ってコウゾー親分がとまった樹は、野球場南側のサイクリングロードを西に来た、西児童遊具エリアの大きなクスノキだった。

 トウカエデに混じって、ケヤキ、シイノキ、クヌギなんかも生えている林が、野球場の周りを、ドーナツ状に取り囲んでいるんだ。そのすぐ南西の外側にこの遊具エリアがある。野球場の南東側にある、排水口の格子蓋から出てきたハクビシンの連中は、トウカエデの多いドーナツ状の林の、南の部分を50mも突っ切ってここまで来た事になるんだ。

 

 「イイかみんな、あの格子蓋から東は、公園管理棟やテニスコートの駐車場だから、二本足の臭いがきつすぎて、奴らは近づかない。西へ向かってくれば、このクスノキとそこのプラタナスを入れても、ここまでの間に、トウカエデじゃない樹は、七本だけだ。」、と親分が言うと、カーキチがこういってきいた。

 「でも、サイクリングロードを南へ渡れば、ケヤキやシイノキが多いよ。」

 「そこだ、」、コウゾー親分はカーキチに答えながら、話をつづけたんだ。

 「公園南東角の大婆さんのクスノキから、銀杏並木を通って野球場の南を抜けるコースは、地面が低い。野球場の西を北から合流してくるコースは、地面が高い。同じサイクリングロードでも、大雨が降ると南側だけ川になっちまうんだ。」そして親分は更に続けた。

 「コースから南側は、完全なニセクロさんたちネコの縄張りだ。もしそっちへ入っちまって、コースが川になると、奴らはネコの縄張りに閉じ込められちまうから、最初からそんなヘマは打たねえって事だ。」そして、コウゾー親分は、作戦の話を、少し心声を低くしてはじめったんだ。

 「北からのサイクリングロードを、野球場が一番西に膨らんだ、公園の西側まで10m位しかない所で、二セクロさんたちにブロックしてもらい、オレ達は、トウカエデ以外の樹を占領しちまえば、奴らが行けるのはトウカエデだけになる。そこで下はグレトラの大将、上からはおまえ達3羽で追い回すんだ。それでも奴らがトウカエデを登る事が出来なければ、コトがはっきりするって訳だ。」

 「親分、オレも全く同じ考えだぜ。」いつの間にか来ていたニセクロの親方が、下から笑いながらそう言った。からっとした涼しい風が西から吹いて、今日の夕立は期待できそうもなかった。

 

 「よし、今日はもう解散だ、暗くなっちまうぜ。」、親分がそう言うと、東側のテニスコート前の林から「カナカナ カナカナカナ」、と、日暮しの鳴く声が聞えてきた。

 

 

 

 

第三十四話 「突然の突撃に向かう」

 ヒグラシの鳴き声を聞くと、僕は母ちゃんを思い出すんだ。去年の今頃、まだ飛べるようになって3ヶ月足らずのぼくに、「このカナカナさんたちが泣き出すと、すぐに日が暮れて何も見えなくなるんだよ。」、と毎日のように教えてくれたのが、ついきのうの事みたいで、凄く寂しくなるんだ。

 

 ぼくには、シイノキ爺ちゃん、クスノキの大婆ちゃん、コウゾー親分やニセクロの親方、それにカー子おばさんだっているから、知らない事や色んな知恵は、いつでも教えてもらえる。だから母ちゃんがいなくても平気なはずなのに、時々我慢できないほど、寂しくなるんだ。

 だから、父ちゃんと母ちゃんは、それをちゃんと知ってて、ぼくが眠ると、いつも夢の中に出て来てくれるんだ。ヒグラシが泣き止むと、真っ暗闇と一緒に眠気の天使が、母ちゃんたちを連れてやってきた。

 

 高い空を、父ちゃん母ちゃんと3羽で飛んでいる、そんな夢を見ていると、父ちゃんがキタナギにやられた時の、いやな臭いで眼が覚めた。

 

 「オイ、起きるんだポー。」、コウゾー親分だ。いや、もう1羽いるが、まだ真っ暗で分からない。

 空だけやっとぼんやりと白くなって来たが、まだ日の出には随分間があるんだ。

 

 「ゴンニー親分が来ているんだ。ひどい怪我をしている。」

 「ええッ、どうしたの?」

 ゴンニー親分は、紅葉山と給水塔の群れ、日泰寺の森の群れ、揚輝荘庭園の群れ、この三っつの群れの70羽のカラスを束ねる、覚王山の頭なんだ。

 

 「すまねえ、きのうの夕方、城山のカラスに攻め込まれた。こっちも応戦したし、上野天満宮や蝮が池八幡の兄弟たちも駆けつけてくれたが、手遅れだった。揚輝荘は完全に占領された。日が昇ると、お寺の森に攻め込んでくる勢いだ。」、ゴンニー親分が言うとすぐに、コウゾー親分が、「急いで、みんなを起こして、南棟の屋上へ集めろ。」、とぼくに言った。すぐに15羽の闘えるカラス全員が、市営住宅南棟の上に集合した。

 

 コウゾー親分の判断は早かった。「今すぐに、揚輝荘を攻める。逃げる奴は追うな。向かってくる元気のいい奴だけ、徹底的にやっつけろ。天満通りは絶対に東へ超えるな。一気に揚輝荘だけを奪い返せ、行くぞ。」、みんな鳴き声を立てずに、まだ薄暗い街を、低空で東へ向けて飛ぶ。

 

 紅葉山でゴンニー親分の所の40羽ほどと合流し、お寺の森に着くと、天満宮、八幡、それに清明山のオンミョウ親分や徳川園のトクサン親分の所からも駆け付けたカラスをあわせ、200を超える大きな群れになったんだ。

心声を殺したまま一斉に飛び立つと、揚輝荘までは20秒とかからなかった。

 

 「カアー、」バサバサバサバサー!

 

 今まで気配を殺していた200羽ほどが、ゴンニー親分の第一声を合図に、ものすごい羽音と泣き声の塊になって、揚輝荘に雪崩れ込んだ。先頭にはカーキチ、カンタ、そしてぼくもいたんだ。

 

第三十五話 「揚輝荘を奪回せよ、」

 揚輝荘北庭園は、覚王山の中心,日泰寺のすぐ東にあるんだ。庭の池に、お寺の五重塔が映り込むぐらい近いんだ。周りのお屋敷の森やマンションの緑地、日泰寺本堂東裏手の森も含めて、一つの大きな森だけど、人間と言う二本足の連中が、勝手に、塀や道路で区切ってるだけなんだ。

 庭園の森は東に開けた谷になっていて、東隣のマンションの森につながっている。その更に東は、南北に走る天満通りに面し、その向こうは、古い城跡の大きな森に神社が建つ城山なんだ。だから、天満通りが、城山の群れと、覚王山の群れとの縄張りの境になっているんだ。

 東向きに開けた谷だから、東からが攻め易いけど、あいにく東側は、城山の縄張りだから無理だ。でも谷が開けているのは東だけではないんだ。空を飛ぶぼくらにとって谷は、上に向かっても大きく開けている。

 

 ぼく達、公園の群れを先頭に、いつも、猛禽の奴らとも戦いなれている清明山と、天満宮のカラスをあわせた50羽ほどが、難しい低空を西側から突入したんだ。揚輝荘を占領していた城山軍200羽ほどの内、150羽ほどは東の天満通りまで逃げたが、50羽ほどが応戦して来た。

 それでも、不意を突かれた奴らと、不意打ちをかけたぼくらでは、勝負にならないんだ。あっという間に僕らは庭園内の樹を、全て取り返したんだ。だけど、応戦して来た50羽は東へは逃げずに、今度はすぐ東上空から攻撃して来た。これではこっちが完全に不利なんだ。

 「大丈夫だ、絶対に引くな。」コウゾー親分がそう言った瞬間、西の上空から100羽ほどのカラスが、真っ黒い塊になって、城山の群れに襲い掛かり、別の50羽ほどが東側のマンションの屋上に陣取った。

 

 最初に天満通りまで逃げた、150羽の城山の本隊が、体制を立て直す暇もなく、決着は着いてしまったんだ。森を真上から見下ろすマンションの屋上を、見方のカラスで固めたのは大きかった。ヨシッ、勝ったんだ。

 

 「ここで覚王山が出て行けば、向うも引っ込みがつかねえ、ここはオレが話をつける。いいな、ゴンニー。」、「すまない、コウゾー親分。」、うなづくゴンニー親分に笑いかけながら、コウゾー親分が言った。「カンタ、カーキチ、それにポー、今から城山のゲンタ親分の所へ行って、話をつける。おまえ達、護衛について来い。これも勉強ってもんだ。」

 

「エーッ、」 (*へ*;))///

 

 

第三十六話へ

つづく

 

老人少年

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