Ponkotutuusin

 

第6集

老人少年 著

小説

カラスの眼

 

第26話→第30話

 

ごあいさつ

Yahoo!ぽつうで、ご好評頂いた、カラスの眼文庫が、

今回、リニューアル版で、連載投稿させていただく事に

 なりました。毎週火曜日の、深夜、11時55分に、アップ

  ロードしてゆく予定です。宜しくお願いいたします。   

 

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第二十六話 「親の恩続  大婆ちゃんの授業」

 ぼく達の全然知らない、卵や赤ん坊だった頃の話になったので、ぼくもカーキチ兄貴も、もう身を乗り出して夢中になって、大婆ちゃんの心声に集中したんだ。

 

 「今じゃ、コケだらけの体になっちまって、枝も折れやすい婆さんになったんで、巣を作るカラスも居なくなっちまったけど、あたしだって若い時分には、毎年卵をかえし、ヒナが巣立つまでの、親ガラスの苦労は、見てきてよおく知ってるんだよ。」

 

 朝の太陽の光に、折り重なって茂った、たくさんの小さな葉をキラキラさせながら、大婆ちゃんは話を続けた。

 「卵を抱いている時だって、そりゃあ大変だ。とにかくちゃんと抱いていなくちゃ、卵がダメになっちまうし、蛇やハクビシンが悪さをしに来ても、身動きできないから、そのまま楯になって、必死で戦うしかないんだ。」

 長い年月に、色々な出来事を見ながら生きて来た、クスノキ婆ちゃんの話は、送られてくる心声が言葉だけではなく、映像も、しっかり付いて来るんだ。そして物語が、今ここで起きている事のように話が続いた。

 「ハクビシンはおまえ達も知っている、あの鼻が曲がるほどクサイい臭いだけど、アオダイショウは臭いが弱いから、おまえらの眼が利かない夜は、神経をピリピリさせて鼻を利かす以外ないのさ。」

 大婆ちゃんの話し方にも、力と熱のようなものがこもって来たんだ。だから、いつもなら、キョロキョロと周りを見回す癖のカーキチ兄貴も、じっと話に耳を傾けているんだ。先をせかす様に身を乗り出すぼく達にかまわず、大婆ちゃんは、相変わらずゆっくりと続きを話したんだ。

 

 「夕方が一番危ないのさ。おまえらは眼が利かないが、奴らには何でも見えてるんだからね。ポーの弟と父ちゃんが、可哀想な事になったのも、やっぱり夕方だった。あの時はハクビシンのボスの、キタナギの野郎だったけど、臭いの弱い蛇の時は、一生懸命鼻を利かせながら警戒するから、ものすごい心声を発するんだよ。それが、その時の臭いと、絞め殺されるかも、と言う恐怖感や警戒心とがセットになって、まだ卵の中に居る、お前達の脳みその、奥の奥の方にしまい込まれるのさ。」、そして大婆ちゃんは、我に帰った様にもうひと言、「分かったのかい、このチンピラのカスども。」と怒鳴って、いつものおっかない大婆ちゃんに、戻っちゃったんだ。

 ぼく達は、「クスノキ婆ちゃん、親切に色んなことを教えてくれて、本当にどうも有難う。」、とお礼をちゃんとしたんだ。すると大婆ちゃんは、今度は少し悲しそうな感じで、「もういいから、可愛いスズメ達も怖がるし、おまえ達はあっちへ行きな。」、と言ったんだ。

 

 「ぼく達に、話をしている内に、色んな嫌な事、つらかった事を、思い出させちまった。随分年をとったクスノキ婆さんには、済まなかった気がするぜ、なあポー。」、とカーキチ兄貴が言うと、「そんな事はないよ。おまえ達、大人しく良い子にして、ちゃんと話を聞いてくれたじゃないか。」

 体中緑色にコケやシダ類で覆われた大きなクスノキより、もっと大きい暖かさで、後ろからぼくらを包むような、大婆ちゃんの心声が聞えてきた。

 

 

 

 

第二十七話 「羽根づくろい」

 「噴水にいくか?」「うん、」大婆ちゃんの所を後にした僕たちは、羽根づくろいをしに、ユリ園の隣にある噴水池にやって来た。

 「少し暑くなってきたね。」、僕が言うと、「天気がいいから、今日もどんどん暑くなるぞ。こんな日向に出ていられるのも、涼しい今のうちだよ。飛び回っている分にはいいけど、ひら場は地面の照り返しが、暑くていけないね。」

 

 カ-キチ兄さんはそういうと、口箸に池の水を付け、翼の内側の飛び出した羽根を、器用につくろいだした。翼の下は、ぼくらが、空を飛ぶ時に必要な、浮力と言う物を生み出す、大切な場所なんだ。

 「ここが滑らかになってないと、飛ぶ時に疲れるし、すいすい気持ち良く飛べねーからな。」

 兄貴が言う様に、浮力を受ける翼の内側は、外側よりも、元々滑らかになっているけど、その為に、硬い羽根が多い外側より、柔らかい羽根が、隙間なく沢山生えているんだ。だから、放っておくとモジャモジャになってきて、スイスイ飛べなくなっちゃう。毎日手入れするのはその為で、これはとっても大事な朝の身支度、昨日は、朝から餌捕りと、その後のムクドリ騒動で、やる暇がなかったから、ぼくの翼はもう限界だった。羽根が一ぱい飛び出していて、てこずってしまうんだ。

 

 あれ、羽根づくろいをしながら、カーキチ兄さんが、だんだん池の反対側へ移動していくんだ。なるほど。「にやー」、と鳴きながら、ユリ園の外側のツツジの植え込みの中から、グレトラの兄貴がひょっこりと出てきた。

 「やってるな、兄弟。」、グレトラは、ぼくらがお洒落か何かで、羽根をつくろっていると、そう思っているんだろう。だから、ぼくは説明したんだ。

 「今回はモジャモジャで大変なんだ。きのうは、これをやらずに餌捕りだのムクドリだので、さんざん飛びまくったからね。でもこれをやって置かないと、飛び出した羽根に空気が引っ掛かっちゃって、調子よく飛べないんだ。」、そう言うとグレトラ兄貴が、

 「そうか、それじゃあおれ達の毛づくろいとは、随分事情が違うんだな。おれ達のは、お洒落って言うか、あれをやると、気持ちがすっきりして、具合がいい。だいいち、身なりがぼさぼさでみすぼらしいと、舐められちまう。」、と言ったんだ。ふーん、と思った僕は、羽根づくろいを続けながら、心声で話した。

 「お洒落だけじゃないんだね。気分がいいのも、身なりをちゃんとするのも、大事だと思うよ。僕らも、こっれをやった後は気分がいいよ。それにね、モジャモジャだと上手く飛べないでしょ。それで変な飛び方をしていると、病気か何かで弱っている様に見えてしまい、猛禽の奴らに狙われちゃうんだ。」

 「そっちは友達かい?」、とグレトラが訊くので「うん、」と答えると、今度はカーキチ兄さんに話し掛けた。

 「喧嘩のカーキチだろ、知ってるよ。何もしやあしないから、こっちに来て話をしようぜ。」すると、安心したカーキチ兄さんは、「オレもグレトラさんのことは知ってるぜ。ニセクロの旦那の所の一番弟子でしょう。」と、飛ばずに、池の縁をピョンピョンと戻って来た。

 

 おっと、そこへニセクロ親方の登場なんだ。

 「ニヤーオ、きのうはみんなご苦労だったな。」

 

 

 

 

第二十八話 「ニセクロ親方の重大ニュース」

 「親方こそ、遅くまで見回りお疲れ様でした。」

 「夜は、私ら眼がさっぱりですから、ニセクロさんにはいつも心配してもらって...」、ぼくとカーキチ兄さんは、挨拶代りにそう言ったんだ。すると親方は、「おまえ達こそきのうは大手柄だ。見ろ、シイノキ爺さんの、朝から機嫌のいい事を。勿論オレからも礼を言うぜ。」

 よその群れとも力を合わせて、みんなに喜んでもらえる事が出来て、ぼくも1羽のカラスとして、誇らしい事なんだと、親方にお礼を言われて、改めてそう思った。「カーキチも居るなら丁度いい、実はゆうべ面白い事が分かったぞ。」、そういってニセクロ親方は、後ろ足を投げ出し、お腹を舐めながら話をはじめた。

 

 「キタナギ達は、背の高いトウカエデの樹には、おそらく登れないぞ。」

 「ええっ、それはどう言う事なの?」、これは大変なニュースかもしれないと、そう思ったぼくが訊くと、親方は、少し心声を小さくして続けた。

 「奴らハクビシンの連中が、配水管からの出入に使っている、あの格子蓋のある近所は、ケヤキとトウカエデばっかりだから、一本ずつ臭いをかいで回ったんだ。そうするとどうだ、ケヤキには臭いが付いているが、トウカエデはと言うと、皆目それがないんだ。」

 「それじゃあ、トウカエデには、連中でも登れないって事なの?」こんな大事な話は、聞き逃してはいけない。ぼくらの命にかかわる事なんだ。もしそれが本当なら、全員トウカエデに巣を引っ越せば、ヒナや卵を、とりあえずハクビシンには食われずに済むんだ。

 「おそらく間違いない。」、親方は、話を続けたんだ。

 

 「おれ達にしてみても、奴ら程上手くはないが樹には登る。ただあんなツルんと真っ直ぐなトウカエデには、最初から登れないし登る気もおきないぜ。幾日か待ってくれないか。今度の夕立か大雨の時、ハクビシンの連中が、実際どんな動きをするか確かめれば、その辺がはっきりして来るってもんだ。」

 「そんな大事な話なら、すぐに親分の耳に入れなきゃいけない。」、とカーキチ兄さんが言うと、今度はグレトラが、「それならオレが、ゆうべの内にコウゾー親分の所へ寄って話しておいたよ。近々みんなにも親分から話があるんじゃないかな。」

 

 「何だか悪いよ。あの後ぼくらは巣に帰って寝ちゃったのに、グレトラと親方は遅くまで見回って、こんな大事な話まで持ってきてもらって、なあポー。」、「本当だよね、兄貴。」僕らがそういうとニセクロの親方が笑って言ったんだ。

 「猫とカラスじゃあ、棲む世界も違えば、出来る事、出来ない事もまるで違う。お前たちが当たり前に飛べる空は、猫にとっちゃただの景色だし、逆におまえらには真っ暗闇の晩の公園は、猫には昼間とあまり変わらない。お互い出来ない事を笑ったり、バカにするより、仲良くして助け合えば、お互い世の中が拡がるんだ。」

 やっぱり、親方はかっこいい。言う事の筋が通ってるし、事実、行動で示しているから凄いんだ。

 

「オレは、カンタとカー子叔母さん、それから母ちゃんと父ちゃんに話しておく。」、すっかり羽根づくろいの終わったカーキチ兄さんは、そう言って、綺麗になった翼をバサーッと言わせて飛んで行った。僕の羽根は、モジャモジャがひどかったので、中々終わらないんだ。

 柔らかい羽根がすっかり毛羽立ってしまって、いい加減な状態で一本突っ込むと、ほかの羽根が二本飛び出して、ヒッチャカメッチャカニになるから、丁寧にやらないと、なお更面倒な事になるんだ。ほかの群れや、猫との付き合いも同じで、丁寧に、少しづつもつれを解いて、今の仲良しの状態にしたんだから、親方達は、随分苦労したんだろうと思ったんだ。

 

 やっとぼくも、羽根づくろいが終わった頃には、もうお日様はてっぺんまで来てしまい、暑くて仕方がないんだ。昼寝をしに行くニセクロ先生達と一緒に、テニスコートの前の林の木陰に逃げこんだ。

 

 

 

 

第二十九話 「カー子叔母さんの辛い記憶」

 夜には虫の声も聞こえて、少しだけ秋らしくなったけど、昼間は今ぐらいの時期が、一番暑い様に感じるんだ。それでも、今までカンカン照りの噴水池の所に居た分、林の木陰に入ると、吹いてくる風が気持ち良い。

 

 「この話ばかりで悪いけど、ハクビシンの事だがなあ、」二セクロ親方が言うので、僕が、「そんな事あるもんか。僕等カラスには凄く大事な事だよ。親方の知恵で、カラスがどれだけ命を拾うか分からないんだ。」、と言うと、「そうか、それなら聞いてくれ。」、と親方は話しを始めた。

 「夕立って言うのは急だから、奴らもドッと降り出してからでは間に合わない。雨が来る少し前には動き出すはずだ。オレ達も、風の匂いが変わったら急いで、野球場の所の、例の格子蓋から出て来る連中を、監視しなくちゃいけない。」                    

 猫の縄張りの事もあるけど、今度の、ハクビシンがトウカエデに登れないのを確かめる事は、殆どカラスの巣だけの事なのに、猫の親方が、こんなに一生懸命になってくれるんだから、絶対にぼくらも頑張らなきゃいけないんだ。

                     

 「親方もグレトラもぼくらの為に、本当に有難う。すぐにコウゾー親分に話をして、今度雨の匂いがしたら、みんなで手分けして、あっちやこっちの樹の上から、奴らをしっかり見張るよ。」、と僕が言うと、グレトラが、言った。「それなら俺たちは、少し意地悪をして、わざと奴らをトウカエデの方へ追い立てるぜ。それでも登らないとなりゃ本物だ。」            

 ぼくもグレトラも、ニセクロ親方も、同じ光景を頭の中に映し出しているのが、お互いの心声が共鳴しているので分かった。     

 「オーイ、羽根づくろいはやっと終ったみたいだな、ポーのモジャモジャはひどかったからなあ。」、そこへカー子叔母さんとカンタ兄さんの親子を連れ、コウゾー親分も一緒に、カーキチ兄さんが戻って来た。

 

 「クスノキの婆さんに聞いたよ。朝からいつものスズメの相手で退屈していたら、ポ-とカーキチが相手をしてくれて、助かったって喜んでたよ。」親分がそんな事を言うから、僕は説明したんだ。

 「それはだいぶ違いますよ親分。最初は髄分嫌がられたのを、無理やりお願いしたり、大婆ちゃんは物知りだって持ち上げたりして、無理に色々教えて貰ったんだ。」

 すると親分は、「何にも分かっちゃいねえな。ああは言うけど、大ばあさんはオマエらが可愛くて仕方がないんだ。時々は顔を出して、喜ばせてやらなきゃいけねえ。」、と笑った。ぼくとカーキチ兄さんは、少し首をかしげながら、それでも親分が言うんだから、そうしようと思った。

 

 「ところで、例のトウカエデの話だ。」、と親分が言うと、「もしそうなら凄い話だよ。」、とカー子叔母さんが強い心声で続けて言いかけて、言葉がつまったんだ。「もっと早くに分かってりゃ、」       

 カンタがまだ卵の中にいた頃、カンタの父ちゃんと、もう一つの卵も、キタナギの手下に食い殺され、カー子叔母さん独りで、まだ飛べなかったカンタを守り抜いたんだ。

 「カー子、気持ちは分かるが、済んじまったことを泣いていても、一つも良いことは起きねえんだ。まだはっきりはしないが、野球場に一番近いおまえの所だけでも、みんなで手を貸すんで、引っ越しちまうってのはどうだ。」と言う親分に、カー子叔母さんが済まなそうに答えて、

 「いいのかい、すまないねえ。」と、カー子叔母さんが言う頃には、気の早いカーキチ兄さんが、あっという間に6羽の若いカラスを集めて戻っていた。

 

 「よし、下の見張りは任せろ。グレトラ、枝の一本でも落としちまったのがあれば。拾っておけ。どれもカンタの父ちゃんの大事な置き土産だ。」二セクロの親方も、協力を買って出てくれたんだ。よし、話はカンタのうちの引越しを片付けてからだ。

 

 

 

 

 

第三十話 「「引越し」、カー子は思い出のケヤキをあとに」

 「オーイ、ここはどうだ。高いし枝もしっかりした良いトウカエデだ。」コウゾー親分が早速見つけたのは、野球場南側の大きなトウカエデの樹だ。下の方8mはツルンと枝もなくて、それから上は逆に良く枝が茂っていて、巣を掛けるには持って来いの樹なんだ。

 「そこにするよ、いいねカンタ。」カー子叔母さんも気に入ったみたいだ。カンタも、自分の所の引越しに、大勢の仲間が駆け付けてくれて、嬉しそうなんだ。いつもは独りが落ち着くぼくでも、大勢で力を合わせて何かする楽しさが、急に最近分かって来たんだ。

 「ヨーシ決まった。ニセクロの親方、下は頼みます。オイみんな、片付けるぜ。」コウゾー親分が号令すると、サイクリングロードを挟んで、丁度、今度のトウカエデの向かいにある大ケヤキに、バサバサッと11羽のカラスが集まった。カンタ兄さんの生まれたうちだ。

 カンタにも、棲み慣れた巣だったが、カー子叔母さんにとっては、死んだカンタの父ちゃんとの思い出がいっぱい詰まった、大切な場所なんだ。「早く新しいオスと、つがいを作って、カンタの弟や妹をこしらえろ。」と、うるさく言う親分だけど、カー子叔母さんが、思い出の大ケヤキから遠くへ行きたくない気持ちを、ちゃんと分かっていて、近くのトウカエデを選んだんだ。

 

 「さあ、ひと働きだ。近くだから引越しも早いぜ。勝手の分かった近所なら棲んでも不便がねえ。」、コウゾー親分が言うと「本当に有難う。助かっちまうよ。」、叔母さんも嬉しそうにせっせと引越しに精を出した。

 叔母さんとカンタが丁寧に解体した巣の材料を、ぼく達若いカラスが、トウカエデの新しい棲み家の方へ運ぶと、それをコウゾー親分が素早く巣に組み上げた。親分は器用な大工さんなんだ。

 「オーイ、運び終わったか。落し物はみんなここに集めたから、取りに来な。」したからニセクロ親方が心声を送ってきた。どうしても小さなヒノキの枝や葉っぱが落ちてしまうのを、親方とグレトラが下で待ち構えていて、ほかの枝や葉っぱと見分けが付くように、一箇所に集めて置いてくれたんだ。

 家族の匂いの長年沁みついた物は、どんなに小さな小枝や葉っぱでも、大切な財産なんだ。

 

 近いし、大勢でかかったので、あっという間に引越しは終った。「みんな、手間を掛けちまったね。本当に助かったよ。」叔母さんがお礼を言うと、親分がすかさずに言った。「引越しなら手伝えるけど、カンタの新しい父ちゃんは、自分で見つけなよ。」、「もう、親分ったら、」カー子おばさんは、少し照れ臭そうに答えた。

 「ここなら安心して卵も産めそうだし、ニセクロの親方にまで世話を掛けちまった。あたしも頑張らなきゃいけないね。」すると、下から親方が、「あんたの苦労は、ちゃんと見て分かってるよ。おれ達にもネコナサケってもんが、あるって事さカー子姉さん。」、と笑って言った。

 

 「こりゃ、ハクビシンどころかアオダイショウでも、登るのは難しいぞ。」

 さっきからグレトラが、このトウカエデに飛びついたり、幹に爪を立てたり、何をしているのかと思ったら、登りにくさを確かめていたんだ。「おいおい、いくら試しても、木登りのめっぽう下手くそなグレトラが試したんじゃ、殆どの樹はD難度になっちまうぜ。」、とニセクロ親方が笑った。

 「確かにそうだけど、ひどいぜ親方。」そういうグレトラにつられてみんなも笑うと、「笑わないでおくれよ。カラスでもないグレトラさんが、あたし達のために一生懸命試してくれたんじゃないか。グレトラさんがもしカラスなら、あたしゃ惚れてるところだ。」、と叔母さんが言うから、「こいつはいけねえ。」と、みんなで、なおさら大笑いになってしまったんだ。

 

 

 

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つづく

 

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