Ponkotutuusin
第1集
老人少年 著
小説
カラスの眼
第1話→第5話
ごあいさつ
Yahoo!ぽつうで、ご好評頂いた、カラスの眼文庫が、
今回、リニューアル版で、連載投稿させていただく事に
なりました。毎週火曜日の、深夜、11時55分に、アップ
ロードしてゆく予定です。宜しくお願いいたします。
老人少年ブログファミリー
potuu 配信ほんぶ
第一話 「ぼくはポー」
ぼくはポー、名古屋ガラスのはしくれ、まだヒナの頃に、変なものを食べちゃったらしく、声が変なんだ。「ポーッ」。
千種公園球技場脇のヒマラヤスギの、下からは見えない秘密の枝が、ぼくの棲み家なんだ。まだ一歳半だけど、独りでちゃんと餌もとるし、空中戦や急降下だってへっちゃらなんだ。
ただ、上手に鳴けないのではなく、ちゃんと声は出るけど、その声が変なんだ。「ポー」。集団ガラスの連中は、しょっちゅう隣のヒノキに団体でやって来て、用もないのに「カアー、カアアー」としつこいんだ。
ぼくは思う。何も、鳴き声がカラスの値打ちを決めるわけではないんだ。もっと言えば、カラスりょくの評価項目中、鳴き声なんかは取るに足らぬ、ささいな、ほんの一部分に過ぎないんだ。「ポー」。
群れの奴らは、ぼくをからかうためだけに、わざわざヒノキに集まって、ただの普通ガラスの声で「ガーガー」うるさいのだから、ぼくは、別に恨んではいないが、あいつ等のことを、あまり好きじゃないんだ。
だからぼくは、独りガラスで居るのがいいし、それで困ることも特にない、「ポー、ポー」。
公園の南側は工事中の市民病院。病院の裏に、少し威張った黒猫が居るんだ。病院長でもないのにすぐ偉そうにするし、だいいち見た目がまっくろけでぼくと丸カブリなんだ。だから今日はニセ院長のアイツに少し、チョッカイを出すのが、面白そうだと思っているんだ。「ポー」。 ὲ.∠
第二話 「ニセクロ」
黒猫のニセ院長の居場所は、大体掴んでいる。
病院の裏手には大きなコンクリの土台が二つあって、一つには水道のタンク、もう一つには、ばかでかいコンテナーの様な変電室が乗っかっている。どちらも土台との隙間は10cm足らずだが、20cmも奥へ入り込むと、5~6cm土台が下がっていて、冬はあったかい変電室の下、夏は涼しいタンクの下が、「ニセクロ」(ユニクロさんとは関係ありません。)の秘密基地(でもバレバレさ)なんだ。
「ニセクロ」はそのバレバレの基地に入ると、僕らと同じ真っ黒なので、「院長様の監視だぞ」みたいに、偉そうに目だけギョロギョロさせている。かなり偉そうにするんだ。
「ポオーッ」、ぼくは一声鳴いて病院裏へ飛んだ。秘密の枝から15秒、人間達の歩きだと3分は楽にかかる。人間達も相当に偉そうだが、何しろ足は猫より遅いんだ。
変電室の土台の陰からタンクの下をのぞいたが、アレ?ニセクロ先生いないぞ。ハッとして目の前の変電室の下ものぞいたが、こんなくそ暑い所には、やっぱりいないんだ。
「ポオーッ」、バッサ、バッサ、~ぼくは上空に舞い上がり、空から捜索を始めた。真夏の照り返しで地面は白く光るので、ニセクロの黒いずうたい(俺も*~*)ならすぐに、見つかるんだ。「ポオー」
しかし....この炎天下をうろうろしているのは、熱中症でぶっ倒れてもお金がほしい翼の無い二本足ばかりで、猫一匹見当たらない。んんんん..いたぞ……、イチョウの大木並木の遊歩道から出たベンチの下だ.。先生うまいところに陣取ったつもりかも知れないけど、ぼくの目はカラスの眼、節穴ではないんだ。
よーしやったぞ、「ポオー、ポオオーッ」、おっと、ここで大声は下の下だ。今慌てて気付かれでもすれば、お楽しみはナシになるんだ。「ポーッ」…。 一度病院の上空に戻って、大木並木の反対側から、遊歩道に低空から滑り込み、バッサーッ、ニセクロの昼寝するベンチから、20m手前の日陰に着陸した。アッ..,、何も知らない美人の二本足が、ニセクロが下で寝てるベンチに、こッ..、腰掛ちゃったぞ、どーしよー…..。
第三話 「美人さん」
ニンゲンとか言う2本足の手合いは、すこぶる間抜けでいけない。あの美人さんときたら、事もあろうに、あのクセ猫が下に陣取るベンチに腰掛け、コーヒー片手に休憩を始めちゃうんだから。
むろん彼女には何の罪もないが、ソコをブロックされちゃったら、ぼくのお楽しみはまるでおじゃんなんだ。
仕事とか学校とか、意味の分からない習性の二本足と違って、カラスは必ず1日に1個、お楽しみをやらなきゃだめなんだ。これは、こころとカラダのバランスの為に、縄文時代よりうんと前からずっとずっとやってきた、大切なしきたりなんだ。二本足だって同じ背骨類だから、やらなきゃだめなのに、ここ最近は、良く分からないオカネとかに夢中で、オサケとか借り物のゲームとかでごまかしてるんだ。
勝手にセンソウなんかまでやっちゃう間抜け動物の心配より、今のぼくには、ニセクロをのんきに尻の下にして腰掛けてる美人二本足1匹が、死活的に邪魔なんだ。よーし、落ち着くんだポー、慌てて切り抜けられるピンチなんてないんだ。自分に言い聞かせて、ここはじっくり待つのも仕事だ。
そう思って、ちょろちょろする鳩やムク鳥に目もくれず、ベンチの下のニセクロに神経を集中したんだ。とッ、ところがだポーッ..、美人さん今度は、ポテトチップの袋に手を突っ込みながら、小説なんか広げてるんだ。いッ..池波正太ロウーー...、長編だー(@-@)...\\\\\\\\’「せッ、戦国女子カー、いやポーッ...、」こりゃ何とかしなけりゃ日が暮れちゃうぞ。
バサバサーッ、まず、美人の真上に舞い上がる。パサーシュー、ガサッ..、羽音を立てずに急降下して、膝の上のポテチをかっさらい、10㍍先の噴水の手前にポトッ、ぼくの口には、生まれつきお箸がくっついてるから、ちょろいのだ。しめた、美人さん慌ててこっちに来るし、猫先生はまだオネンネだし、大成功、やったね。ポー、
バッサーッ、一旦急上昇したぼくは、ニセクロがその丸い背中を向けている、北側の大木並木の、一番下の枝ギリギリに飛んでブッシュイン。なんとベンチ手前7m地点までのグレートエントリーに成功したんだ。
美人さんが「ヤーン」と悲鳴を上げたポテチ騒動の時、半分目が覚めたのか、
ニセクロの背中の毛が、ゾワゾワと波打ってる。でも大丈夫、先生の態勢はまだそのまま向うを向いている。さー、へへへ、ここからだぜベイビー
第四話 「病院ねこニセクロに肉迫するポー」
とにかく美人「戦国女子」さんの妨害ブロックは、どうにかクリアできた。公園南側の病院ねこ「ニセクロ」に、縁の下を占拠された遊歩道脇のベンチと、ぼくとの距離ははもう7m。まずは、これをじわりじわりと縮めてゆく。なんといってもこの、ブルッと体が熱くなる興奮と緊張感が、ぼくはたまらなく好きなんだ。こう言うのが、心身ともに健全なカラスで居るためにはすごく重要で、ぼくらにとっては水浴びや餌捕りと同列の、大切な生命活動なんだ。遊具エリアで子供の二本足ドウブツに「ニャーニャー」言ってる、へなちょこの様なのをいじっても、そんなのはただの弱ねこいじめで、ひとつも興奮なんかしないし、何の危険もない。
そこをいくと、病院の北側と公園の南半分でテリトリーを守り、独り侵入者に目を光らすニセクロは、偉そうにはするが、その分メンタルも身体能力も群をはるかに凌ぎ、危険度も高い。
そもそも、ねこ達とぼく等では、車と飛行機ほどに次元レベルの差があって、ぼくみたいなひよっこガラスでも、彼らには結構な脅威となる。
だから、弱ネコなんかに手を出しても、ただの卑怯者にしかならないし、だいいちありがたくもなければ、面白くもおかしくもない。
それより、あんな事をして追っぱらっちゃったけど、美人さんのワンピースは、水色にミートボールぐらいの白抜きのドット柄が涼しそうで、カッコ良かったなー、ポテチ食いながら池波正太郎読んでたなー、本のページが油だらけで凄かったなー、でも美人さん、いい匂いがしたなー、そうか、ぼくは池波正太郎を油地獄から救ったんだ。えッ?ポテチがもったいなかったッて?あんな干枯らびた芋の枯葉もどきなんか食うほど、ぼくは困ってないよ。だって、今ならまだジージー言ってるイキのいい蝉くんとか、モロズミさん家が生ゴミで出す、腐る一歩手前の照り焼きミートボールとか、腰が抜けるほどオイシイものなら、まだまだいっぱい、ぼくは知っているんだ。
おっと、興奮しすぎると脳みそに落ち着けバイアスが効いて、余計な事を妄想しながら、ニセクロさんにあと5mの所まで来ちゃったぞ。おおオッ... 尻尾が動いた、ゴロン...イヤーこっち側に向いたぞー...ッ、「二ッニャーオ」、ナン~鳴いたあーー。やっぱニセクロ、近くで見ると迫力あるし、ウへー、カックイイわ。サイコーだぜニセクロ。
もうぼくは、興奮しすぎて、羽をバサバサもしたいし、大声で「ポオオオーッ」とも叫びたいけど、今それをしたら本当に軍法会議モノだから、見た目は間抜けなお散歩ガラスのふりをやり過ごすんだ。
こういう時は、まともに視線を交えないで、あさっての方を見てるふりをして、視野の端っこで神経を集中させるカラス流忍法免許皆伝、秘術やぶにらみの技を使うんだ。もう、先生がぼくに気付いたのがはっきりわかる。態勢を低くし、腰を左右にプルプルさせてぼくを凝視してるのが、カラダ全体で分かるんだ。
ニセクロがぼくに向ける、焼き殺さんばかりの好奇の視線ビームは、残忍で容赦もエゲツも無い。このぞくぞくする戦慄の嵐に吹かれる為に、今日は美人「戦国女子」とも、涙を飲んで戦った。イイんだ。これがぼくの生き方なんだ。そうしていつか最強の独りガラスになって、ぼくの鳴き声を笑う連中に、カラスには、本当は何が大事かを教えてやるんだ。
第5話 「至近距離間に錯綜する興奮と膠着」
秘術やぶにらみの技で、ニセクロに気付かぬ、間抜けガラスのふりをしたまま5分、ニセクロとの距離を3m弱まで縮めた。
「グルグルフー…、」ニセクロの興奮はもう、尋常の域を逸して、あからさまだ。瞳孔を全開にして黒目をむき出し、長い尾をゆっくりと地面を掃くように左右にくねらせ、背から尾の先まで、カラダが倍になって見えるほど、毛を逆立てているのが、視野の隅に焼きついてくる。先生はもう、本気なんだ。
もしこちらが、視線を合わせてしまったりすれば、逆にニセクロがそ知らぬふりを決め込んで、ふらりと横をやり過ごすに見せて、機を逃さずにネコパンチを見舞ってくるか、さもなければ、突然飛び掛ると見せて、猛スピードで逃走しちゃったはずなんだ。そうなればもう、状況の掌握は無理で、焼かれる様な緊迫感の中で展開をコントロールする、本来のお楽しみは消滅してしまう。
実を言えば、このコンタクトを思いついた時すでに、ぼくの中にはもうストーリーが大方の姿を現していて、ここまでは美人の一件もあったが、大筋では旨く事が運んでいるんだ。あとは、初速攻撃能力秒速12mのぼくが0,3秒で飛びかかれる1,2mまで近付き、いつも威嚇的で偉そうなあのギョロ目に寸止め攻撃を見舞い、反撃してくれば、ネコパンチの射程ギリギリからくちばしを繰り出すんだ。
そして、ねこ先生が逃げ出したら、低空から少し追い回して終了。ニセクロが疲れてへとへとになるまでやるのは、やり過ぎだし、ぼくのスタイルじゃないんだ。お楽しみはお互い様で、次から嫌がって敬遠されるのは、どちらにとってみてもイイ事じゃないと思うんだ。たんこぶや擦り傷はイイが、命をオモチャにしてはダメだ。命は全部つながってるし、最初から最後までみんな大切なんだ。
え?、寸止め攻撃なんて器用な事出来るのかって?心配ご無用、ぼくら飛行動物の速度感覚は、二本足の皆さんには理解の外だろうけど、高速精密な反射神経、夜間の視力まで犠牲にした超高速動体視力、正確な空間測量機能なんかがみんな、元々ぼくらには標準装備されてるんだ。だから、あの目玉の2mm手前ピッタリに口のお箸の先端を持って行くのも簡単なんだ。
だって、あのマズそうな目玉を食うのはイヤだよ。食うならお腹か腿がオイシイ筈なんだ。そんな事はしないけどね。
ヨーシッ、あと2m、もう少しだ。先生の方が、無謀にも先に飛び掛って来れば最高だけど、世の中そんなに都合良くは行かない。
オット..,、何にも知らないオメデタイすずめちゃんが、丁度1mの所に着地したぞ。今だ。今がチャンスだ、今でしょ。
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つづく
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