第156回 直木賞受賞作。
500ページ超えの分厚さの上に二段組という分量は、持ち歩き読書には不向きなボリュームだが、文庫化まで待てずに電子書籍で。
電子版でも約1600ページ!
ボリュームも内容も、読み応えたっぷりであった。
物語の舞台は「芳ケ江(よしがえ)国際ピアノコンクール(浜松国際コンクールをモデルにしているのは明白で、登場人物たちが「ここの名物の鰻を食べに行こう」というシーンもある。)」
優勝者が世界屈指のSコンクールでも優勝した実績があり、近年評価が高い、という設定。
このコンクールを予選から決勝まで戦う、コンテスタントたちを描いた物語である。
海外からも数多くのコンテスタントたちが参加するこの大会の、この物語の軸となるのはフランスの大会で優勝した16歳の風間塵(かざまじん)。
養蜂家の父と共にフランス各地を移り住みながら生活してきた塵は、音楽学校に通ったこともなければ家にピアノもない、という異例の経歴。
直接の弟子を取らなかった、今は亡き名ピアニストのホフマンからの、遺言がわりの推薦状を持ってコンクールに臨んだ塵。
ホフマンに師事したくても叶わなかったピアニストや審査員たちは、「あのホフマンが推薦状を書くなんて…」と半信半疑だったが、塵の演奏を聴いて言葉にならない衝撃を受けるのだった。
その他、ジュリアード音楽院の学生で、美形で天才肌の、19歳のマサル。
天才と呼ばれたが、母の死後ピアノから遠ざかっていた20歳の栄伝亜夜(えいでんあや)。
一度は音楽家の夢を諦め、楽器店に勤めて父親ともなっている28歳の高島明石(あかし)……等、
個性豊かなコンテスタントたちが競う様子を、
恩田陸は筆力で我々に素晴らしい音楽を聴かせてくれる。
本当に、音楽が「見えて」「聴こえる」のだ、文字を読んでいるのに。
久しぶりに、本を読んでいてゾクゾクした。
いや、ゾクゾクという陳腐な表現では足りたない。
地響きのような、ゾワゾワ感。
テレビドラマ「カルテット」の台詞を借りれば、「みぞみぞする」という感覚が最大級に襲ってきた、という感覚か。
登場人物たちが、どう音楽と向き合い、どう演奏し、誰が勝ち上がっていくのか……。
そういうスリルも痺れる。
塵の言葉、「狭いところに閉じこめられている音楽を広いところに連れ出す」は、心に残った。
素晴らしい小説です。