高畑勲さん。宮崎駿とともにスタジオジブリを設立した映画監督。監督作品『火垂るの墓』は何度もくり返し観た。秀逸な反戦映画だと思う。2018年に亡くなった。

 

テーマ1 平和と戦争は交互にくり返す

 

【課題提起】来る2025年は戦後80年という節目の年です。世界を見わたしてみても、「戦後」という括りで時代を捉える国民はほとんどいません。明治以降数々の戦争を経て敗戦、亡国の縁に立たされた経験はそれほどに日本人の歴史観に決定的な影響を残してあまりあるものだったのです。

 10年ほど前、スタジオジブリの映画監督・高畑勲は戦後70年を記念した談話集で「…戦後70年間、日本国民は戦場に赴くことはなく、戦争で一人も殺さなかったし殺されなかった。これは世界に誇るべき歴史的事実である」(『私の「戦後70年談話」』岩波書店より)と語りました。この長期にわたる不戦・非戦の記録はいまも継続中です。いわゆる先進国にあってこれほど長期間、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」をおこなわなかった国の存在は希少です。日本がこの「名誉ある地位」にこれからもあり続けることは日本国民の願いであり、世界の人びとの希望ではないでしょうか。

 さて日本の歴史をふり返ると、戦後のような平和な時代と、戦前のような戦争の時代が交互にくり返されてきたことに気づかされます。日本の歴史の大きな流れを思い起こしてみましょう。

 

【課題探究】次の図表「戦争と平和の周期」に使って、それぞれの時代の特徴を折れ線グラフで表わしてみよう。「0」は戦争がない平和な状態であり、上に向かって戦争の頻度や激しさが増していきます。これまでの知識や時代のイメージをもとにして自由に予想してみよう。小中学校の教科書の年表があれば、参考にしてもいいと思います。

【意見交換】どんな線を描いてみましたか? あなたのグラフを見せてみんなに解説しよう。全員の話が終わったら、学んだこと、考えたことを交流しよう。

(みんなの意見交換               )

【コメント】答えはさまざまですね。正解はありませんが、なぜそうしたのか、言葉で伝え合うことが大切です。さてぼくはこんなグラフを描いてみました。その理由は以下の通りです。

 年表の古い時代から、旧石器時代や縄文時代には戦争を裏づけるような遺跡や遺物は出土していないので「0」近くをはっています。弥生時代になると、物見やぐらや環濠集落など戦争に備えた集落跡が多数発掘されているので「50」に向かって急上昇です。

 古墳時代の古墳からは盾や矛などの武器が多数出土しているし、飛鳥時代といえば聖徳太子が有名ですが、天皇の支配権をめぐる大きな内乱が続いています。天皇や貴族が競い合いながら支配を確立していった奈良時代や平安時代は大宝律令のような法の仕組みができていったので全体に下り坂としました。

 源平合戦を経て武士が政権をとった鎌倉時代は武士同士の争いが絶えず、元寇もありました。朝廷が二分した南北朝の争いのなかから足利氏が開いた室町幕府も守護大名らの対立が絶えず、応仁の乱以降100年もの間、戦乱の世が続きました。戦国大名が割拠した戦国時代がそのピークです。

 信長や秀吉、家康が武力によって天下統一した安土桃山時代から江戸時代初期までは、朝鮮出兵や関ヶ原の戦いなど戦乱が途絶えたわけではありません。平和な時代に移行するのは鎖国以降、江戸幕府の体制が整ってからは「0」に近づいていきます。

 ところが明治から昭和20年までの近代はほぼ10年おきに大きな戦争を起こしてアジアに侵略した戦争の時代です。多くの日本人が犠牲になりましたが、アジアの被害ははるかに甚大でした。アジアの人びとの抵抗と英米蘭中との開戦を経て、原爆投下や空襲そしてソ連の参戦でそのピークに達し、敗戦を迎えます。

 こう歴史をたどってみると、どの時代も戦争に明け暮れていたわけではなく、戦争のあとには平和が訪れる、周期性に気づかされます。終わらない戦争は1つもないのです。貴族政治が安定して女流文学が花咲いた平安時代、島原の乱以降ペリー来航まで200年にわたって対外戦争を1つも起こさなかった江戸時代はその周期の中の平和な時代でした。

 そして戦後の80年、経済成長が物質的な豊かさをもたらし、戦争で1人も殺さない殺されない時代が続いています。しかし平和のあとに再び戦争がやってくるのか? 周期に身を任せるのではなく、歴史に学んで平和の英知を集めることがわたしたちの課題です。

 さて、ぼくのグラフとコメント、どう感じましたか。歴史の解釈は多様です。何をもって平和とするのか? 戦争がないなら平和なのか? 差別や貧困を放っておいても平和といえるのか? さまざまな問いが頭の中に去来します。ぼく自身にとって正解がみつからない問いです。だからぜひみんなの疑問や意見を聞かせてください。

 最後に「テーマ1」の作業や議論を踏まえて、平和と戦争の周期について考えたことを感想文にまとめておきましょう。

(みんなの疑問や意見・感想文    )