富永一樹と販促彼女の恋愛事情
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
( 妹 )
カチャ、
又、此処に来てしまった・・・
「 どちらさまですか? 」
振り返ると そこには 小麦色に日焼けした美咲さんが立って居た
「 美咲さん? 」
「 はい、美咲ですが あなたは? 」
「 恵子さん? 」
「 あの~ 恵子は私の姉で 私は美咲萌ですが? 」
「 あっ、そっ、そうですよね 恵子さんが居る訳無いですよね 」
「 姉の知り合いの方ですか? 」
「 あっ、すいません 取り乱してしまって 」
「 僕は 富永一樹と申します 」
「 あの お姉さんから 僕の事は聴いてませんか? 」
「 ええ 何も? 」
「 そうですか じゃあ せめて御線香を手向けたいのですが 」
「 恵子さんの御位牌は御両親の所に? 」
「 いえ、姉の血縁者は 私ひとりなんです 」
「 ですから 姉の位牌は 私の部屋に・・・ 」
「 う~ん 一人暮らしの女性の部屋に上がり込む訳には往かないな~ 」
「 女性同伴なら お宅にお邪魔しても構いませんか? 」
「 あっ、貴女のお時間の都合が良ければですが 」
「 ええ 姉のお知り合いの方でしたら
断る理由も有りません 是非、お線香を挙げて下さい 」
「 ご自宅の方は どちらでしょうか? 」
「 ××駅の近くですが 」
「 少し 待っててもらえますか
今、同席して貰う女友達の都合を聞いてみますから 」
トルルルー、トルルルー
「 あっ、真実ちゃん 今日、今から時間空いてる 」
「 カッキ 私はヒマしてるわよ なにか有るの? 」
「 実は 今から美咲さんに会いに行こうと思って 」
「 えっ 何、後を追うつもり! 」
「 違う、違う、お線香を挙げに行くから 同行して欲しいんだ 」
「 そっかっ、変な言い回しするから びっくりしちゃったわよ 」
「 うん、でねっ、今から君ん家に寄っても良いかなあ 」
「 判った 何時ごろ来れる 」
「 二・三十分も有れば 行けると思う 」
「 じゃ 待ってるからね 」「 うん、」
「 萌さん 今から僕の車でご一緒して頂けますか 」
「 途中で 同席して貰う友達も拾いますから 」「 ええ 」
真実のマンションの前に車を横付けすると
彼女は既に植え込みの前で座り込んでいた
「 ごめん 待たせたかな~ 」「 随分待ったわよ、つって ウソ、ウソ 」
「 このまま出掛けるから 後部座席に乗ってくれる 」「 うん 判った 」
バタン
「 アッ、初めまして 坂口真実です 」「 はじめまして 美咲萌です 」
「 美咲さんの妹さんだそうです よく似てっだろ 」
「 う、うん 」( そっかなー そんなには似てないと思うけど )
・ ・ ・
チーン
「 今日は 無遠慮に押し掛けてしまい すみませんでした 」
「 いえ、姉も喜んでると思います 」
「 本日は どうも ありがとうございました 」
「 しかし 唯一の肉親であるお姉さんが亡くなってしまい
心細い事も有るでしょう? 」
「 僕で良ければ もし困った事が有れば いつでも相談に乗りますから 」
「 良ければ メアド交換しませんか? 」
「 あっ 私も、私も 」
仏壇の前で携帯を突き合わす 三人の姿は なぜかしら 滑稽にも見えた
( 真実ちゃん )
ワイ ワイ、ガヤ ガヤ、
カラ カラ カラッ ・ ・ ・
「 萌ちゃん こっち、こっち 」
「 真実さん 待たせました? 」
「 私も 先っき来て 駆け付け一杯って所 」
「 ビールで良ぃ? 」「 ええ 」
「 マスター、生中一杯ねっ 」「 かしこまりました~ 」
「 此処のモツ鍋は 美味しいんだからー 」
「 私の一押し、まっ 食べてみて 」「 はい、頂きます 」
「 今日は 別に用事って訳じゃ無く
一緒にご飯でもって思って 誘ったの 」
「 所で、萌ちゃんは 仕事、何してんの? 」
「 ハフ ハフッ、あ、私ですか 」
「 ××ビールの販売促進で 働いてます 」
「 ふ~ん 販売促進って イベントとか遣ってる あれ? 」
「 ええ、イベントなんかも遣りますが
普段は担当の販売店を廻って 販促グッズを配ったり
ゴールデン・コーナーの陳列に 明け暮れてます 」
「 ゴールデン・コーナーって? 」
「 人の目線の位置に商品を置けば 良く売れるって言われてて
各社の営業は 血眼に成って その場所に自社の製品を並べようと
他社の製品と場所を入れ替える 奪い合いに成っているんです 」
「 へ~ 毎日、イタチごっこを繰り返してる訳ね 」
「 おかげで 今日も六軒程廻って 腕がパンパンに 成っちゃてます 」
「 けっこう 大変なんだ 」
「 真実さんは 働いてないって この前 お聴きしましたが 」
「 うん、でもねっ 料理学校に通うだけじゃ 時間を持て余すから
先週から 近くのコンビニでバイト始めたの 」
「 でも、近々結婚なさるんじゃ? 」
「 私は何時でもOKなんだけど 誠司の奴が中々煮え切らなくて 」
「 あっ、言ってたっけ? 私の彼氏がカッキの親友だって 」
「 富永さんから 伺ってます 」
「 萌ちゃんは 彼氏いるの? 」
「 全然、全く、皆無でしすねっ 」
「 でも、良いな~って 思う人は居ないの? 」
「 知ってる人の中で 強いて挙げれば 富永さん位かな~ 」
「 カッキの事 」
「 確かにカッキは良い奴だけど 厳しいわねっ 」
「 どうしてですか? 」
「 だって 貴方のお姉さんがライバルなのよっ 」
「 今でも カッキの奴、恋の夢遊病者って感じなんだから 」
「 だいじょうぶ 私って 粘り強いし、めげない性格だから 」
「 う~ん、其処まで言われると 私も
貴方とカッキがくっ付いた方が
良いのかも知れないって 思えてくるわ 」
「 うん、じゃあ 私も萌ちゃんに協力して 応援しちゃおう 」
「 本当ですか、約束しましたよっ 真実さん、」
・ ・ ・
( 逢いたいよ~ )
トルルルー トルルルー
「 はい 一樹です 」
「 誰ぁ~れだ 」
「 誰だ、つって 着歴見れば・・・ 」「 でしたぁ~ 」
「 萌でぇ~す、今 札幌に来てま~す 」
「 うん、仕事? 」
「 はい、今 イベントが終わって 此れからホテルに帰る所なの 」
萌は イベントホールに腰を屈め その長い髪を掻き揚げながら
携帯を自分の口元に 押し当てるようにして 話を続けた
「 こっちは 一面銀世界で とっても寒いです 」
「 富永さんは いかが御過ごしですか? 」
「 カッキで いいよ 」
「 こっちは相変わらず 寒いけど 雪は降らないな~ 」
「 じゃ、遠慮なく カッキ、」
「 寒いよ~、早く帰ってカッキに会いたいよ~ 」
「 ハハハハッ そんなに寒いのか じゃあ、帰って来たら
暖かいメシでも 奢ってやっから 」
「 えっ、本当、やったー 」
「 おいおい、そんなに大喜びする程の 豪華な物は出ねーぞ 」
「 いえいえ 萌は 奢って頂けるだけで 嬉しゅうございます 」
「 クシュン 」
「 あっ、長話して 風邪引いてもいけないから
話の続きはこっちに帰ってからて事で 」
「 え~っ 萌は もっとカッキの声を聴いて居た~い 」
「 子供みたいな事言ってないで
風邪を引かない内にホテルに帰るんだよ 」
「 は~い 」
「 うん、こっちに帰って来たら 都合のいい日の 連絡入れて下さい 」
「 暖かくして寝るんだよ 」「 はい、お・や・す・み カッキ 」
・ ・ ・
( チョコレート )
ブォロロー キィーッ、 ・ ・ ・ ウィーン
「 ごめん! 萌ちゃん 待った? 」「 いえ、そんなには 」
「 とりあえず 車に乗って 」
カチャッ・・バタン
「 一樹さん、今日は何をご馳走して頂けるんですか? 」
「 それは 着いてからの お楽しみと言う事で 」
一樹は 小締りとした料理店の駐車場に 車を止めると
「 ここが どの辺りなのか 萌ちゃんに解る? 」
「 え~ そんなの 解んないよ 」
「 答えは あそこに見える アパート 」
「 あれっ、あそこ あたしん家じゃない!? 」
「 正解、副賞として てっちりをご馳走致しましょう 」
カラカラカラ
「 すいませ~ん、予約を入れた 富永ですが 」
「 はい、伺っております 」「 どうぞ こちらへ 」
・・・
「 一樹さん、お財布の方は大丈夫なんですか? 」
「 可愛い、可愛い、
萌ちゃんの為に奮発したんだから そんな心配しなくていいよ 」
カチャ カチャン 「 附き出しでございます 」
「 萌ちゃん、日本酒でも 如何~ 」
「 は~い、萌は お酒も売ってま~す 」「 そうか、メーカー勤めだっけ 」
「 じゃあ お姉さん、熱燗ひとつと 僕にはノンアルをお願いします 」
「 はい、承知いたしました 」
・・・
「 萌ちゃんの 札幌からの無事帰還に 乾杯~ 」「 かんぱ~い 」
「 今日は 沢山食べてよ 」
「 はい、可愛い萌は 遠慮なくいただきま~す 」「 アハハハハ 」
・・・
萌を送り届ける道すがら
萌は仔犬の様に 一樹の周りを
あっちに行ったり こっちに行ったりと落ち着きが無かった
アパートの前に着くと 萌はバッグから包みを取り出し
「 一樹さん、これっ・・ 本命だよっ! 」
「 うっぅん、ありがとう 」 一樹は 歯切れの悪い返事を返す
「 今日は ご馳走様でした、おやすみなさい 」
「 うん 暖かくして 寝るんだよ おやすみぃ~ 」
・ ・ ・
チィ~ン、
「 お姉ちゃん、一樹さんを 萌に譲ってよ 」
「 お願いだからさ~ 」
「 お姉ちゃんが居なけりゃ 萌は ひとりぼっちなんだよ 」
「 だって お姉ちゃんが居なきゃ・・ グス ヒック、ヒック 」
其の頃 一樹は夢を見ていた
音の無い砂浜で 恵子と寄り添い
二人は静かにおでこを付け くちづけを交わした
これが 一樹と恵子にとっての はじめての抱擁であった
やがて 恵子が一樹の胸に手を当て くちびるを離すと
「 あれっ、萌ちゃん!? 」
そのまま スーッと立ち上がった姿を見つめ直す やはり恵子さんだった
恵子は 二・三歩 前に踏み出し「 じゃあ 行くねっ 」
そのまま ふわりと姿を消した そう 湯気のように ふわりと・・・
一樹は 薄目を開け ベッドにあぐらを掻くと
しばらく じっと 壁を見つめていた
今の夢を 反芻するように ただ 壁を見つめていた
やがて ゆっくりと枕元に手を伸ばし
今日、萌から渡された チョコレートを一粒 口にする
「 しょっぱいや・・ 」
暗闇に見開かれた 一樹の瞳には 涙が溢れていた
( 風邪 )
トルルー、トルルルー 「 はい、一樹です 」
「 カッキ、どうしょう 」「 真実ちゃん、何か有ったのか、」
「 うん、萌ちゃんと連絡が取れなく成っちゃったの 」
「 えっ、どう言う事? 」
「 うん、昨日ねっ 萌ちゃんが電話で 熱っぽいて言ってたんだけど 」
「 今日、電話したら繋がらなくて
会社の方に問い合わせたら 風邪で休んでるって 」
「 それで 其の後 何度も掛けてんだけど 一向に返事が無いの 」
「 分かった、俺 今 出先の帰りだから
直ぐそっちに寄って 一緒にアパートに行って見よう 」
「 うん、そうしてくれる 」
・・・
真実を車に乗せて 要約 アパートに着いた頃には
陽もとっぷりと暮れてしまっていた
カンカンカン 急いで階段を駆け上り
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ドン、ドン、ドン、
「 もえちゃん 」「 萌ちゃん、居るの? 」
「 俺、大家さんに言って 鍵、開けて貰えるよう頼んでくる 」
「 お願い! 」
カンカンカン 心が逸る
ピンポーン、「 すいません 」ドン、ドン「 すいません 」
カチャッ、「 なんですか? 」
「 すいません、大家さんですか?
実は 202号室の美咲さんが 病気で動けないかもしれないんです 」
「 あっ、私、友人の 富永一樹と言いますが
連れの女の子が 今 部屋の前で待ちかねてるんです 」
「 杞憂であれば いいんですが 急いで鍵を開けて頂けませんか 」
「 あっ、ちょ、ちょっと待っててね 」
カタン パタッ カチャカチャカチャ
「 さっ、行きましょう 」「 お手数を掛けます 」
カンカンカン カチャリ キ~ッ
「 真実ちゃん どおぅ、萌ちゃん居る? 」
「 カッキ! 萌ちゃん寝てるけど すごい熱! 」
一樹は ポケットから携帯を取り出し
トルルー トルルー
「 あっ、119番ですか 急病人なんですが 」
「 はい、はぃ、」
「 真実ちゃん、萌ちゃんの意識は有るかって 救急の人が 」
「 萌ちゃん 分かる、私のことが分かる? 」
「 はい、真実さん分かります 」
「 カッキ! 意識は大丈夫 確りしてる 」
「 もしもし、意識は有るそうです はい、はい、・・ 」
「 真実ちゃん、最寄の救急病院に連れてってくれって 言ってるけど 」
「 萌ちゃん 動けるの? 」「 だ、だいじょうぶです 」
「 萌ちゃん、無理しないで 救急車を呼んだ方が良いよ~ 」
「 私、救急車、嫌いだもん 」
「 だって お姉ちゃん 搬送中に亡くなったんだよ 」
「 解った、俺の車で 救急病院に行こう 」
・ ・ ・
診察を終え 真実が薬局で薬を受け取るまでの間
ソファーに一樹と萌は並んで腰掛けていた
萌は 左隣の一樹の胸に 力無く身体を預け
一樹もそんな萌を優しく包む
「 ただの 風邪で ほっとしたよ 」
萌が うわ言の様に小さな声で つぶやく
「 カッキ、迷惑掛けて ごめんね 萌、ひとりぼっちだから・・ 」
一樹は 一瞬、言葉に躊躇して 「 迷惑なもんか 」と一言 囁いた
やがて 真実と萌は車の後部座席に乗り込み
一樹は真実の自宅へと向った
車が走り出して 暫くもすると 薬が効いたのか 萌は軽い寝息を漏らす
・ ・・
「 着いたよ 真実ちゃん 」「 うん、ありがとう 」
「 一樹、私の部屋まで 萌ちゃんに肩貸してくれる? 」
「 真実ちゃん、君も一人暮らしだし
萌ちゃんを俺ん家に連れて行こうと思う 」
「 えっ、一樹ん家は両親が居るから そりゃあ 安心だけど 」
「 ご両親に なんて説明するつもり 」
「 俺、決めたんだ この子を守りたいって 」
「 一樹がそこまで言うなら・・ 」
・ ・ ・
萌を支えながら 自宅の玄関に佇むが
うつろな萌には 此処が何処なのかは解らなかった
「 ちょっと 待ってて 今 ドアを開けるから 」 カチッ、
「 ただいま~ 母さ~ん 玄関まで来てくれる 」
タッタッタッ 「 一樹、何か用なの? 」 ?「 其の子は? 」
「 この子 熱があるんだ 母さん、
今直ぐ 客室に布団を 敷いて貰えないかな~ 」
「 えっ、でも 」
一樹は声を荒げ「 母さん!頼むからっ! 」
一樹の声を聞きつけた 父が玄関先まで 出てきた
「 父さん、この子 熱でぐったりしてるから 手を貸して貰える 」
「 ああ、わかった 」
居間のソファーに萌を横たえると
床の用意を済ませた 母が 一樹に詰問する
「 このお嬢さんを 看病するにしても 親御さんに連絡はしてあるの? 」
「 この子 今は 一人暮らしなんだ 」
「 だったら 余計、家に連れて来るのは 彼方の身勝手なんじゃ・・ 」
「 うん、身勝手かもしれないけど
この子の事は全部 俺が引き受けるつもりだ! 」
父が 母を諌める様に
「 一樹も もう大人なんだから
親の出番は最後の最後でいいんじゃないか 」
「 父さん、母さん、我が儘を言ってるけど 甘えさせて下さい 」 ペコッ
( 事件 )
「 おはよう、うーっ、うぅー、おはようございます 」
一樹は 萌に どう声を掛けて良いか苦慮していた
コン、コン、
「 萌ちゃん、一樹だけど入るよ 」・・スーッ
客間の隅には 布団が畳まれており
萌の姿は何処を捜しても 見当たらなかった
台所に赴くと
母が「 あの子、美咲さんだっけ 朝早くに帰っちゃったのよ 」
「 引き止めたんだけど もうハイヤーを呼んだって言うし ・ ・ 」
「 後で、一樹には連絡を入れるとは言ってたけど 」
「 居心地が悪かったのかねぇ 」
「 母さん、そんな事は無いよ 俺が強引に連れてきた所為だと思う 」
「 萌ちゃんは しっかりした子だから 妙に遠慮しただけだよ 」
「 又、風邪をぶり返さなきゃいいけど 」
「 母さん ありがとう、そんなに気に掛けてくれて 」
「 俺も 朝食を済ませたら 出社するから 」
・ ・ ・
萌からは お昼前に連絡が入った
トルルー、トルルルー 「 はい、一樹です 」
「 あっ、一樹さん、萌です ごめんなさい挨拶もせずに帰ってしまって 」
「 そんなの気にしなくて良いから 熱の方は大丈夫? 」
「 いや、家のおふくろが心配してたから・・ 」
「 そうなんですか、
お母様に 萌は元気に仕事してますと伝えて置いて頂けますか 」
其の頃、一樹と萌の与り知らぬ所で 事件は起きていた
「 真実、俺達、結婚しようか 」
「 なにそれっ、結婚して下さいでしょ 」
「 あっ、ごめん、それじゃ改めて 」
「 真実さん、僕と結婚して下さい 」「 はい 」
「 で、何時結婚するの? 誠司、」
「 まだ お前の両親に正式に挨拶もしていないだろう 」
「 こう言うのは けっこう順序立てて進めなきゃなっ 」
「 別にいいよ 家の親も誠司の事は 知ってるんだから
さっさと籍をいれちゃおうよ 」
「 そんな訳には行かない、
幾ら次男と次女でも やっぱり勝手に出来る事じゃないぜ 」
「 ふ~ん、誠司って意外と堅い所があったんだ 」
・ ・ ・
( 乙女心と・・・ )
ブゥーン ブゥーン
ん、萌ちゃんからメール
「 カッキ、靴を新調したいんだけど
行きつけのお店が無くなってしまってて・・・ 」
「 何処かに いい靴屋さん知らない? 」
「 新しく出来たショッピングモールに
靴屋さんもあるかも 」
「 新しいショッピングモールって、何処に在るの? 」
「 日曜日に萌ちゃんが空いてるなら
一緒に行って見る? 」
「 うん、行く、行く 」
「 じゃあ、駅前のロータリーに9時頃って事でどう? 」
「 はい、よろしくお願いします 」
・・・
日曜日の朝、柔らかな陽射しではあるが
時折、少し肌寒い風が吹いていた
ロータリーの柵べりに車を止めると
柵の向こう側に、未だ 一樹の車に気付かない様子の彼女が
白いブラウスに紺のイレギュラーカットのフレアスカートを穿き
淡い紺のロングカーディガンを羽織って立っている
一樹はドアを開け ドアの上に頭を突き出すと
「 萌ちゃ~ん 」
彼女は、一樹の声に気付くと
「 あっ、」小さな声を漏らし、手を振って見せた
一樹は車に近づく彼女を急き立てる様に
「 寒いから、早く車の中に 」
そのとたん 萌の身体がよろけ
「 あぶねぇ~ 」
辛うじて一樹の腕が 萌の腰の辺りに届いた
「 大丈夫 」「 あ、ありがとう 」
「 とにかく、シートに座って 」
バタン
「 ゴメンねぇ~、慣れないハイヒールを
履いて来ちゃったから 」
「 他に履くものが無かったって事? 」
「 日頃履いてる ローヒールが傷んでるから 」
「 いゃ、それに、この服装にスニーカーは無いでしょ 」
「 だって、デートだもん 頑張らなくっちゃ 」
「 ん、勝負パンツもアリって事 」
「 そう言う質問には お答えできません 」
「 アハハハ、ゴメン、ゴメン 」
「 しかし、萌ちゃんて、こんなに可愛いかったっけ 」
「 エヘッ、 」
一樹は、今言った自分のセリフに照れながら
「 少し、盛りすぎたなぁ 」
「 いえ、いえ、恋する乙女は
日々、可愛く成るものなのですよ 」
「 自画自賛ですなぁ~ 」
「 いやはや全く、アハハハ 」
「 じゃあ、参りましょうか? 」「 はい 」
カチッ、ギュルル~ン
ショッピングモールに着くと早速 二人で靴屋を探し廻り
一軒の靴屋前のベンチでしばらく待つと
パタ、パタ、パタ
「 カッキ~ 」「 お待たせぇ~っ 」
「 そんなに急ぐと また 扱けんぞっ 」
「 大丈夫、新しいローヒールに履き替えたから 」
彼女は 3軒目で漸く納得できる物に巡り会えた様だ
「 その靴、俺が買ってやろうか? 」
「 うわっ、優しい事言うんだっ 」
「 じゃあさぁ、ランチを奢ってよ 」
「 えっ、何がいいの? 」
「 う~ん、ガッツリお肉が食べたいなぁ 」
「 じゃあ、肉食系女子のランチを探すとしますか 」
「 その差別的な物言いは やめていただける 」
「 おっ、ステーキハウス 発見! 」
「 此処で良いかな 」
「 もし、もし、前言の撤回を要求します 」
「 ごめんなさい 」
「 うん、許してあげちゃう 」
カラン、カラン
ステーキハウスのドアを開けると
「 いらっしゃいませ、何名様ですか 」
今、目の前に居るスタッフさんは紛れもなく、由美子ちゃん
「 あっ、あ、二名です 」と一樹は慌てて二本の指を示した
「 二名様、ご案内致します 」
由美子ちゃんはビジネスライクに
メニューを抱え、前を歩いてゆく
心臓の鼓動が全身に響く( 落ち着け、一樹 )
一樹は手汗がにじむ感覚を覚え
萌の手に指先だけを絡め、由美子ちゃんの後をついて行く
由美子ちゃんは、二人のをテーブルに案内すると
メニューを並べながら、いきなり
「 カッキ、元気してた? 」
「 でっ、こちらは カッキの彼女さんですか 」
( げっ、不意打ちかよ )
( やべっ、先手、先手 )
「 うん、藤崎さんも彼氏さんと仲良くやってんの? 」
「 彼とは、もうとっくに 別れちゃったですけど 」
「 あっ、そうなのっ 」
( がぁ~っ 墓穴 )
「 メニューがお決まりになりましたら
そちらのボタンでスタッフをお呼びください 」
「 失礼致します 」
テーブルから離れる由美子ちゃんの後姿を見送ると
「 ねぇ、誰、誰 」
一樹はぶっきらぼうに「 昔の友達 」
「 もしかしてだけど、あの人と付き合ってた 」
「 う、うん 」
「 そうなんだ 」・・・
その後、萌ちゃんは終始、黙々と食事を口に運んでいる
( 空気、重てぇ~っ )
店を出ると一樹は 萌の手をしっかりと握る様に努め
駐車場まではゆっくりと手を繋いで歩いた
バタン、
車のドアを閉めシートベルトに手をかけながら
ふと、彼女に視線を向けると
頬に大きな涙が ぽつり、ぽつりと流れている
一樹は慌てて
( あぁ~、萌ちゃん、萌ちゃん、萌ちゃん、萌ちゃん、)
「 どうして、泣くのさ 」
「 だって、だって 」
「 先っきの人、とっても綺麗なんだもの 」
「 それに 今はフリーって言ってたし 」
「 元鞘になんないか、不安で、不安で 」
「 う、うぅぅぅ 」
「 それは、無いなぁ~ 」
「 確かに綺麗かもしんないけど
「 ほら、否定しないじゃない 」
一樹は泣きじゃくる萌の両手を掴み
「 ちゃんと話聞けよ、今、好きなのは萌ちゃん
今、一番大事なのは萌ちゃんだって言ってんだろ 」
「 焼け木杭って事は無いの? 」
「 も~ぅ、しつこい、うるさい 」
グイッ! ハムッ
一樹は 萌の唇を塞いだ
( スイッチが入っちまった
もう無理 もう止めらんない )
萌は目をつぶり 全身の力が抜けてゆく自分を
意識の外で眺める様に シートに体を預けた
( 一樹、落ち着け、落ち着け、冷静に、冷静に )
一樹は唇を 萌の瞼にそっと当てながら
( おっし! )
「 萌ちゃん、今日、良い 」
彼女は小さく頷いた
「 場所、変えようか 」
ギュ~ン、
一樹はエンジンを掛け 車をゆっくりとスタートさせた
↑ブログトップへ