ETFの上場廃止(繰上償還)は、投資家にとって重大なリスクです。しかし、事前にリスクを理解し、適切な対応策を講じることで、このリスクを回避することができます。

 

本記事では、上場廃止の理由やプロセス、投資家の対応策、リスク回避のためのETF選びのポイントを詳しく解説します。
 

 

 

ETFの上場廃止(繰上償還)とは?

 

ETF(上場投資信託)は、株や債券などの複数の銘柄に分散投資されている投資信託であり、個別株のように取引所に上場されています。しかし、ETFも何らかの理由で上場廃止(繰上償還)されることがあります。この記事では、ETFの上場廃止とは何か、その理由や背景について詳しく解説します。

まず、ETFの上場廃止とは、ETFが取引所での取引を停止し、運用を終了することを指します。この際、運用会社はETFの信託財産を換金し、投資家に返還します。上場廃止の主な理由としては、以下の3つが挙げられます。

1. 受益権の口数が規定の基準を下回った場合
ETFの受益権口数が減少し、あらかじめ定められた口数を下回ると、運用が困難になるため償還が決定されます。たとえば、あるETFの基準が2万口であれば、それを下回った場合に償還されます。この基準は各ETFの目論見書に記載されています。
 

2. 対象指数が廃止された場合
ETFは特定の指数に連動するように設計されています。そのため、連動対象の指数が廃止されると、ETF自体も償還されることになります。たとえば、日経平均株価に連動するETFがあれば、日経平均が廃止された場合、そのETFも償還されます。
 

3. 上場廃止基準に抵触した場合
ETFが取引所の上場廃止基準に抵触すると、すべての取引所で上場廃止となり、償還されます。たとえば、東京証券取引所では、ETFの一口あたりの純資産額が一定の水準を下回った場合や、指定参加者が2社未満となった場合に上場廃止となる基準があります。


これらの理由によりETFが上場廃止となると、投資家にとっては保有するETFの取引が停止し、最終的に償還金として返還されることになります。たとえば、あるETFが上場廃止されると、運用会社は信託財産を換金し、その結果得られた金額を投資家に分配します。この償還金額は、ETFの純資産総額を受益権総口数で除した額になります。

さらに、上場廃止となるETFは「整理銘柄」として指定され、取引期間が設けられます。この期間内に市場で売却するか、償還金を待つかの選択を投資家はすることができます。この点については、次の見出しで詳しく説明します。

ETFの上場廃止の具体的なプロセス

 

ETFの上場廃止が決定した場合、投資家にとって重要なのはその具体的なプロセスを理解することです。ここでは、ETFの上場廃止がどのように進行するのか、ステップバイステップで説明します。具体的な事例やたとえ話を交えながら、読者にわかりやすく解説します。

書面決議手続きのお知らせ
まず、ETFの上場廃止が決定されると、運用会社から書面決議の手続きが開始されます。書面決議とは、ある基準日における受益者名簿上の受益者が議決権を行使し、償還に賛成か反対かを決定する手続きです。これは株主総会に似たもので、投資家がETFの将来を決定する重要な役割を果たします。

たとえば、あるETFが上場廃止の決議を取る際、受益者には書面で通知が届きます。ここで、受益者は償還に賛成するか反対するかを選択し、その意思を運用会社に伝えます。受益権の総口数の3分の2以上の賛成が得られると、償還が決定されます。もし否決されると、ETFの運用は継続されます。

繰上償還確定のお知らせ
書面決議の結果、償還が決定されると、その旨が公表されます。この際、ETFは「整理銘柄」に指定され、一定期間取引が続けられます。この期間は通常約1か月で、この間に投資家は市場で売却するか、償還金を待つかを選択します。

たとえば、整理銘柄期間中に市場でETFを売却する場合、通常の取引と同様に市場価格で売却できます。この期間を過ぎると、ETFは取引所での取引を停止し、上場廃止となります。

買取請求期間
償還に反対した受益者には、運用会社に対して買取請求を行う権利があります。この期間中に、受益者は運用会社にETFを買い取るよう請求することができます。買取の価格は市場価格が基準となりますが、通常は取引終了時の価格が適用されます。

たとえば、ある投資家が買取請求を行う場合、市場価格が高い時に売却することができるため、一定の利益を確保することができます。しかし、買取請求を行わずに償還金を待つことも可能です。この場合、信託終了日における純資産総額に基づいて償還金が支払われます。

上場廃止日・信託終了日
整理銘柄期間が終了すると、ETFは上場廃止となり、信託終了日を迎えます。この日は、ETFの取引が完全に停止され、運用会社が信託財産を換金し、投資家に償還金を支払う準備を行います。

たとえば、信託終了日におけるETFの純資産総額が100億円で、受益権の総口数が100万口であれば、1口あたりの償還価額は1万円となります。この金額は、投資家に対して償還金として支払われます。

償還金支払い日
最後に、信託終了日時点の受益者に対して、償還金が支払われます。償還金額は、信託終了日に算出される償還価額に基づきます。このプロセスは、通常の投資信託の償還手続きと類似しています。

たとえば、信託終了日における純資産総額が150億円で、受益権の総口数が150万口であれば、1口あたりの償還価額は1万円となり、この金額が受益者に対して支払われます。

このように、ETFの上場廃止のプロセスは複数のステップに分かれていますが、各ステップでの対応が重要です。次に、ETFが上場廃止になった場合の投資家の対応策について詳しく見ていきましょう。

ETFが上場廃止になった場合の投資家の対応策

 

ETFが上場廃止になると、投資家はその状況に適切に対応する必要があります。ここでは、ETFが上場廃止になった際の具体的な対応策について、事例やたとえ話を交えながら解説します。

市場で売却する
まず、ETFが上場廃止になると決まった場合、投資家は市場で売却することが一つの選択肢となります。上場廃止が決定しても、一定期間は市場で取引が続けられるため、この期間内に売却することで、現金化することができます。たとえば、あるETFが上場廃止になると通知された場合、そのETFを市場で売却することにより、他の投資先に資金を移すことができます。

たとえば、ABC ETFが上場廃止になると発表された場合、投資家は整理銘柄期間中に市場価格で売却することができます。この時期に売却することで、他のETFや株式に再投資することが可能です。特に、市場価格が高い場合は売却することで利益を確定することができます。

償還金を受け取る
次に、市場で売却せずに上場廃止を待ち、償還金を受け取るという選択肢もあります。この場合、信託終了日における純資産総額に基づいて計算された償還価額が支払われます。たとえば、信託終了日におけるETFの純資産総額が100億円で、受益権の総口数が100万口であれば、1口あたりの償還価額は1万円となります。

具体的な事例として、XYZ ETFが上場廃止となり、信託終了日における純資産総額が200億円、受益権の総口数が200万口であれば、1口あたりの償還価額は1万円です。この金額が償還金として投資家に支払われます。市場で売却するリスクを避けたい場合や、市場価格が下落している場合に有効な選択肢です。

買取請求を行う
さらに、書面決議で償還に反対した場合、買取請求を行うことができます。この場合、運用会社にETFを買い取るよう請求し、市場価格に基づいて買い取ってもらうことができます。たとえば、運用会社に対して買取請求を行うことで、市場価格よりも有利な条件で売却することができる場合もあります。

具体的には、JKL ETFが上場廃止となり、書面決議で反対した投資家が運用会社に買取請求を行う場合、買取価格は市場価格が基準となりますが、通常は取引終了時の価格が適用されます。このため、買取請求を行うことで市場価格の変動リスクを回避することができます。

上場廃止リスクの回避方法
上場廃止が決定した場合の対応策を理解することは重要ですが、上場廃止リスクを事前に回避することも重要です。たとえば、ETFを選ぶ際には、純資産総額や出来高が安定している商品を選ぶことがリスク回避に有効です。更には、運用会社の信用度やETFの投資先の多様性も重要なポイントとなります。

たとえば、上場廃止リスクを低減するために、純資産総額が50億円以上のETFを選ぶことや、出来高が高いETFを選ぶことが推奨されます。更には、運用会社が信頼できるかどうかも重要な判断基準です。信託期間が長く、過去に上場廃止となったETFが少ない運用会社を選ぶことで、リスクを低減することができます。

上記のような対応策を考慮することで、投資家は上場廃止のリスクに備えることができます。次に、上場廃止リスクを回避するためのETF選びのポイントについて詳しく解説します。

上場廃止リスクを回避するためのETF選びのポイント

 

ETF投資において上場廃止のリスクを回避することは非常に重要です。ここでは、上場廃止リスクを低減するために考慮すべきポイントを具体的な事例やたとえ話を交えて解説します。

純資産総額と出来高の確認
まず、ETFを選ぶ際に確認すべきポイントは純資産総額と出来高です。純資産総額が大きいETFは運用が安定しているため、上場廃止のリスクが低くなります。たとえば、純資産総額が50億円以上のETFは安定しており、長期的な運用が期待できます。

具体的な例として、ABC ETFとXYZ ETFを比較してみましょう。ABC ETFの純資産総額が100億円、出来高が1日あたり10万口であるのに対し、XYZ ETFの純資産総額が10億円、出来高が1日あたり1万口の場合、ABC ETFの方が上場廃止のリスクが低いと言えます。このように、純資産総額と出来高は重要な選定基準となります。

 

ETF名 純資産総額 1日あたりの出来高
ABC ETF 100億円 10万口
XYZ ETF 10億円 1万口


運用会社の信頼性
次に、運用会社の信頼性も重要なポイントです。運用会社が信頼できるかどうかは、その会社の歴史や実績、過去の上場廃止件数などから判断します。たとえば、運用歴が長く、多くのETFを運用している会社は信頼性が高いと考えられます。

具体例として、信頼できる運用会社として知られる「ABCアセットマネジメント」と、新興の「XYZアセットマネジメント」を比較してみましょう。ABCアセットマネジメントは20年以上の運用歴があり、これまでに上場廃止となったETFが少ない実績を持っています。一方、XYZアセットマネジメントは設立5年であり、過去に複数のETFが上場廃止となった事例があります。この場合、ABCアセットマネジメントの方が安心して投資できると言えます。

分散投資の徹底
また、分散投資を徹底することも上場廃止リスクの回避に役立ちます。特定のETFに集中投資するのではなく、複数のETFに分散して投資することでリスクを分散させることができます。たとえば、国内株式ETFだけでなく、海外株式ETFや債券ETF、不動産ETFなどにも投資することで、各市場のリスクを分散できます。

具体例として、以下のような分散投資ポートフォリオを考えてみましょう。

 

投資先 割合
国内株式ETF 40%
海外株式ETF 30%
債券ETF 20%
不動産ETF 10%


このように、投資先を分散することで、特定のETFが上場廃止となった場合の影響を最小限に抑えることができます。

目論見書の確認
さらに、目論見書を確認することも重要です。目論見書には、ETFの上場廃止基準や償還条件が記載されています。投資を検討する際には、必ず目論見書を読み、上場廃止のリスクがどの程度あるのかを把握しておくことが必要です。

たとえば、あるETFの目論見書に「純資産総額が20億円を下回った場合に償還となる」と記載されている場合、現在の純資産総額が20億円に近い場合はリスクが高いと判断できます。逆に、純資産総額が50億円以上で安定している場合は、上場廃止のリスクは低いと考えられます。

投資の目的に応じた選択
最後に、投資の目的に応じたETFを選ぶことも大切です。長期的な資産形成を目的とする場合は、安定した運用が期待できるETFを選ぶべきです。一方、短期的なリターンを狙う場合は、高リスク高リターンのETFを選ぶことも考えられます。

たとえば、長期的な資産形成を目指す場合、バンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI)のような広範な分散投資が可能なETFが適しています。一方、短期的なリターンを狙う場合は、特定のセクターに特化したETFやレバレッジETFが選択肢となります。

このように、投資の目的に応じて適切なETFを選ぶことで、上場廃止のリスクを回避しつつ、効率的な資産運用が可能となります。

まとめ

ETFの上場廃止(繰上償還)は、投資家にとって避けたい出来事ですが、事前にリスクを回避することは可能です。上場廃止の主な理由には、受益権の口数減少、対象指数の廃止、上場廃止基準の抵触などがあります。これらのリスクに備えるためには、純資産総額や出来高が安定しているETFを選び、運用会社の信頼性を確認することが重要です。また、分散投資を行い、目論見書をしっかりと読み込むこともリスク回避に役立ちます。

 

万が一、ETFが上場廃止となった場合には、市場での売却、償還金の受け取り、買取請求の3つの選択肢があります。これらの対応策を理解し、適切に対応することで、投資家は上場廃止による影響を最小限に抑えることができます。

 

長期的な資産形成を目指す投資家にとって、適切なETFの選び方を理解し、上場廃止リスクを回避することは、資産運用の成功に繋がります。