恐らく幼い頃の記憶であろう。
「そんな目をする子供に育てた覚えはない」と何回詰られただろうか。
単に見上げただけのつもりだったのに、
射るような眸が気に食わないと小一時間繰り返された。
子供の癖に 奇妙に力のある目をしていたのかもしれない。
或いは単に反撥の強い子供だったのかもしれない。
そのどちらか知る由はないが、とにかく周りの大人には疎ましかったのだろう。
お陰で自分の目が嫌いで仕方なくなっていた。
目は精神の鑑であると思う。
満ち足りているときは自ずと光を蓄えるし、
枯渇すれば夜の沼のように沈んでゆく。
愛くるしい幼子の瞳、
無意識の塊のような視線は何とも言えず擽ったく感じた。
では、私の目は?
射抜くよう とも
刺すよう とも形容されるこの目は
何を映しているのだろうか?
とある一枚の写真を摘み上げて、貴方は呟いた。
「君の瞳は憂いを湛えている」
憂い。
苛む様な色でしか評価されなかったこの目が、
新しい色で染められたような気がした。
痛みではなく、何か触れてみたくなるような色だ。
鏡を覗くとき、
目を合わせることが少し嫌ではなくなった。
憂い。
それがどんな色はまだ呑み込めていないが、
よく見ると案外綺麗な色をしていることに気づいた。
今度はもう少し 瞳の色を捉えてみようと思えた。