金曜日のキャンプ場はひと気も少ない。下の河原の方には数人いるようだが、こっちの駐車場横の広いサイトには我々だけ。

土が固くてアルミ製ペグが刺さらない。

「鍛造ペグを1本だけ持っておくといい」とサトシのアドバイス。それで下穴を。なるほど。初心者には勉強になる。

サトシの大きなテント横にはビール1箱。

 

テントの方は、ひと通り用意ができた。

お待ちかねの仙人風呂へ。

今年は目隠しのすだれが無いようだ。

夕方になり、程よく以上に気温が下がってきた。

 

服を脱いで、ドボン。

ぬぅ~。チョー適温。最高。

間もなく、入っていた1組もいなくなって、我々の貸し切りになった。金曜日バンザイ。

 

湯治にこの湯は素晴らしい。

湯温は場所によって多少差があり、自分にとっての適温の場所を探せばいい。熱くなったら外は1月の気温。どこまでも長湯が可能だ。ふやけるまで湯に浸かろう。

サトシは風邪気味らしい。

なので薬を持ち込んでいる。薬らしく、糖質70%オフという表示も。これは効くだろう。

 

日は暮れた。

長湯している。

湯に浸かる以外に何もしたくなくなる。ダメ人間になる。

ダメ人間は最高だ。

これがあるから、毎年旅をしたくなる。

 

相当長く温泉にいたが、腹も減ったのでテントへ戻る。

ロッジシェルターという大きなテントだが、薪ストーブがあれば快適な夜を過ごせる。

その薪ストーブに新しい仕掛けが追加されている。

木質ペレットが下から順に燃やされる、自動燃焼システムだ。よく考えるな。

そして、年々進化を続けている。

 

さぁ今日の夕食は、熊野の郷土料理「めはり寿司」と、柴さんの作る、通称「柴汁」だ。

どちらも文句無し、激ウマ。

柴汁は豚汁だが、ショウガの効いたパンチある味。

めはり寿司は、毎年この冬キャンプの定番メニュー。

サトシは小学生の頃に家族旅行で初めて食べて以来、めはり寿司のファンだという。

 

私が来る途中で買ってきた「オレンジベア」という日本酒×みかんのお酒。

炭酸で割るとうまいと聞いたが、そのままでもうまい。7%なので気軽に飲めてしまう。

それ用にと、おちょこサイズのシェラカップを出してくれた。こんなのあるのか。かわいい。

これは盆栽とか箱庭とかに通じる、全日本人が好きであろう小さいやつだ。

酷道とか険道の狭さ好きにも通じるものがあるか。無いな。酔ってるな。

「これはオレンジジュースだ」と、チビチビ、ぐいぐい、飲みやすい酒。アカンやつ。

 

VTRの乗り方を話しながら飲む。前荷重だ、後ろ乗りだと熱弁していると、

「どこ目指してるん?」とツッコまれた。

趣味の世界は、どのジャンルでも技術と経験を高めることに喜びがある。

サトシの薪ストーブだって進化していることだし。

好きなことには一直線でいたい。

話が熱くなったのか、単純に薪ストーブが熱いのか。トイレのついでに頭を冷やす。

夜のキャンプ場は貸し切りで、とても静かだ。

 

私とサトシは中学の同級生。

その同級生の話になった。あいつはどうだ、こいつはどうだと。みんな齢相応に責任や心労を重ね、おっさんになったなと。

「オレらみたいなのおらんな」とサトシは言った。

それは我々のノリが軽いというだけでなく、年齢の割に自由に生きているということだろう。

「オレら」の「ら」が嬉しい。どこか自分と同じニオイを感じ取ってくれているのか。

 

少し前に「自由」について調べたことがある。

デンマークの哲学者、キルケゴールは「人間とは精神である。精神とは自由である。自由とは不安である」と言った。

自分で何かを規定し、決定し、存在していくのが人間で、それを「自由」とするなら、そこには「不安」が伴うと。

特に現代人の多くは、この不安を無くすために、自由を誰かに預けてしまう。「家族を大事にする父親」とか「どこそこの会社の総務課長」とか。そういう役割があると安心するのだ。不自由になりたがっているとさえ言い換えることもできる。

私は、そういう役割や状況を切り離した状態の「自分」でいたいと思っているが、そういうところの「自由」を共感してくれる人は少ない。

サトシは「自分」としての芯みたいなものを持っている。だからちゃんと話せるというか。

もちろん、そんなところまでは考えていないだろうけど。

 

そろそろ寝ることにする。

1月の寒さに対応するため、サトシはインナーシュラフを貸してくれた。湯たんぽも持っていけ、と。

キャンプは、社会的な役割と関係ない「自由」なところにある趣味であり、そこに良さがあるのかも。

今日のメンバー3人の中で、私だけが初心者のままだが、そこに上下関係は無い。

上下関係は無いけれど、サトシも柴さんも、「enjoy the camp」の主語が「I」ではなく「We」なのかな、と思った。だから私も毎年、快適な心地良いキャンプができるのだ。

自分のテントに入り、2重にしたシュラフにもぐり込む。

湯たんぽもある、あたたかなその空間は、快適な睡眠が約束されている。

 

 

さて、2日目も走り出す男はどこへ行くのか。

次回「探検!熊野は古道だけじゃない」乞うご期待。