週末だが、車庫作りは一旦置いて、バイクで走りに行こう。

それを我慢するのは、心と体に良くない。

開放させるのはスピード。

「今日は飛ばすぜ」という意気込みと装備で、YZF-R1のクロスプレーンに火を入れる。

※ 初めに言っておくが、以下の文章は全てフィクションである。

 

秋の交通安全週間だという。目障りな表示。警察のカツアゲだ。もちろんそんなものはクソクラエ。

今日は好きな道を、好きなバイクで、好きなスピードで走らせてもらう。そう決めた。誰にも文句は言わせない。

朝の混み合う時間を避けて家を出たが、R21で岐阜の市街地に入るとさすがに増えてきた。すき間を見つけて追い抜いて行く。世の中の流れには付き合っていられない。

美濃加茂を高架のバイパスで抜け川辺町に入ると、昔から変わらない国道41号。好きな道その1である。

 

思い出すのは私が19歳の時。

免許を取って2年目、お盆の帰省に、アニさんと2人、初めてバイクで飛騨を走った。

小さなバイクで、アニさんの後ろを離されないように必死について行った。

すれ違うバイクと挨拶を交わし、旅をしている実感を味わった。

飛騨神岡は今よりずっと遠い場所で、叔父さんの家にたどり着いた時には、得も言われぬ達成感があった。

まだ祖父祖母も健在で、みんなと一緒にバイク2台も含めて撮った写真は今でも覚えている。私達が最も幸せだった頃とも言えるか。

つい先日、この写真にも写る年下のイトコの重い病気の一報が入った。私にできることはほとんどなく、ただ回復を天に祈る。

 

七宗を過ぎると飛水峡。ここから中山七里までの区間が、最も41号らしい表情を見せる。

しかしその象徴でもある天心白菊の塔が無くなっていた。

国道41号は私の旅心を育てた道だが、ここもトンネルと橋でつなぐバイパスができるようだ。

時代とともにいろんなものが変わっていく。仕方がないとはいえ、寂しい。

下の写真は何ということもない景色だが、国道41号らしい、飛騨川第一橋梁で。

 

飛騨金山でR41と別れ、馬瀬川沿いに針路を取る。

好きな道その2は、走りたい道、岩屋ダム。

地形に沿って小さなコーナーが続く難しい道。血が騒ぐ。攻略しがいがある。

脳のスイッチを高速サイドに切り替える。

ペースを上げる。深くバンクさせてコーナーリングを楽しむ。

ヒザを出すために今日は革パンツを履いてきた。

同じく走りを楽しむバイクが何台かいる。いかにも前時代的だが、このローリング的行為の楽しさは、時代を超える。

遅いクルマに引っかかったのでUターン。今日は何本か走るか。とにかく集中してスピードを上げる。

 

道の駅「馬瀬 美輝の里」で休憩。

ソフトクリームで頭の中もクールダウンさせる。今日はシャインマスカット味。

 

「一緒に走りませんか?」

ん?逆ナンパか?

見ればツナギを着た20代ぐらいの青年。私が頑張って走っていたのを見ていたらしい。

それで声を掛けてくるのは、走りに自信があるからだろうか。

よし、行こうか。私もこの道を走りに来たのだ。

 

私より走り込んでいるみたいなので、彼に先導してもらう。

バイクはCBR250RR。テクニカルなこのコースでは私のR1より速い、だろう。

でも後ろについて走って分かったが、私の方が速い。

少しほっとしながら、9割のペースで走る。一緒に走るには、一番心地良いスピード。

楽しい。

 

折り返して、今度は私が前を走る。

直線区間はモロに排気量の差が出るので、バックミラーを見ながらある程度アクセルを控えて、コーナーリングではこちらが不利なので頑張る。

バイクに乗っていて、自分の走りを見てもらう機会というのはほとんどない。

私はこんな感じだ。まぁ見ていってくれ、と。若い彼に何かしら感じてもらうことがあるだろうか。

 

「勉強になります」

私が直線でペースを落としていたのは分かってくれていたようだ。

初めて出会い、年齢も違うが、長年の友人のように理解してくれている。

ローリング族だとか言われると、バイク乗りの中でも悪の象徴のような印象を与えるものだが、この爽やかさはどうだ。

私はまだ古い時代の雰囲気を引きずっているのだが、若い彼はこの潔癖の時代にあって、「走る」という選択をしている。偉大な決意だと思う。

「ありがとうございました」

ナンパされた道の駅で別れる。

最初からだと、何やかんやで2時間以上もこの付近を走ったことになる。

好きな道を、好きなバイクで、好きなスピードで走る。

最高に楽しい。