もうちょっと。すぐ真上に山小屋が見える。
空は晴れて、日が射している。今日初めてという感じの景色になってきた。
「晴れてきたな」「いいなぁ」「ゆっくり行けよ」
酸素の薄い高地では、しゃべりながら歩くと良いと聞く。蒼にもしゃべらせながら、階段を一歩一歩踏みしめていく。

カラフルなテント群が見えてきた。
花がたくさん咲いている。感想は「焦げくさいような匂いがする」。
黒いきれいな蝶が花に留まっている。近づいて写真を狙うと、ひらひらと飛んでいった。
空は青い。

階段を登り切る。
ログを積んだ、それでいて立派な建物。山小屋というには大きいここが今日の宿、燕山荘(えんざんそう)。
時刻は11時。休憩を入れてもコースタイムより早かった。よく頑張った。

その前庭から西側は晴れている。
続く山並み、深い谷。
「うわぁー」と声が出る。絶景に説明はいらない。
西側以外は雲の中で、近いはずの燕岳山頂は見えない。
でもそのうち見えるタイミングもあるだろう。

燕山荘にチェックイン。
ハシゴで上る2階部が我々の部屋。カーテンで仕切られた2畳のスペース。
番号は4つ割り振ってあるが、布団は3組ある。
スタッフのお姉さんが「相部屋の可能性もある」と言っていたが、無いといいな。
蒼の第一印象は「こんなにちゃんとしてると思わんかった」「もっとボロいかと思ってた」らしい。
いい方に心の準備をしておいてくれた。

まずは昼食。11時からというので、ちょうど良かった。
食堂横の喫茶サンルームでカツカレーを。激ウマである。「人生で一番うまいカツカレーかもしれん」と。
そんなこと言えば、合戦小屋で食べたスイカも「人生で一番」ぐらいのうまさだった。
味は忘れても記憶は残る。
空腹は最高の調味料と言うが、それ以上のものが、この山の空気にはある。

昼食を終え、少し燕山荘を探検。
売店横にたくさんのTシャツ。これは買わないと。
食堂横の本棚には漫画「岳」が置いてあった。主人公・三歩のモデルになった穂高岳山荘の小屋番さんが、母の実家の飛騨神岡出身だと聞いた。昨年亡くなったとも。
我々は常に安全な登山を心掛けなければ。

燕山荘は古い建物だが、雰囲気がいい。大事に使われていることがよく分かる。
一度部屋に戻り、蒼に体の状態を聞くと、まったく問題なさそう。
12時に山頂を目指そう、ということにする。あとは天気が良くなれば。
