数日前に秋本治氏の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が1年ぶりに復活した事について記したが、こち亀と言えば作中にネタとして描いた話が数十年後に実在するという例が目立つ。たとえば「アンコール雪之城」というエピソードでは、ボーナスの60万円で卓上用テレビゲーム機(かつて喫茶店やゲームセンターなどに置いてあったゲーム機である。駄菓子屋にも置いてあり、学校帰りの小学生から高校生はこれに興じていた)を購入して交番の中で遊んでいた両津勘吉が「今やコンピュータエレクトロニクスの時代。21世紀はすべてコンピュータになる」と予想し、先読みしてテレビゲームのプロになる事を宣言するというくだりがあったが、35年経った現在は日頃の生活にコンピュータは欠かせないし、ゲームの世界でもプロとして日銭を稼ぐ者が出ている。

 ゲームの話以外にも、こち亀ではいろいろな分野での未来を言い当てているが、たとえば自動掃除機は現在「ルンバ」をはじめとして市場に出回っているし、柔道の名手の左近寺竜之介が恋愛系ゲームで課金を繰り返すエピソードは現在のソーシャル系ゲームでの課金制度として実現した。またどぶろっくが歌う「もしかしてだけど」の歌詞に似た場面が曲が発表される10年前に登場したり、20数年前に海外のテロ組織のお頭とされる人物の容姿は現在の北朝鮮の指導者に酷似していたとか、毎回模型のパーツが付録になってそれを組み立てていくといういわゆるバラ売り商法の雑誌も現在、書店で売られている。また、両津が後輩の中川圭一に「マンガで読む『戦争と平和』」なる本が出版されているか聞く場面があり、この時中川は「そんなものは出ていない」と否定するものの、その後20年近く経ってその手の本が実際に出た。

 こち亀だけでなく、藤子·F·不二雄氏の「ドラえもん」でも携帯電話やGPS(「トレイサーバッジ」という形で登場している)、さらにはニンテンドーDSに加えてテレビやラジオ、録音機能などが入った「腕ラジオ」はスマートフォンにその性能が受け継がれているし、スマホの腕時計版のスマートウォッチも登場するなど、こちらも作品で描かれたアイテムが後に現実のものとして世に出たが、こち亀はアイテムだけでなく社会現象にも触れているところがドラえもんの上を行っていると言っても過言ではない。一部では「こち亀もドラえもんも長く連載していれば、そんな事も起こってくる」という声もあるが、次々とマンガで描かれたネタが現実化され、そして日常風景として定着されたというのはある意味ですごいと言えよう。

 不定期の掲載になったこち亀であるが、その中で描かれた事が今後現実化される可能性もある。ドラえもんでも作中に出てきたアイテムを現実化しようとする企業もあるだけに、ギャグマンガとしてだけでなく「予言書」として楽しめるかも知れない。