この報を聞いたバス好きの方々は、残念に思った事であろう。来年で運行開始から35年を迎えるはずであった西日本鉄道と阪急観光バスの夜行高速特急バス「ムーンライト号」が来月末で運行を休止する事が決まったが、現在の国内の夜行高速バスの基礎を築いたこの関西と福岡市を結ぶ路線も格安運賃の航空事業者(LCC)との競争に勝てず、ひとまず長年の歴史に幕を下ろす事となった。

 当初は大阪市の梅田から北九州市を経て、福岡の天神という両市の中心部を結んでいたが、現在は京都市から梅田とユニバーサルスタジオ·ジャパン(USJ)、そして兵庫·神戸市の三宮を経て北九州·福岡に至る経路で運行している。1人掛けの3列通路など現在の夜行高速バスの標準仕様はすべてムーンライト号から始まったと言っても過言ではなく、一時はノンストップ系統や北九州からわたしの住む飯塚市や田川市へ行く筑豊系統も存在するなど、西鉄にとっても様々な「実験」ができる高速バス路線であった(ちなみに、筑豊系統はその後大阪と久留米市や大牟田市、熊本·荒尾市を結ぶ「ちくご号」と統一された。このちくご号も今はない)。阪急の高速バスにとっても現在九州に乗り入れる唯一の路線であっただけに、関係者も少々寂しい気分であろう。

 ムーンライト号の運行休止の知らせを聞いて、わたしは20年近く前にあった西鉄の「はかた号」が運行継続の危機に見舞われた事を思い出す。あの時は競合相手のスカイマークエアラインズが格安運賃で利用客を取り込み、一時は廃止が決まりかけたが、その後諸般の事情でスカイマークが運賃を引き上げた事で一部がはかた号に流れて利用が増え、廃止を免れた。ムーンライト号が運行を廃止ではなく休止にしたのは、そのあたりの理由があるかも知れない。

 「飛行機が苦手で安い旅費で関西に行きたい」という人にはムーンライト号はうってつけであったのに、休止は残念である。休止になっても、夜行高速バスはツアーから路線バスに転じた事業者が運行する路線があるが、やはり西鉄と阪急という大手私鉄系のバス事業者が運行するムーンライトはネームバリューもあり、安心感があった。近い将来、また路線が復活する可能性もあるので、それを期待しながら、今回の話を締める事にする。