ああー、えらいこっちゃ。
こんにちは、渋谷です。
えらいことになってしまいましたよ。時間泥棒が出没しました。映画泥棒の親戚です。やつの本名はスマホゲーム。子供が私に言ってきたのです。「ねえ、ママー、このパズルといてよー」
パズル、と言いますか、キャンディクラッシュみたいなやつですね。まああれはパズルゲームというのか。あれ、私大好きなんです。大好きかつ得意。解けるもんだからライフが減らずに延々やり続けなきゃならない。その沼に昨日落ちてしまいました。小説家を目指すようになって1年半、まったく触っていなかったのに。ああ、面白い。面白いけど時間の無駄。分かってる、分かってるのにやめることができない。
なんか知らないけど、時間帯で2時間ライフ無限みたいなこともやってるのね。昨夜、本を読み終わってさあこのブログを書こうかなとして、「……そういや子が言ってたパズル……」とつぶやいてから3時間やっちゃいましたよ。あっという間にレベルもガン上がり。朝子供大喜び。いかんいかーん!時間泥棒が出た!えらいことになっちゃうぞー!
スマホゲームなんかしてても作家にはなれません。面白いけど。子供のスマホに落としてるゲームなので、子供が家にいるうちはやらなくて済むんですけどね。……夜だな。やつが寝てからが勝負だ。いかに我慢するか。っていうか、私の日常って平和やなあ。なんだこの変な悩みは。
まあ、ほどほどにしたいと思います。では、本を読んだ話。今日は乾ルカさんの「心音」です。
この乾ルカさんはオール讀物新人賞からデビューされた作家さんなんですね。直木賞候補にもなったことのある方です。この「心音」は小説宝石で連載していた作品だったようで、図書館で手にした時には「あ、軽い恋愛ものなのかなー」と思って借りたんですよ。表紙は綺麗なピンク。うっすらバイオリンが描かれていたりして。
ところがどっこい、読んでびっくりでした。重い重い。命と運命を深く掘り下げたお話でした。なかなか……うん、ヘビーだったなあ……。
主人公は明音ちゃんという女の子。最初に出てきたときは8歳です。心臓に先天的な病気を抱えていて、募金を募りアメリカで心臓移植を受けました。手術は成功。けれど、まったくの健康体になったわけではありません。運動はできないし、寿命もおそらく短いと言われています。この明音ちゃんが、社会の悪意に晒されながらも必死で生きて行く物語です。
社会の悪意、とは何だという話なのですが、1億5千万の募金でアメリカで心臓移植を受けた明音ちゃんに心無い声をかける人が後を絶たないんですね。ネットで募金活動を展開していたために、明音ちゃんの名前を検索すれば当時の記事などが簡単に出てくるんです。そこで「ああ、命が助かったのね、良かったね」で済まないのが恐るべき大衆感情。
明音ちゃんは「1億5千万円さん」というあだ名をつけられ、「お金で命を買った」と言われ学校でいじめられています。ちょっと変わった子を爪はじきにしたいのが子供ですし、おそらく親たちも子供に色々と吹き込むのでしょう。お金が絡んでいますので、妙な感情を持つ人もいるんですね。そういう人たちに「募金で贅沢してるんじゃないか」なんて変な目で見られたりする。
こういうの、残念ですが震災の時にも聞きました。「義援金でぜいたくしてんじゃねえよ」「何にもしてねえのに金もらえていいよな」……びっくりするわ。どういう家庭環境で育ったら、こういうひねた人間が出来上がるんでしょう。お金を介すると人間の品が顕わになりますね。そんな下品な人たちだけでなく、「そこまでして病気の子供を無理やり生かすべきなのか」という生物学的な疑問を持っている人たちも、明音ちゃんからは距離を置くんです。まあなあ、これは私も考えるところ。
うちの子、切迫早産で600gぐらいで出てきそうになっちゃったんですよね。まあ、世の中には200g台で生まれてきても元気に育っている赤ちゃんがもいるので、そう一大事でもないんですが。いや、一大事よ。世が世なら、うちの子含めそういう子供たちは「残念だったね」で済んでいた。
私は3か月入院して元気に子供を産めましたが、そのまま子供を亡くしてしまう人がいる。医学の進歩でうちの子は生きている。でもこれが、1億5千万かければ妊娠継続できますよ、と医者に言われていたらどうだった?もちろんお腹の子は助けたい。でも人様のお財布にお願いをしてまで、私はお腹の子を助けていただろうか。生き物として弱かったから流れてしまいそうになった子を、医学の力で無理やり押しとどめてしまうことは自然の倫理に反しているんじゃないか。そう考えても不思議はなかった気がする。もちろん、今元気に学校に通っている子供をみて、本当に生んでよかったと思います。でも、確かに、私も明確な答えを持っているとは言えない……。
明音ちゃんは、募金してくれた人のために常に明るくあれとお母さんに強要されて、ひとりぼっちだけれど笑顔を作って一生懸命生きて行きます。高卒で就職するのも、社会の恩に報いるため。そこで出会ったバツイチ子持ちの上司と結婚をしたのが、おそらく明音ちゃんの人生の絶頂期でしょう。1年もしないうちにご主人は亡くなり、頑張って育てていた連れ子の男の子が自転車で事故を起こす。それにより、将来ある若い女性を寝たきり状態にしてしまうのです。
……おもっ。重いです。でも明音ちゃんは逃げません。病室に毎日赴き、被害者の家族にののしられまくります。もう死んじゃいたい明音ちゃん。昔からずっと、彼女には自殺願望があったんですね。心臓移植によって助かってしまったばかりに、彼女は苦しみの一生を背負わされることになってしまいました。でも、死ぬのは社会の善意を捨てること。もらった心臓を自分で止めてはいけないと考えているんです。うーん、律儀!お母さんの教育の結果なのでしょうが、だれか明音ちゃんに言ってあげれば良かったのに。「もらったものは俺のもの!」
被害者は手製のコミュニケーションボードを使い、まばたきで意思の疎通を取ることができます。ある日、明音ちゃんに被害女性は伝えたるのです。「わたしを、ころして」
ああ……大変。明音ちゃんはどういう結論を出すのでしょうか。ここでは書かずにおきます。どこまでも辛いラストでした。読み応えのある、それでいてさらりと読める作品。2時間ぐらいで読み終わりましたが、余韻はすごかった。だからゲームに逃げた。そして、ハマった。
まあとにかくね、何事も真面目に考えすぎちゃいかんのかなと思いました。明音ちゃんだって、ここまで追いつめられる必要はなかったんだよ。「ああそうだよ、私は1億5千万の心臓を持ってるよ!どうだ、すごいだろ!」と開き直ることができれば……こんなことには。ひとりの人間の半生を、脇から色んな人間に表現させる手法もとても際立っていて、読んでよかったと思える作品でした。面白かったです。
さあ、ゲームは封印して小説を書こう。今すぐ横にあるけど……子供のスマホ……だめだめ。ノーモア時間泥棒!
というわけで、またっ。