読書感想文113 小原周子 新宿ナイチンゲール | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

ちょっと復活した。

 
こんばんは、渋谷です。
 
 
 
昨日はヘタれてたけどちょっと復活しましたよ。天気かね。昨日は大雨で今日は晴れでした。夫の父親を父の日参りし、昼はスシローで夜はステーキ(安い肉)でした。あー、やっと父の日が終わったぞ。
 
実家の父親には大分の焼酎詰め合わせを送っときました。喜んでおった、と母から電話あり。まー良かった良かった。
 
おもてなしをしない、という選択肢を選べないタイプなのよねー。これがストレスでヘタれていたのか。大したことはしてませんが、無事に1日が終わり脱力しています。あー良かった。次はお中元か。ひとつひとつ、こなしていきたいと思います。で!夜は本読んだ。面白くて一気読み。
 
相変わらず、小説現代長編新人賞。2017年の奨励賞受賞作の小原周子さんの「新宿ナイチンゲール」です。これは面白ーい!弱さと欲望を抱えて足掻く主人公が、いきいきと描かれた私の大好きな世界でした!
 
 
 
小原周子さんは、1969年生まれで現役のナースでらっしゃる方です。2000年から小説を書き始め、この2017年の「新宿ナイチンゲール」でとうとう賞を射止められたのだそう。
 
すごいですねー。看護師という、激務をこなしながら17年も小説を書き続けるなんて。私の叔母が看護師だったのですが、ストレスがひどくしょっちゅう旅行にでかけていました。行き先は主に外国。一番いいのはインドだと言ってました。なぜなら、「ケータイがつながらないから」。
 
ケータイがつながると、昼夜問わず電話が鳴るんですって。叔母は救急医療に長く携わっていたそうです。顔は私とそっくりだったけど、私と違って強い人だったんだよなあ。だから私、看護師さんには無条件で白旗をあげてしまうんです。看護師さんをしながら、小説を書き続けて賞をとる。すごい。小原さん、すごいです。
 
で、この「新宿ナイチンゲール」です。「新宿のナイチンゲール」なんていうんだから、夜の街で働く弱き者たちを助ける看護師さんなのかな、とか思って読み始めたんです。思うでしょ?だってナイチンゲールだし。
 
ところがどっこい、主人公のひまりちゃんたらネットカフェ難民なんですね。看護師の資格は持っていますが、病院で勤務することなく、派遣の看護師として糊口をしのいでいます。派遣の看護師、所謂家政婦さんの看護師バージョン、とでも申しましょうか。年齢は29歳。同じく根無し草のミュージシャン志望男、宗一とずるずるとネットカフェ生活を続けています。
 
 
 
この宗一がいいキャラなの!働かないわ女にだらしないわミュージシャンとして才能ないわ、その上ひまりちゃんにおんぶにだっこで奢らせるわライブのチケット50枚買わせるわ、クズですよクズ!私こういう男が出てくる話だーい好き!だってこういう男って現実にホントにいるんですよ!ちゃんと生きてる人たちが眉をひそめて見なかった振りをするこういう人種、ちゃんと描いてくれる作品大好きです!その上宗一くんはドM!ひまりちゃんに鞭で叩かせまくるくせに、自分がいっちゃったら後は知らんぷりですぐ寝ちゃう!わークズ!そしてそんな宗一と離れられないひまりちゃんも大馬鹿です!
 
でもひまりちゃん、派遣先の患者さんとはちゃんと向き合うんですね。出来れば口がきけない寝たきりの患者さんのところに派遣してもらって、テキトーに仕事を済ませて豪邸探検としけこみたいと考えているひまりちゃん。でも、派遣の看護師を依頼してくる顧客たちにはそれぞれ事情があるんです。
 
「自分は親をちゃんと介護している」と思いたいがために、施設には預けず手元に引き受けるけれど、実際親の介護は嫁に丸投げのモラハラ男とか。ギャンブル三昧で家庭を顧みなかった父親が半身不随になり、自宅で介護をせざるを得なくなったけれど、自分は自分で女に子供産ませちゃった高校生とか。もちろん終わりの見えない介護生活に疲れ、自分の時間を確保するために、ひまりちゃんたち出張看護師さんの手を借りるご家族もおられます。でも患者さんのほうも一筋縄にはいかないのよねえ。ひまりちゃんをメイド扱いするおじーさんとか。果てはデリヘル扱いする半身不随のお兄さんとか。
 
誰もが疲れ切っている現場なんですね。でもひまりちゃんは真摯に頑張ります。だってお金が欲しいんだもん。自分の中にある恐れから逃げ回っているひまりちゃん。弱い彼女が切ることのできない彼氏、宗一もまたクソバカです。メジャーデビューさせてやるやる詐欺に引っ掛かり、なんとひまりちゃんを保証人に300万の借金作ってトンずらです!さあ、どうするひまりちゃん……!
 
 
 
この作品、人間の弱さをえげつないほど見せつけてくれる作品でした。登場人物、みんなが闇を抱えていて弱くて、でもプライドだけは捨てきれない。それって人間の本質なんじゃないかなあ。えらそうなことは誰にでも言えますが、一皮むくと人間って結構ちっちゃい。ちっちゃい犬ほどよく吠える。ネット見てても思うわ。よー吠えよるなー、今日も世の中平和やなーて。あ、私もやな。
 
介護が必要な局面に立って、介護者も被介護者も今まで繕ってきたうわべを剥がされたことに気付く。気付くけど、もうどうにもできないんですね。どうにもできなくなってひまりちゃんたち訪問看護師さんに助けを求める。でもひまりちゃん自身も自分と向き合わざるを得ない事態へと追い込まれる。何ともスリリングな展開!そしてラストは、想像以上の混迷、そして闇。
 
いやー、尾を引く読後感でした。面白かった!こんなに面白いお話、書く人が17年もアマチュアだったなんて信じられない。もちろん小原さんには責任あるお仕事がありますし、作家を目指して生きてこられた方というわけではないのかなと思います。多忙な日々の中で折を見て小説を書いてこられたんでしょうね。現役の看護師さんだからこその視点で、リアリティもたっぷり。そして救いのないクズたちの世界まで何とも鮮やかに描き出されていました。ああー、楽しかった。
 
他の作品も出されたら読んでみたいな。感覚の合う方の作品を読むのはやっぱり楽しいです。どんなに他人の評価が高くても、世界が違う作品って響いてこないんですよね。この小原さんという方は窪美澄さん的と言うか、もっと内角を抉り込んでくるというか、私は大好物な方だわ。
 
さあ、明日からまた小説を書きまくりましょう!ここまで内角を抉れるかは分かりませんが、私なりに言いたいことはいっぱいあるので。それを小説にしましょう。そうしようそうしよう。
 
というわけで寝るなり。ではでは。
 
おやすみなさいー!