こんばんは、渋谷です。
一木けいさんの「1ミリの後悔もない、はずがない」を読みましたよ。女のためのR18で読者賞を受賞された一木さんの処女作です。受賞作の「西国疾走少女」から始まる短編連作。図書館で予約して3ヶ月待った。いやー、これが面白かった!
収録作が、
西国疾走少女
ドライブスルーに行きたい
潮時
穴底の部屋
千波万波
となっております。
主人公は由井ちゃん。これは……苗字なんでしょうか。ずーっと由井さんとか由井とか呼ばれてる女性です。最終話で夫すらもが由井さんと呼んでるから名前なのかなあ。いまいちどっちなのか分かりません。その辺りをいちいち説明しないのがこの作品のお作法。簡潔にして明快。文体はなかなかの男前。
1話目の由井ちゃんは中学生です。おうちはお母さんと妹の3人暮らし。暮らし向きは厳しく、お母さんは子どもたちに興味を示しません。だってお父さんが大借金作っちゃったからね。お金がないと人間余裕をなくしますから。
もう大人なんか信じないと思ってる由井ちゃん。苦しくどうしようもない境遇にあるのに、由井ちゃんは常に誇り高く真摯です。そんな彼女はクラスの桐原くんという男の子のことが好きで、彼だけが心の支え。この桐原くんがすんごいいい男なのよ。描写がたまらん。中学生とは思えぬほどにセクシー。
長身で手足が大きくて、喉仏が目立つなめらかな肌の男の子。……いいねっ。しかも控え目で物静かな性格なのに、由井ちゃんにだけは情熱アピールをかましてきます。こりゃたまらんな。ふたりっきりの部屋でこんなこと言うのよ、「俺いま、すごくやましい気持ち」
うう、うんうん。なんだこのいい流れ。素晴らしいなあ。そんな具合でふたりは付き合っていくんですが、由井ちゃんのおうちは夜逃げしなきゃいけなくなってふたりは離れることとなってしまいます。
大人になった由井ちゃんは、桐原のことを思い出す度に、桐原が言った言葉を思い出すんです。「うしなった人間に対して、1ミリの後悔もないなんてことはあるだろうか」
ありませんね。そんなことはありません。人間って後悔の積み重ねでできてるからねえ。この由井ちゃんの回想から始まって、連作は中学生の由井ちゃんの周りにいた人たちの、それぞれの後悔へと続いていくのです。
自分の人生を優先したいがために、生き別れた弟への連絡を戸惑う兄。
中学時代に好きだった男に告白できなかった自分を悔いて、夫の浮気を容認せざるを得ない人生を選んでしまった妻。
マザコンの外面イクメンにかしづく人生に疲れて、コンビニでバイトしてた危うい雰囲気のイケメンにのめり込む母親とかね。みんな何かを抱えてる。抱えてるものを手放せずに足掻いてる。
その時にはそれぞれに苦しんで得た答えを選択したはずなのに、やはり1ミリの後悔もないはずはない。でも最善の選択をしたはずなんだ。そこになんの間違いもないはずなんだ。そういう、人間讃歌にも似た作品でした。うまく表現できないけど。
椎名林檎ちゃんが帯を書いているだけあって、林檎ちゃんの持つひりつくような痛々しさも感じられる作品です。一木さん、林檎ちゃんファンなんだって。一木さんと林檎ちゃんは同い歳の40歳。そして実は、私もおんなじ歳だったりする。
だからなおさら響いたなあ。由井ちゃんの生い立ちも似たとこあるのよ。私は由井ちゃんみたいに誇り高く生きていくことはできなかったけど。1ミリどころじゃない後悔に苛まれるときもあるけど。
でも、確かに人生のどの瞬間も、私は私だった。そんなことを思い出させてくれる作品でした。この人の作品はこの先も読んでいきたい。うん、ほんと、響く作家さんに出会いました。林檎ちゃんを初めて聴いた時を思い出したわよ。
さー、私もこれぐらいのインパクトを残すお話を書きたいもんです。頑張ろ。すごいの読んだからって、自信をなくしたりはしません。パクリもせんよ。淡々とやっていきましょう。
という訳で、次のを読もっ。誰のにしようかな。
では、お休みなさいー!