なんなんでしょうか。
こんにちは、渋谷です。
このブログ、ほとんど自分用の記録みたいなもので、「たくさんの人に読んでほしい!」みたいな気が一切なく書いています。こう書くとなんか読んでくださってる方に失礼な言い分みたいになってしまうんですが、私がなりたいのはブロガーではなく作家なので、ここはその前段階で、結果「私の読書感想文をみんな、読んで!」みたいな気持ちは持ってないんですね。だから宣伝も全然しない。ランキングサイトへの登録もしない。
アクセス数なんかも全然気にしてないんですが、昨日はどうしたことかいつもの10倍ぐらいのアクセスがあった。急に何が起きたんでしょう。一木けいさんがそれだけ旬の人ってことかなあ。私、大体図書館で借りた本を読むことが多いので旬の本って読まないんですよね。たまたま旬な人を取り上げて書いたから、検索に多く引っかかったってことなのかな。まあ一瞬のことだと思いますし、別にそれが嬉しいってわけではないんですが。
つくづく思うのよ。私って自己顕示欲が全然ないの。SNSでいろいろ発信していいね欲しい、とか一切思わない。子供の頃にちょっと目立つ子だったから注目されることには慣れてるんです。でもだからこそ、注目された上でへましたら再起不能に陥ることを身をもって知ってるんですね。だから己の痕跡を消して生きていきたいと考えてるのかも知れない。けど、作家って自己顕示欲なくてやっていけるもんなんかね。
「私を知って!」「私ってこうでこうでこうで」「すごいでしょ?あなたもそう思うでしょ?」みたいに純粋に自己顕示欲さらけ出してる人見ると、失礼な話なんですがなんか犬みたいだなって思う。人を見つけると尻尾ぶんぶん振ってきらきらの目を輝かせて、お気に入りのおもちゃを「投げて投げてー!」って持ってくる犬。相手が自分を賛美すると信じて疑わず、受け入れられる自分を100%確信してるその純粋さ。
すげえ幸せな生い立ちなのかね。とか考える私、ひねくれてるよねー。自分でもそう思う。自己顕示欲がない人間が、注目されると若干きょどりますよ、というお話でした。で、昨日読んだ西加奈子さんの「さくら」。初西さんだったんですが、ちょっと私の中にはなかった世界観で、とても興味深い作品となりました。
主人公は薫くんという男の子。はじめくんというお兄ちゃんと、ミキちゃんという妹の三人兄弟の真ん中です。はじめくんとミキちゃんは大変な美形で、特にはじめくんは性格も良く地域のヒーローなんですね。兄弟にもとても優しく、物静かだけれど家族を大きな愛で守るお父さん、美しく幸せに満ちたお母さんに愛され、兄弟はすくすくと育っていきます。3分の2はこの三人兄弟の幸せな成長の記録です。誰にも好かれる男前の長男、そんな長男に憧れつつ、でも自分は自分と淡々と日々を過ごす次男、はねっかえりで癖が強く、けれど美しい容姿で周囲を圧倒する長女。
いい子たちです。ご両親も深く愛し合っていて素晴らしいご家庭です。でも「だからなんやねん」とはなりません。西さんの筆力のなせる業なのか、ただ大きくなっていく三兄弟をこちらもほほえましい気持ちで追っていくことができました。大した事件は起こらないんですけどね。はじめくんに彼女ができて、でも引っ越した彼女からの手紙が届かなくなってしまったとか、ミキちゃんには一切女友達ができず、初めて家に連れてきた女の子がまるで男の子みたいな外見だった、ぐらいが関の山。
物語の冒頭は、久しぶりに家に帰った薫くんがぎくしゃくした実家で気まずく過ごす様子から始まっています。そこにはじめくんの姿はありません。だから「ただ幸せなだけの物語」ではない、不安な序章を読者は先に読まされています。でも終盤までそれを忘れて幸せな長谷川さんご一家の日常にこちらも引きずり込まれていました。しかし物語は急展開。みんなに好かれる地域のヒーローだったはじめくんは、大学進学後事故に遭い顔に大きな傷を作り、下半身の機能を失って車いす生活となってしまうのです。
そこからはつらいお話になっていきます。
それまでにあった何もかもを失ってしまったはじめくんは、自殺してしまうんですね。その身体で、この先の人生を生きていくことを諦めてしまったんです。その少し前に、ミキは薫に衝撃の告白をします。
はじめの彼女、矢嶋さんから来た三年分の手紙をポストから抜いて隠し持っていたこと。はじめくんの字を真似て矢嶋さんに「もう連絡してこないでください」と手紙を書いたこと。ミキちゃんははじめくんのことが本気で好きだったんです。だから矢嶋さんを遠ざけた。でも、はじめくんはすべてを失った。もしそこに矢嶋さんがいれば、もしかしたらはじめくんは自殺なんて結末を選ばなかったのかも知れない……。
と、いうところで話は冒頭に戻ります。はじめくんの死によってバランスを崩し、バラバラになってしまった家族が、久々に集まった年末。子供の頃からずっと家にいた「サクラ」という名の雑種犬が、薫くんを迎えます。このサクラは物語の全編で無邪気に家族に愛を振りまいているんですね。このサクラが大みそかに体調を崩します。もう今にも死にそう。はじめくんの死によっておかしくなってしまった家族は、サクラの死を目前にしてどう変わっていくのでしょうか……!
と、いうお話です。
あんまり私が喜ばないお話なんですよね、全体的に。再生していく家族の絆、みたいなお話は冷めた目で見ちゃう。でも、この「さくら」はほんとーに良かった!
幸せな家族のなかに潜む闇を少しずつ織り交ぜて、時限爆弾を爆発させてからの回収がお見事。ちょっとミステリーにも近い読後感で、ただの人情ものではないんですね。淡々と冷静な薫くんの語り口の効果もあって、こちらも無駄に感傷に浸らずに圧巻の結末まで駆け抜けていくことができます。美しく見事な比喩で、抒情性も豊か。もう、文句の付け所が見当たらない。
そんなわけで、とても良かった「さくら」。西加奈子さんはまた読んでみたいと思います。こういう基本的にあんまり困ってない話、読む機会がなかったから新鮮でした。幸せな描写が延々続くっていうのもいいね。西さんだから退屈しなかったのかも知れません。書きようによっては「……だから?」になってたかも知れませんが。
次書くお話の主人公もだいぶ固まって来てて、いじめも虐待も貧困も縁遠い女の子にすることにしました。生い立ちは変わってるけど、心に傷とか抱えてないような子。でも生まれつきちょっと変なところのある子。とにかく、「元からかわいそうな子」を出して、その子にあれこれ克服させるのは今回はもういいかなって。
「……だから?」にならないように、文章で引き込めるようなものが書けるよう頑張ります。さあ、プロットを作ろう。
というわけで、またっ!