読書感想文92 桜庭一樹 無花果とムーン | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

あらららら……こんなこともあるんですね。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

今日は2回目の更新ですな。読んだのですよ本を。私大好き桜庭一樹さんの「無花果とムーン」。

 

いや……これがちょっと。ちょっと。うん、ちょっとね。ちょっとアレよ。ちょっとちょっとってなんやねん、て話なんですが。

 

はっきり言っちゃえば好みじゃありませんでした!ていうか、なんなんだろうこれ?ぶっちゃけ、魅力が分からん!まるきり、桜庭さんらしくないお話だな、と思いましたのことですよ。

 

主人公は高3の女の子、月夜ちゃん。この子はもらわれっこで、学校の教頭先生のお父さんと、銀行員のごっついお兄ちゃん、それと年子のお兄ちゃんと共に暮らしていた子です。もらわれっこ……年子の兄弟……なんか吉本ばななさんの「哀しい予感」とキーワードが丸かぶりですね。狙ったわけではないのですが。

 

そんな月夜の年子の兄ちゃん、奈落くんがアーモンドアレルギーを発症してアナフィラキシーで死んじゃったところから物語が始まります。奈落くんが大好きだった月夜ちゃんは、平気な顔をしていますが大ショックを受けています。周りは月夜ちゃんを気遣って色々と気をまわしてくれるんですが、平気なふりしてどんどん病んでいく月夜ちゃん。奈落くんの霊が現れたのだと言い出して周りを震撼させてしまう。そっからは、昔々の映画、「異人たちとの夏」みたいな世界が広がっていくのです。

 

 

 

……んー、ご存知でしょうか?「異人たちとの夏」。私が見たのは映画版で風間杜夫さんが主人公でしたが、ドラマ版もあったんだってね。山田太一さん原作です。現実に疲れた男が、既にこの世にいない両親など死者たちと出会い、その世界にのめり込んでいくうちに激やせしていっちゃうというお話です。ちょっと怪談なんですね。良くありますわね。山の中にお屋敷があって、綺麗な女と逢瀬を重ねるうちにどんどん痩せていく男、みたいな。

 

月夜ちゃんも奈落くんの幻影に憑りつかれているんですね。というか実際に、奈落くんは霊になって月夜ちゃんのもとに何度も現れます。月夜ちゃんは血が繋がっていない奈落くんのことが好きだったんです。学校帰りにコンビニの前で奈落くんとたまたま会ったとき、月夜ちゃんはアイスを食べていました。それを見た奈落くんもアイスを買って食べて、それに普段は避けていたはずのアーモンドが入っていてアレルギーが起きてしまった、というんです。

 

だから月夜ちゃんは奈落くんの死に責任を感じている。自分がアイスさえ食べてなければ。……って、そこにはもう一つトリック的なものが隠されていて、奈落くんの死の原因が読者には秘められているんですが、はっきり言ってもうバレバレなんですな。奈落くんも月夜ちゃんのことが好き。「俺、お前に言いたいことがあったんだ」と言ってから死んでいった奈落くん。要は、アーモンドアイスを食べていたのは月夜ちゃんで、不意のキスで奈落くんはアーモンド成分を摂取してしまい死に至ったわけなんです。

 

いや、うん、バレバレやねん。大して大きな謎でもないんや。それが物語の柱になっていて、その周りにちりばめられた細々した設定がもうなんか微妙なんです。荒野の真ん中にあるという設定の町。町を挙げてのUFOを主軸にした謎の町おこし。ひりひり焼けつくような気づかいで月夜ちゃんを取り巻く町の人たち。全部がふわふわしてる。そしてそれを語る月夜ちゃんの一人称がもう読みにくい!古いタイプの一人称で、リズムも悪いし表現が稚拙!ううう、なんかしんどいわー‼

 

 

 

いやね、このお話、書かれたのが2012年なんです。私史上大傑作の「私の男」で、桜庭さんが直木賞を受賞されたのは2008年。だからこのよく分からないお話、桜庭さんなりのお考えがあって書かれたものだと思うんですよ。それを私が理解できないんだろうと思うんです。でも、正直ちょっとがっかり。だって私が思う桜庭さんじゃないんだもん。もしかしたら「ラノベ作家の桜庭一樹」感を前面に押し出したお話だったのかも知れません。

 

私、桜庭さんに本気のドロドロを求めてるからな……。私が知ってる以上のドロドロをあっさり書いてくれるのが桜庭さんだから。なんかこの作品は好みじゃありませんでした。もちろん面白いと思う人はたくさんおられると思うし、私に理解できないというだけですが。でもここに嘘書くのも嫌だしねー。うん、ぶっちゃけ、あんまり好きじゃない。私の好きな桜庭一樹じゃない。

 

ま、人間にはいろんなアンテナがありますからな。

 

奈落くんのキャラ造形は面白いなと思ったけど。いつもニコニコして人気者の美形くんだけど、腹のうちは誰にものぞかせないっていう。この「闇を抱えた男前」っていうのは好きなキャラだわ。でも、その闇は同じ種類の人間にしか理解できないっていう。大体名前が奈落ってなあ。市役所も拒否せないかんやろ。犬夜叉じゃないんだから。

 

そんなわけで、ちょいがっかりした「無花果とムーン」でした。次は図書館で3か月待った本を読みますよ!

 

では、おやすみなさい!