あー面白かった!
こんばんは、渋谷です。
川上未映子さんの「乳と卵」を読みましたよ。芥川賞受賞作。うふふふふ……面白かった。私の好きなやつでした。
やっぱりなんかこういうのが好きね。なんかいちいちカッコつけてないのがいいね。人から見てどう思われるか、の枠の中で綺麗に出来上がったものより私はこっちが好き。
もちろんカッコつけようと思わない状態でカッコついちゃう、っていうのが一番人間としていい状態なんでしょうけどね。でもなんかなあ、『人間って生きてる中でこういうことあるよね、ないっていうのは嘘だよね』ってぶっちゃけ話してくれる川上さんはほんとにおもしろい人だなあ。私が求めてるのはこういうの。スンとおすましした女の子が、誰かに守られながらも自力で身を立ててると思い込んでうそぶく綺麗なお話はつまらない。あらやだ、これ、個人攻撃みたいになってますかね。他意はないのよ?「ナラタージュ」も作品としては素晴らしいものなのよ?
でも、勝手に私の好みはこっちですよという話です。面白かった「乳と卵」。女の業、母を求める子、依存と破壊、って感じでしょうか。
語り部の夏子ちゃんは東京在住。でも語りは関西弁です。そんな夏子ちゃんちに二泊三日で泊まりに来るのが、関西在住の姉の巻子さんと姪っ子の緑子ちゃん。巻子さんが40歳なので、夏子ちゃんは30代後半って感じでしょうか。夏子ちゃんは独身で、巻子さんはバツイチです。一人娘の緑子ちゃんは6年生で、この子は一切口を利かずに筆談で周りとコミュニケーションをとります。
巻子さん親子は、はっきり言ってうまくいってないんですね。巻子さんは豊胸手術したくてしたくてしょーがない人なんです。ぺったんこの胸にオレオがついてる状態らしい。……オレオ。そうか。そりゃ何とかしたいと思うかもしれない。それで東京の夏子ちゃんのとこに出てきたわけですね。病院でいろいろ話を聞こうと思って。
でも緑子ちゃんは、「私が生まれておっぱい吸ったから垂れちゃったって思ってるんでしょ?だったら子どもなんか生まなきゃ良かったじゃん。今だってお金がなくておかーさん必死で働いてるのは私に金がかかるからでしょ?あーやだ。生まれてくるんじゃなかった。私は子供なんか生むもんか。なのに胸は膨らんでくるし毛は生えてくるし生理は来るし、もう何もかもいやだわー!」という感じで筆談ガールになってしまったわけです。うーん、すれ違ってるねえ。お母さんは決して緑子ちゃんのせいで乳首がオレオになったなんて思ってるわけじゃないんだよ。母にとって子は宝だからね。子が吸ってるうちは乳首は食器。でも、食器じゃなくなってからの方が人生は長いんだ。
40も来たら乳首なんかどーでもいいじゃないか、と思われる方もおられるかも知れませんが、女にとっておっぱいっていくつになってもすっごく大事なものだから。別に誰に見せるっていうんじゃなくても、やっぱり綺麗な体でいたいと思うものなんですよ。自分のために綺麗でいたい。巻子さん、その気持ちはよーくわかるよ。でもなんか拗らせちゃって、ブロン依存とかになっちゃう巻子さん。ブロンて。中年にしか分かりませんかね。昔「ボンドの匂い嗅いでハイになる」と同じぐらいの初歩的なとこにあった薬物ですね。液体の咳止め。これをごくごく飲むとちょっといい気分になれるんです。言っときますけど私はそういうことはやってませんよ。まあそういう時代もあった、ということで。
ちなみに今は液体のブロンって売ってないんじゃないかなあ。要は、悲しいぐらいにお粗末な依存症、って感じです。そんな巻子さんが、病院の下見に行ってくると言って帰ってこなくなっちゃう。心配して待ち続ける夏子ちゃんと緑子ちゃん。べろべろに酔っぱらって帰ってきた巻子さんは、緑子ちゃんのお父さんに会ってきた、なんて言うのです。
ちょっとはた目から見る分には、精神的にエキセントリックなところのある巻子さん。
緑子ちゃんを愛しているのにうまく伝えることができません。緑子ちゃんも愛情が伝わってないから自分という存在を大切にできない。でもべろんべろんの巻子さんは、元夫とどういう話をしてきたのかなんか腹を割って帰ってくるんですね。「あんたなんでお母ちゃんの目を見んの。口をきかんの。馬鹿にしとんの?どういうつもりやの!」
すると不安が頂点に達していた緑子ちゃんも応戦してくるわけです。お母ちゃんはもう帰ってこないんじゃないかと心底不安になっていたわけですから。半年ぶりに口を開いてお母さんを罵倒し、ふたりはなぜか夏子ちゃんが賞味期限切れで捨てるつもりで出してた卵を自分の頭にぶつけながら怒鳴りあいます。ぶつけ合いながら、じゃないからね。自分の頭に各自ぐしゃぐしゃぶつけながら。なにやってるんだ。でもこの葛藤とその先にある和解がすっごく良かった!
やっとお互いの気持ちが分かりあえた巻子さんと緑子ちゃん。夏子ちゃんは大変でしたな。卵、っていうのは女性のお腹にぎっちり詰まっている卵子の暗喩なのでしょう。卵子を割って割ってやっと本音をぶつけ合った親子。良かったね!なんかすっきりしたよ!
この本にはもう一作、「あなたたちの恋愛は瀕死」という短編も収録されていました。まあこれはちょっとブラックユーモアかな。受け取り方にもよるけど。私はブラックなホラー寄りのコメディなのかなと解釈した。みっちり化粧した女が、行きずりのセックスしたくて街頭のティッシュ配りのお兄ちゃんに声をかけたとたんに殴り倒される話。……多分だけど、主人公は老婆なのかな。ギョッとする化粧をしたおばあさん、駅前とかにたまにいますよね。ああいう人を私は想像しました。
やけど、殴らんでも。暴力はいけませんよ。確かに80過ぎたおじいさんに口説かれたりすると何とも言えない気持ちになりそうですけどね。殴ったらいかん。うん。しかし発想が面白い。
と、言うわけで面白かった川上未映子さん。他のもよもっ。でも次はまた別の人の作品を。何冊か借りてきてるのです。誰のにしようかな。
楽しみですね。今夜は遅いのでもう寝ます。
では、おやすみなさい!