こんにちは、渋谷です。
家はやっぱりサイコーやわあ。屋根はあるし湯は出るし。
ベッドはぬくいしクッションは人を駄目にするし。なんせ猫がいる。キャンプに猫は連れていけんもんで、にゃんこ成分が薄まるのよねえ。
猫を膝に乗せ本をめくる。言うことないわ。しみじみ思いましたが、読書って宇宙ですな。ファンタジーやSFなんかを含めれば、現実の世界の何倍もの情報が蓄積されてる。時代もいくらでも遡れる。人の心の中を深く掘り下げることもできる。
キャンプに出て、山やら海やらぼんやり見てると、逆に「狭い世界やなー」と思うのよね。目に映るものしか触ることができない。
読書は目に映らないものを手に入れることができる作業なのね。面白ろっ。ますます本を読みましょう。
という訳で曽根圭介さんの「沈底魚」。江戸川乱歩賞受賞作、曽根さんのデビュー作です。
警視庁公安部外事二課、というところにお勤めの不破さんという刑事さんが主人公です。40歳。周りと溶け込む気ゼロの無頼派です。お友達はいません。
やべえ……私かよ。いや、私には家族がいますが。悪意なく周囲と距離をおく不破さんの人間性が異様に分かります。5年前に「あなたは傷つくことを恐れて着ている鎧を脱ごうとしない」とか言って、嫁さんは出ていったようです。違うよ、ナチュラルに他人に興味がないだけだよ。だから距離をおいて付き合ってくれればそれでいいんだよ。無理に心を開かせようなんて考えるからいかん。
鎧も皮膚なんだっつーの。まあそんな無頼派の不破さんが、中国、日本、アメリカがそれぞれ糸を引く2重3重のスパイに翻弄され、真実に肉迫していくまでの物語です。
私があまり読まない、警察小説というジャンルです。警察なんですが、描写はほとんどヤクザの集団です。警察内部でも策略や闘争が繰り広げられていて、その波をかいくぐりながら不破さんは北京から送り込まれたスパイを追っていきます。
そっからもう、スパイだと思ってた人が囮だったりやっぱりスパイだったり、あっちのスパイしてたはずなのに二重スパイで実は敵だったり、目くらましだった標的がやっぱり目くらましじゃなくて本星だったり、本庁から来た上司がスパイなのかと思ったら違ったりやっぱりそうだったり、もう……。
もう複雑過ぎて、気を抜くヒマがない!
多分ね、警察小説を読み慣れてる人には頭に入って来やすいんだと思うのよ。お話の展開も早くて追いにくいんだけど、その上男同士の全ては語らぬやりとりとか。言葉を越えたところにある信頼関係とか。
「ちょっと説明が足らん!待って、もうちょっと分かりやすく噛み砕いてー!」ってなる。不破さんはモノローグでひたすら状況の説明をしてくれてるんですが、話が複雑過ぎて何度も何度もページを遡って読み直しました。そして……最後の最後にものすごい爆弾を投下して逃げちゃう不破さんに、驚愕。
いやー、これが曽根圭介さんのデビュー作なんですね。やっぱりこの人の破天荒ぶりが私は好きです。警察官なのに、闇に通じた老人にすべての情報をぶちまけて姿をくらます不破さん。このあと、CIAとか永田町とか中国の安全部とかは上を下への大騒ぎになるんでしょう。一件落着、大団円にしないんだね。やっぱり受賞作には熱が必要なんだわ。
という訳で、読み慣れない警察小説でちょっと戸惑いましたが、ストーリーの力でねじ伏せられた感じの「沈底魚」。エンターテイメントでした。面白かったです。
さあ次はどうしよっかな。道尾秀介さんにしようかなー。楽しみ楽しみ。
ではでは、またっ!