読書感想文77 曽根圭介 熱帯夜 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

すごーい面白かった!

こんにちは、渋谷です。




曽根圭介さんの短編集、「熱帯夜」を読みましたよー!面白かった!いやー参った!

今私が面白いと思う要素が全部入ってた!こういうのが書きたいんだと思ってた作品そのままだった!さすが日本推理作家協会賞受賞作ですなー!

「熱帯夜」は短編集です。収録作が「熱帯夜」、「あげくの果て」「最後の言い訳」となっております。「熱帯夜」が日本推理作家協会賞受賞作です。「熱帯夜」がミステリー、「あげくの果て」はSF、「最後の言い訳」はホラーって感じですかね。多彩な方ですねー。全部すごい完成度だった!

中でもやっぱり「熱帯夜」が良かったです。面白い短編ってこういうのを言うのねー。

 

 

 

語り部は「ボク」、40年前のアルファロメオを大事に乗っている青年です。私も昔真面目にアルファロメオ買おうとしたことがあったのよ。ふるーいスパイダー。オープンカーに乗りたくて。故障しやすいって周りに止められて結局マツダのロードスターにした。名車でしたな。もう15年以上昔の話ですが。

 

このアルファロメオが話のキーを握ります。ボクは古い友人、藤堂が借りた貸し別荘をアルファロメオで訪れていました。そこにやって来たのが、借金取りの熊田とその舎弟のプロレスラーみたいな容姿のブッチャーの二人組。1千万の借金の取り立てにあっている藤堂は、ボクに「アルファロメオを貸してくれ。2時間後には戻ってくるから」と頼みます。隣町の藤堂の嫁さんの実家に、頭を下げて金を借りに行こうというわけです。人質はボクと藤堂の嫁さんの美鈴。藤堂が去って、熊田もなんか用事があって帰っちゃいます。ブッチャーに「1分でも藤堂が遅れたら嫁さん好きにしていいよ」と言い残して。

 

あらま大変。「走れメロス」みたいな状況です。しかもボクは以前美鈴と付き合っていたことがあり、未だに思い続けています。美鈴は藤堂に手ごめにされ、無理矢理結婚に持ち込まれたと思い込んでいるんです。


それとは別の軸で語られるのが、とある女性看護師の自動車事故。山道でぶっ飛ばしていると何かを轢いてしまいます。少し離れた場所にはボンネットが空いたアルファロメオが停まっている。よくよく探してみるとふっ飛ばされたちょっと太めの被害男性。ポケットに1千万円。看護師は借金もつれで自暴自棄です。とどめをさして、この1千万円もらっちゃおうかなー。


軸が戻ってみると、藤堂は帰って来なくてタイムリミットが過ぎてしまいます。美鈴ちゃんはどうなってしまうんだ……!と思いきや、ブッチャーが美味しく頂いたのはボクの方でしたとさ。そっちの人だったんですね。良かった……のだろうか?


ボクは美鈴を守れたと若干満足げですが、当の美鈴はボクをいやーな目で見るんですね。「藤堂はどうせ帰って来ないよ」というボクに、「どうしてそんなことが言えるの!夫はまだあなたのことを親友だと思っているのよ!」


……うーん、何かがおかしい。噛み合わない。そして巷を騒がせている殺人鬼の噂。モデル体型の女性ばかりを襲い、レイプして殺してしまう殺人鬼。美鈴は元モデル。殺人鬼の正体は。そして例の看護師が藤堂を殺してアルファロメオに詰め込んじゃったんだから(多分)、美鈴ちゃんはソープ堕ちしちゃうのでしょうか……!




……と思いきや。


なんと看護師が轢き殺したのはブッチャーだったんですよ。アルファロメオの故障のせいで、藤堂は時間に遅れはしましたが帰って来ました。その金を手にしてアルファロメオで山を下るブッチャー。そこでまた壊れるアルファロメオ。40年前のやつだしねえ。どうにか直そうとしてる間に事故にあったブッチャー。


ブッチャーの死体をアルファロメオに積み込み、走るうちにパトカーに止められる看護師。ボクの所有する車だからですが、ついでにこの看護師も捕まっちゃいますね。悪いことはできません。警察はボク、連続殺人犯小平にたどり着いていた。


結局ボクこと小平は美鈴のストーカーで、美鈴に似た女性を狙って強姦殺人してたわけです。殺された女性たちはみんな、ナイフで顔に傷をつけられていました。それは美鈴のえくぼを再現するため。ストーカー小平はストーキングの一環で別荘を訪れていたんですねえ……。




ほんの少し時間軸が前後することで、こうまで読者を翻弄することができるんですね。看護師が事故を起こした描写は、かなり初めの方に方に書かれているんです。ブッチャーが別荘を立ち去るだいぶ前。時系列的には順番がおかしい。最後まで読んでやっと読者はそれに気付く。


叙述トリックと言っていいのかな。ストーカーから美鈴を救おうとしていた小平がストーカー。看護師が轢いたのは藤堂と見せかけておいてブッチャー。綺麗に騙されたよ。こういうのが書きたい。面白いなあ。




というわけでまだまだミステリーを読みます。そろそろ別分野も恋しくなってきてるんだけど、もうちょっと頑張らなきゃ。


今書いてる短編が今週中には目処がつきそうだから、そこまではミステリー。頭の中をミステリーにしておきたい。面白いしね。


ではまたー!