めっちゃくちゃですねー!
こんばんは、渋谷です。
金原ひとみさんの「憂鬱たち」です。こないだ「蛇にピアス」を読んだ金原ひとみさん。
なんだか痛いお話を書く方だなあと思ったんですが、今回も痛い。痛い痛い。でも今回の痛さは痛覚に訴える痛みではなく、「あーいたたたた。こりゃ触らんほうがいいなあ」という精神的な痛さです。
この「憂鬱たち」は短編集なんですが、すべての話の登場人物が同じ人なんですね。若い女性「神田憂」、大学生ぐらいの男の子「ウツイ」くん、50手前のおっさん「カイズ」さん。ラインナップは
デリラ
ミンク
デンマ
マンボ
ピアス
ゼイリ
ジビカ
の7篇となっています。
この3人が毎度出てきて不思議な世界を繰り広げます。神田憂は毎度毎度、精神病院にかかりたいかなりの分裂女子。ウツイくんとカイズさんはその度別の役割を与えられて、税理士になったりコンビニの店員になったりタクシーの運転手になったりするんですね。
役割は色々ですが、ウツイくんとカイズさんはなんやかんやと神田憂の精神病院行きを邪魔します。邪魔してる訳じゃないんだけど、毎度毎度病院に行けない神田憂。
病院に行こうと思って家を出るのに、いつの間にかミンクのコートを買うことになっちゃったり、バーでバイトすることになって先輩カイズにパンツの上から股を舐められたり、コンビニ店員ウツイの気を引きたくてタンポンやらコンドームやら買って領収書を求めたりします。もう、何がなんだか。めちゃくちゃな神田憂の精神状態を延々描写されるこの短編連作。嫌いな人は間違いなく嫌いだろうと思います。でも私は結構好きだった。知ってはいけない世界を見せられる快感。行っちゃいけない場所を覗いてしまう快感。
ブラックユーモア、という言葉がぴったり合うのかなと思います。筒井康隆さんの描く、狂人の表現を思い出してしまった。暴れに暴れて「うへへへへ」って笑うあの突き抜けた狂いっぷり。あれを女性がやるとこうなるのかなって感じ。それを冷静に書く金原さん。この人、狂ってるのか冷静なのか、どっちなんだろう。
筒井さんって、なんかもう若干突き抜けちゃってる気がするんですよね。七瀬シリーズとか時をかける少女とかも子供の頃読んだのですが。
やっぱり圧巻は、短編で見せる荒唐無稽かつものすごい重みの違和感の幕の内弁当。違和感が心地よくて、自分が狂ってるのか筒井さんが狂ってるのかわからなくなるあの混沌。それを思い出してしまいました。金原ひとみさん、面白い作家さんだなあ。
この本の特徴として、改行がほとんどない、というところが挙げられるのかなと思います。ページをびっちり文字が埋め尽くします。そこに書き綴られた、神田憂の被害妄想と爆発する性欲。性欲ですよ性欲。私、女の人が書く性欲ってほんと好きなのよ。某エブリスタのお姉さんの大ファンなんですが、その方も女の性欲をきれいに書かれる方なんですよね。(うう、名前は出せない)
結局女にも性欲はある。それをないもののようにして生きていくのは嘘なんじゃないかと思うんです。「私、そんな汚らしいこと大嫌いです」とおっしゃる方を否定するつもりはありません。人それぞれに感性は違うからね。
でもあるんならそれをないものとするのは嘘になってしまう。あるものをあるままに表現するって美しいことだなと思う。林真理子さんが好きなのもそこなんですよね。女の性欲を隠さない。寂聴さんも好きだ。やりたいならやりたいでいいではないか。そしてそれを素直に表現する女性ってとてもチャーミングではないか。
まあ社会規範とか色々あるので実際は難しいですがね。神田憂は独身だからやりたい放題です。しかもほぼ妄想だ。あ、話がそれたね。
そういう性欲やらなんやらを、神田憂は改行なしで一気に書き連ねていきます。神田憂というか金原ひとみさんが。ページはもうまっ黒です。ひたすら半狂人の被害妄想の行ったり来たり。でも、これすごくいい効果をもたらしてるのかなと思います。
私よくヤフコメ見るんですよね。アホなので、ニュース読んでどう解釈していいかわからない時があって。ほかの人はどう思ってるんだろうって知りたい時、ヤフコメを見てみるんですが。
そこで、改行なしでみっちり書き連ねてる人って、言ってることもホント変なんですよね。変……と言うか「あ、何かを超えたのですね」みたいなしっとり伝わる恐怖。神田憂の独白も何かを超えています。これを書ける金原さんも、きっと一度は何かを超えたんだろうなあ。
ストーリー性も謎解きもカタルシスも何もないこの作品。面白い、これも文学って言っていいんだね。
私が一番面白かったのは「デンマ」という作品です。精神病院に行こうとしてなぜか電器店で電マを買ってしまう神田憂。もちろん目的はオナニーです。もう何がなんだかわからない。でもオナニー難民の女子は世間に溢れていることでしょう。イケメン店員を前にして「あ、使用部位は腰周りです」と言ってしまう神田憂。あっぱれ。もう笑うしかない。狂気の裏側にある失笑。こんなのもアリなんですね。
細々考えたら笑っちゃいけない状況です。でもまあ笑っときましょう。そういう投げやりさもあるこの「憂鬱たち」。表紙に絵画から抜け出た裸婦が多数描かれているのですが、それを見てうちの子供が言いましたとさ。
「ママ、こんな本読んだらいかんよ! なんか変だよ! こんな男の子がニヤッと笑うようなの、ママが読んだらいかんよ……!」
すまんな子よ。ママはこんなのを読む人間なのだ。「これは裸婦像っていってね、芸術の一端でね、ヨーロッパではこういうのが美しいとされていてね、決しておかしいってことはなくてね……」と説明途中にブラタモリがパリ特集を始めた。街のブロンズ像に子供も納得したらしい。
なんか色々、色々ですね。何があってもいいのだなと思った「憂鬱たち」。面白かった。金原ひとみさん、もっと読んでみたいと思います。
そんなわけで、おやすみなさい!