やっばい……超面白かった。
こんばんは、渋谷です。
おすすめ頂いた、高木彬光さんの「破戒裁判」を読みました。おっ……もしろかったあ。
この本は昭和36年発刊だそうです。昭和36年。三丁目の夕日の世界でしょうか。今ググってみたら、「東洋の魔女」とか「地球は青かった」とか「巨人・大鵬・卵焼き」とかいうフレーズが出てきました。かれこれですね笑
私が図書館でこの本を探した時、本棚には見当たらなかったんです。でもよくよく調べてみると、一般人は入れない書庫にあって、番号を紙に書いて出してもらう方式になってました。
私が借りたのは単行本。昭和50年の3刷のものでしたが、それでももう煮しめ色を越えてカラメル色になっていたこの本。
字もちっさいし、読むのに時間かかるだろうなあ……と思いきや、とんでもない。
あっという間に読み終わりました。めちゃくちゃ、めっちゃくちゃ、面白かったんです……!
語り部は新聞記者の米田友一。一応名前はついていますが、この人は全くの傍観者、語り部としてしか役割はありません。
米田は法廷専属の新聞記者です。彼が取材した、後に「破戒裁判」と呼ばれるひとつの裁判を丹念に描写したのがこの作品。
被告人は、村田和彦という役者崩れのプータロー(実際は投資家ですが)。この男には、東条憲司、康子の夫婦を殺害した上に死体を線路に遺棄した嫌疑がかかっています。物語の冒頭、読者は和彦が犯人であると思い込まされてしまいます。
だって無職だし、劇団のお金を持ち逃げしちゃうし、人妻である康子とラブホ(文中では『温泉マーク』と称されてた。うる星やつらを思い出した)で逢い引きだし、どー考えてもこいつが犯人!間違いない!ここからこの話、どうひっくり返るんだろうと思いきや……。
あっという間に引き込まれる展開が待っています。検察側の証人がひとり出る度に、百谷という弁護士によって和彦の嫌疑は晴らされていく。和彦が投機によって身を立てていたこと、劇団の金は、金に困った劇団員の男に用立ててやっていたこと、康子の強い虚栄心を満たすべく、しもべのように崇拝し本心から愛していたこと……。
この作品は、最後に大どんでん返しが待っている、という構成じゃないんですね。細かく章ごとぐらいにクライマックスが散りばめられていて、その度にこちらの思い込みがひっくり返されていく。だから中だるみせず読み進めていくことができます。
そして終盤、明かされたある事実から和彦に一気に形勢が傾く。ああ良かった、無実になるかな、と読者も息をつく。けれどそこで検察側がまた勢いをもつ。このままでは無罪までは持ち込めないかも知れない。んー、どうなる!とどきどきしたところで、誰もが納得せざるを得ない結末が待っているのです。
構成の妙ね。この話、下手に書けばこんなに面白い話にならなかった可能性もあると思うんです。だって和彦はとても哀しい生い立ちを背負っています。事件の経過もその心情もとにかく哀れで、ともすればそこにばかり目がいって、法廷論争よりもそちらが主になってしまう可能性もあったんじゃないかと思うんです。
でも、ドライな米田の語り口調と読者を離さない構成で、爽快な読後感にかえています。『謎を小出しに』して、『クライマックスを重ねて持ってくる』。こないだ大沢在昌さんが書いてたのってこういうことなんだなあ。やっぱり、時代を越えて残ってる作家さんの作品て、すごい。
この『破戒裁判』が出版された昭和36年は、松本清張の『砂の器』がベストセラーになった年でもあります。こないだ読んだ松本清張、私はちょっと正直しんどかったのよね。
文章が堅くて回りくどい。理詰めで攻めてくるから疲れる。その点、高木彬光さんはとっても読みやすいんです。
まず漢字が少ない。古い本って京極夏彦バリの難解な字面を想像しますが、文面も言い回しも平易で読みやすい。描写にも面倒くさい比喩とか使わない。楽。すいすい読める。だから話にのめり込める。
そういえば作中にちらっと『神津恭介』が出てきてましたよ。シリーズじゃないのに。おちゃめね高木先生。なんか可愛い。また『神津恭介』シリーズも読もう。
今日はあえて作品の中身をあまり書きませんでした。だって、ぜひ読んでほしいから。
私の中で、島田荘司さんの「異邦の騎士」なみに面白かった。「異邦の騎士」も相当面白い本なのですが、それに劣らないぐらい面白かった。考えさせられた。書き手としても勉強になった。
面白かったです「破戒裁判」。夫にも勧めておきました。未読の方はぜひ読んでみて頂ければと思います。
さー次の本どうぞー!