新刊「跡取り娘のブランド再生物語」発売記念 「震災、原発事故ののち、ワインを造ること」
新刊本日発売!老舗復活 「跡取り娘」のブランド再生物語 (日経ビジネス人文庫)
「跡取り娘の経営学」の文庫化が決まり、新しく品川女子学院、メーカーズシャツ鎌倉、タケダワイナリーなどが加筆訂正して、収録されております。
登場いただいた跡取り娘の方たちに近況報告をいただいております。
山形で自然農法のこだわりのワインを造る岸平典子さんからのメールが、
今の日本で物を造る方たちの思いや矜持にあふれており、
胸に迫るものがありました。
許可を得て転載いたします。お時間あればぜひ読んでください。
老舗復活 「跡取り娘」のブランド再生物語 (日経ビジネス人文庫)/白河 桃子
¥840
Amazon.co.jp
震災、原発事故ののち、ワインを造ること
「ここ山形県上山市も激しい揺れに襲われました。幸いワインが割れる、タンクが倒れるなどの被害はありませんでした。
しかし、道路は通行止め、新幹線・電車も通らないなど、人の移動・物流は完全ストップでした。
ガソリン、灯油がないので車を動かせない、ビン詰めしたいけれど瓶コルクもが入荷しない、
一番困ったのは出荷ができない、ワインを売ることができない事です。
3月4月はこのまま続けば経営が成り立たないと本当に焦りました。
被災地も近く、私たちもスタッフも、宮城・福島に親戚・友人などもいるし、皆、気力がなえそうになりました。
しかし、その間でも葡萄はすくすく成長します。皆、葡萄に背中を押されて生活をしました。
幸い、流通が正常化してからは、売上は順調で以前より良いくらいです。
しかし、その後、放射能問題がありました。山形は四方を山に囲まれているので、
放射性物質の飛来はとても少ないのですが、福島の隣県というイメージがあります。
ましてや、タケダワイナリーは県産葡萄100%がひとつのシンボルでもあります。
国は最初は300ベクレル、今は100ベクレル以下なら出荷可能であるとか、
いろんな業界団体では独自の下限値を設け、たとえば20ベクレルなら「不検出」と表示し、
正直な数値を消費者へ公表しません。
私はそのような事に疑問を感じました。13ベクレルあるのに「不検出」と表示するっておかしいのでは?
消費者は、100ベクレルや20ベクレルなら買わない、10ベクレルなら買うという判断もさせてもらえないの?
山形ワイナリー組合でも話をしたら、「組合とは業界を守るもので、消費者守るものではない」
と言われました。びっくりしました。
私は、2011年秋の仕込みからすぐ、葡萄・リンゴなどすべての原料、ワインは全アイテムを、
できるかぎり精密な方法で放射能測定をしました。
本当に不検出のものもありました、2ベクレルのもありました。全部包み隠さず、
HP等で公開しました。今も続けています。
そのような事を、すぐ行ったワイナリーは全国で例がないそうです。
消費者の方々は皆さん好意的にうけとめてくださって、そのせいで売り上げに響いては
いないようです。「びっくりした。英断ですね。まったく典子さんらしい」などと言われました。
厳密な検査法なので検査費用も割高で、また検体数も多いので、検査費用がばかになりません。
組合を通して、県や国に援助をお願いしました。山形県は賠償の対象外地域なので、
今の所なんとも言えないそうです。
それから、
我々よりひどい被災地をみると、当初はなんて私たちは無力で無意味なものを作っているのかと落ち込みました。
まずは、農業法人会を通して援助依頼があったのが、お米です。市からの依頼はそれに加え、衣服でした。
ワインなんて、生活の糧にはならない。前から知っていたことだけど、現実を突き付けられました。
その後、近くでカフェをしている知り合いが、上山市へ避難している被災者へ日曜だけ無料で
コーヒーと焼き立てパンをふるまうから、ワインをカンパしてくれと言ってきました。
数日後、その人が興奮してやってきて、「皆最初は、目が死んでいるようだったけど、
蔵王スターの甘口を一口のんだら、顔がほころぶんだよ。ワインは、一時かもしれないけど人に何かを与えるんだよ。」と言いました。
その後、被災地へ実際ワインを持って、他のワイナリーの仲間たちと訪問したりしました。
皆、美味しい美味しいと楽しそうに飲んでくださって、「貴方が造ったの?美味しい、がんばりなさいね」
と言われました。
被災地へ行く前は、根本的な解決になどならないし、生活の糧を持参する訳でもないし、
自己満足かもしれないと、躊躇しましたが行ってよかったと思いました。
きっと音楽や文学、芸術が、心に必要なように、ワインもそうなれるのかもしれないと思いました。
そのようなものを造っていかなければと思いました。」
岸平さんのタケダワイナリーはこちら!
http://www.takeda-wine.co.jp/
「跡取り娘の経営学」の文庫化が決まり、新しく品川女子学院、メーカーズシャツ鎌倉、タケダワイナリーなどが加筆訂正して、収録されております。
登場いただいた跡取り娘の方たちに近況報告をいただいております。
山形で自然農法のこだわりのワインを造る岸平典子さんからのメールが、
今の日本で物を造る方たちの思いや矜持にあふれており、
胸に迫るものがありました。
許可を得て転載いたします。お時間あればぜひ読んでください。
老舗復活 「跡取り娘」のブランド再生物語 (日経ビジネス人文庫)/白河 桃子
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震災、原発事故ののち、ワインを造ること
「ここ山形県上山市も激しい揺れに襲われました。幸いワインが割れる、タンクが倒れるなどの被害はありませんでした。
しかし、道路は通行止め、新幹線・電車も通らないなど、人の移動・物流は完全ストップでした。
ガソリン、灯油がないので車を動かせない、ビン詰めしたいけれど瓶コルクもが入荷しない、
一番困ったのは出荷ができない、ワインを売ることができない事です。
3月4月はこのまま続けば経営が成り立たないと本当に焦りました。
被災地も近く、私たちもスタッフも、宮城・福島に親戚・友人などもいるし、皆、気力がなえそうになりました。
しかし、その間でも葡萄はすくすく成長します。皆、葡萄に背中を押されて生活をしました。
幸い、流通が正常化してからは、売上は順調で以前より良いくらいです。
しかし、その後、放射能問題がありました。山形は四方を山に囲まれているので、
放射性物質の飛来はとても少ないのですが、福島の隣県というイメージがあります。
ましてや、タケダワイナリーは県産葡萄100%がひとつのシンボルでもあります。
国は最初は300ベクレル、今は100ベクレル以下なら出荷可能であるとか、
いろんな業界団体では独自の下限値を設け、たとえば20ベクレルなら「不検出」と表示し、
正直な数値を消費者へ公表しません。
私はそのような事に疑問を感じました。13ベクレルあるのに「不検出」と表示するっておかしいのでは?
消費者は、100ベクレルや20ベクレルなら買わない、10ベクレルなら買うという判断もさせてもらえないの?
山形ワイナリー組合でも話をしたら、「組合とは業界を守るもので、消費者守るものではない」
と言われました。びっくりしました。
私は、2011年秋の仕込みからすぐ、葡萄・リンゴなどすべての原料、ワインは全アイテムを、
できるかぎり精密な方法で放射能測定をしました。
本当に不検出のものもありました、2ベクレルのもありました。全部包み隠さず、
HP等で公開しました。今も続けています。
そのような事を、すぐ行ったワイナリーは全国で例がないそうです。
消費者の方々は皆さん好意的にうけとめてくださって、そのせいで売り上げに響いては
いないようです。「びっくりした。英断ですね。まったく典子さんらしい」などと言われました。
厳密な検査法なので検査費用も割高で、また検体数も多いので、検査費用がばかになりません。
組合を通して、県や国に援助をお願いしました。山形県は賠償の対象外地域なので、
今の所なんとも言えないそうです。
それから、
我々よりひどい被災地をみると、当初はなんて私たちは無力で無意味なものを作っているのかと落ち込みました。
まずは、農業法人会を通して援助依頼があったのが、お米です。市からの依頼はそれに加え、衣服でした。
ワインなんて、生活の糧にはならない。前から知っていたことだけど、現実を突き付けられました。
その後、近くでカフェをしている知り合いが、上山市へ避難している被災者へ日曜だけ無料で
コーヒーと焼き立てパンをふるまうから、ワインをカンパしてくれと言ってきました。
数日後、その人が興奮してやってきて、「皆最初は、目が死んでいるようだったけど、
蔵王スターの甘口を一口のんだら、顔がほころぶんだよ。ワインは、一時かもしれないけど人に何かを与えるんだよ。」と言いました。
その後、被災地へ実際ワインを持って、他のワイナリーの仲間たちと訪問したりしました。
皆、美味しい美味しいと楽しそうに飲んでくださって、「貴方が造ったの?美味しい、がんばりなさいね」
と言われました。
被災地へ行く前は、根本的な解決になどならないし、生活の糧を持参する訳でもないし、
自己満足かもしれないと、躊躇しましたが行ってよかったと思いました。
きっと音楽や文学、芸術が、心に必要なように、ワインもそうなれるのかもしれないと思いました。
そのようなものを造っていかなければと思いました。」
岸平さんのタケダワイナリーはこちら!
http://www.takeda-wine.co.jp/