
獄中手記
元治元年六月十九日
因中作
優悠自得養誠眞 優悠(ゆうゆう)自得(じとく)誠真を養う
板屋三間足容身 板屋三間(さんげん)身を入れるに足るを
蟣蝨生膚蟻盈席 蟣蝨(きしつ)膚に生じ蟻は席に盈も
堪思土窟上書人 堪えて土窟に思う上書(じょうしょ)の人
【語句解説】
優悠(ゆうゆう)→悠然として優れるの意
自得(じとく)→自ら得ること
誠眞(せいしん)→誠(まこと)、眞(まこと)
板屋三間(いたやさんげん)→板屋は、この場合野山獄、三間は囚中のこと
であれば意味が分かるが、寧ろ、時間・空間・人間の三間の解釈も面白い
蟣蝨(きしつ)→蟣(しらみ)蝨(しらみ)
上書(じょうしょ)→上申書、建白書
【東郭解譯】
高杉晋作は、囚中作など生涯400編の漢詩を遺しているそうです。
このブロクでは、これまで約40編の漢詩を私なりに訳して来ました。
これだけでは、晋作さんの一部しか理解できないのですが、敢えて述べます
と時代の垣根を越えても非常な高度なそして奥行きのある詩文です。
幕末の武士が詠む漢詩として一番印象的なのが、自分の思うこと、弱い部分
も躊躇いなく真情を吐露しているところでしょう。武士は自分の弱い部分や
不利な事柄は、普通見せないと思うのですが、晋作さんは惜しげもなく漢詩
に詠んでいます。このことは、松陰先生の留魂録などにも見られます。
人間的な側面を曝け出す事によって、現代的な詩文になっていて、そういう
意味では判り易いと言えます。ところが、例を引くのは、古代中国の偉人で
あったり故事であったりして、漢字も旧字や現代使わない用法がありますの
で私も随分勉強させられました。でも、漢詩の読み下し文は、格調高くて
いゝですねぇ~