
獄中手記
元治元年五月九日 讀書九十葉
因中作
囚窓無事晝貪眠 囚窓事無く昼眠りを貪る
夢結夢醒自寂然 夢は結び夢は醒め自ら寂然たり
恰有獄中似山裡 恰も獄中の山裡に似たる有り
家如太古日如年 家は太古の如く日は年の如し
【語句解説】
寂然(じゃくねん)=ひっそりして静かなさま、せきぜん・じゃくぜん
【東郭解譯】
獄中の晋作さんの詩は、このところ泰然自若としている心境が
窺えます。獄中の山裡に似ているとは、26歳の若者が感じる
心持ちではありません。これが結句の ”家は太古の如く、日は
年の如し”となっています。今在する所は、太古のように悠然と
し、一日の流れさえ一年のように感じるとの意と思いますが
そこには、もう苛立ちや将来の不安といったものは感じられませ
ん。禅の修行のような心の修業をしていたのかも知れません。
《2015.9.11 周南市 東郭》