NHK大河ドラマ「花燃ゆ」第31回 ”命懸けの伝言” が8月2日放映されました。
元治元年(1864年)7月19日、禁門の変で朝敵とされた長州藩は、幕府に対し恭順の姿勢を
示して、藩を救おうとする勢力(俗論派)の椋梨藤太らが再び台頭して来ます。
今回ドラマは、主役「みわ」の義兄である小田村伊之助が野山獄に収監され「みわ」が
その無実を訴える形で奔走する様子が描かれています。
小田村伊之助は、元治元年には長州藩のお納戸役、書物掛、長崎聞役の御用をしていました
が、禁門の変後、俗論派が主導権を握り幕府に恭順の政治を始めます。三家老の切腹や
四奉行の斬首はその爲であり、攘夷論者が粛清されて行きます。
此の対象に小田村も高杉もされたのであります。11月2日には、役を免ぜられて親類宅で
謹慎処分となり、更に12月19日には野山獄に投ぜられます。これは、九州に身を隠していた
高杉晋作が、11月になって下関に帰り、攘夷派を集結させて12月15日功山寺で旗揚げし
翌、16日には下関奉行所・三田尻の官軍所を開放します。長州藩の俗論派と正義派の戦い
の火蓋が切って落とされた時であります。椋梨藤太ら俗論派も高杉挙兵の報に驚いて
伊之助の兄松島剛藏ら7名の処刑します。小田村伊之助も処刑されそうになりますが、
敬親公の側近ということで極刑を免れたということです。ドラマでは、敬親公は、その時
「そうせい」とは云わず「それはならぬ、留め置け!」と言ったかどうか判りませんが、
翌年の慶応元年2月15日に赦免になりました。藩の主導権争いは、慶応元年1月の絵堂の戦い
で、高杉晋作等の正義派が勝って、俗論派の椋梨藤太らは失脚して漸く藩論は統一されま
す。明治維新では、薩長土肥の活躍に依るものとされていますが、それぞれの藩士と藩主の
関係で長州藩は寧ろ奇妙と思えるほど特異的であります。
毛利敬親公は「君臨すれど統治せず」という立場をとり、藩論に対して主導権を発揮して
リーダーシップを取るというような薩摩藩の島津久光公や土州の山内容堂公のような治世
をしませんでした。俗説では、つねに「そうせい」と云われるので「そうせい公」と綽名
されたことになっています。つまり、上皿天秤の如く支点を中心に主流派と反主流派の
バランスの上に平衡を保つ政治姿勢を確立していました。プラスエネルギーが生まれると
必ず反作用のマイナスエネルギーが生まれて平衡を保ちますがその支点が藩主敬親公なので
あり、藩主の立場はあくまで不変であります。これは、今日の議院内閣制の与党と野党の
関係であります。つまり、長州藩においては、江戸時代に与党と野党との関係でもって
政治を行なっていたのです。雑ではありますがその兆しが確かにあり、後の明治政府の
五カ条の御誓文や明治憲法へも反映されています。吉田松陰先生の理想も今日でいう自由
主義・民主主義のことをいっているのだなと窺わせる文章が沢山あります。
例えば、「草莽崛起論」などにもフレーヘードなどと言っています。
こういう繋がりから見れば、明治維新は単なるクーデターというより長州藩の文化思想史
の範疇です。日本の娯楽などには勧善懲悪的な要素と浪花節的語り口が多いのですが、
独裁国家を民主国家に移行させた長州藩全員の思想の流れや民度の高さや自由追求への
熱意は、然るべきものとして公式に後世へ語り継がれるべきものであろうと思います。
もう、一つその長州藩を支えた本当の能吏達がいたからであります。
政治的にどちらの側へ着くとか論外で、藩の為に黙々と事務作業に打ちこむ全うな藩士・
役人たちです。この人達が本当の長州人であり昔の日本であります。

野山獄の小田村伊之助と福川犀之助《NHK花燃ゆオンライン》
誰かといゝますと、小田村伊之助・高杉小忠太・杉百合之助、民治・福川犀之助・・・等
であります。
決して派という枠組みではないのですが、萩藩の古来からの良識派であります。
絵堂の戦い以後、萩藩の保守派の中から良識派というものたちがにわかに出て来ましたが
そんな人種ではありません。元々の職業を尊び誇りをもって仕事をしてきた役人でありま
す。今回は、その代表として小田村伊之助を上げたいと思います。後の楫取素彦氏ですが
一部を除いて生涯まったく目立たない人でありました。でも彼は大正元年満83歳まで
生き明治政府の数々の要職についています。本当の能吏でした。位階では、1812年の
正二位に叙せられていますが、明治維新を生き抜いた人で飛びぬけて高い官位です。
明治維新関係で彼より上位は、従二位の木戸孝允と大久保利通だけであります。
藩主などは、廃藩置県の功績を認められてということがあり、除外しますと、小田村伊之助
は、うえから三番目になるのです。これも一つの基準なのですが、国への功績が認められた
という点での評価であり、尊重して然るべきだと思います。あまりに無名で表へ出るのは
厭がるというか、無関心で仕事だけ熱心にしてきた優しい日本人なのです。
これからも主人公「みわ」の夫となり小田村伊之助様、しっかり見させて戴きますので、
頑張って下さい。
《2015.8.6 周南市 東郭》