馬上筒の尾栓抜き パイプレンチ出動! | todou455のブログ 火縄銃ときどき山登り

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 火縄銃の会から,馬上筒の集団演武を計画しているとの話があった。馬上筒とは,騎馬武者が片手で操作できるように銃身を短くし軽量に作られた鉄砲のことだ。重量は1~2キロ程度と軽く,全長は50 ~60 cmほどの鉄砲である。ちょうどいい機会だから,持っている馬上筒の整備を始めている。

 先週は,全長66cmの馬上筒の整備に取り組んだ。この鉄砲は馬上筒にしては銃身が長いが,とても軽くできている。重さは1.3キロしかない。良質の鋼と特殊技術により作られたのだろう。銃床は虎杢で銃身には全面に唐草象眼が施されており,美術品としての価値も高い鉄砲である。私の手元に来たときは,ボロ鉄砲だったが,分解して奇麗に整備したら,素晴らしい姿を取り戻した。

 

外装整備前                

外装整備後

 

この鉄砲を撃てるようにするためには,銃身のお尻についている尾栓と呼ばれるネジを外さねばならない。しかし150年以上も錆びっぱなしの尾栓ネジが簡単に外れるわけもない。

 この鉄砲を十日ばかり油漬けにし,その間,毎日,木槌で200回以上ぶったたいた。尾栓抜きのコツは,尾栓と銃身の間に付着した錆を粉砕することだ。機械油を錆に浸透させ錆に打撃を加え,さらに油を浸透させる。油がすっかり浸透すれば,錆は泥状になり尾栓が回し抜けるという仕掛けだ。しかし,この鉄砲は,かなり頑固で,油漬けだけではだめだった。そこで,二つばかり魔法をかけて気長に作業したが,それでも尾栓は,回るようで回らない。

 理論的には回るはずだし,銃身を木槌で叩いてみると打撃音が鈍い音に変わっていた。手持ちのスパナでは太刀打ちできないだけだ。そこで大工の棟梁に頼み込み,パイプレンチで試してもらった。

 

                    パイプレンチ出動

 

しかし,それでも尾栓は回らない。棟梁は,さすがプロだ。どこからか鉄パイプを持ち出してきた。その鉄パイプをパイプレンチの柄に差し込んで回し出した。つまり梃子を長くしたのである。すると尾栓は嘘のように簡単にクルクルと回り出したから,私もびっくりしてしまった。やはり,いい道具と経験は偉大である。

                鉄パイプも加勢

 

 

150年以上前の錆が泥のように溶けています。

 

 

尾栓の頭が変形するくらいの作業です。

 

 結局,この鉄砲の尾栓を抜くのに20日以上もかかってしまった。火縄銃の尾栓抜きはとても難しい。知識や経験がない人が同じことをしたら,鉄砲の尾栓ネジを折って駄目にしてしまうに違いない。火縄銃の尾栓抜きは,業者に任せた方がよかろう。

 

この尾栓を抜く作業を専門業者に頼めば,大体6万円から12万円の範囲のお金がかかる。それほど難しい作業なのだ。金額に幅があるのは,鉄砲の口径による。太い鉄砲になれば作業が難しくなるからだ。

お金のある人は,私のお抱え鉄砲鍛冶の修繕虎造センセ~に頼むことだ。センセ~なら五匁以下の鉄砲の尾栓抜きなら3万円で引き受けるよう話をつけてある。送料は依頼者負担だが,尾栓が抜ければ鉄砲の価値は10万円以上も上がるから安いものである。

 

       我がお抱え鉄砲鍛冶の虎造センセ~

 

ただセンセ~は,ゲ~ジュツカだから仕事を急かせてはならぬ。センセ~は,気分を悪くすると一週間は仕事をしなくなる。それでは私が困るのだ。私の鉄砲は,センセ~の所にまだ3丁も入院したままだ。