男は浮いていた。
男は人並みにお勉強ができる子どもだったため、中学校ではそれとして扱われた。
先生も、友人も、親も、男を優等生として扱った。
男の意志とは裏腹に。
男は耐えた。3年間という永遠よりも長い時間。
しかし、男がここから逃れる方法がただ1つだけあった。
それは、彼が住む地方では最も入手困難とされる「EAST」のエンブレムを手にすることだった。
コミブロ最終章 「One Emblem Has More Stories」
第2説 ~ Lost Freedom~
―3年前の春、まつやま。―
男にとって史上最大の労力を費やして、念願の桜の門をくぐることができた。
綺麗に並べられた机に、広い校庭、情緒漂う柳の並木道。
そして何よりところどころにたたずむ「がんばっていきまっしょい」と刻まれた石碑。
この言葉が何を表すのかはこのとき男には分からなかったが、この地に「粋」が存在していることは確かだ。
男は期待に胸を躍らせた。
「今日からここで生きていくんだ」
もしかするとこの昂揚が、これより何年後かに暗室の中で下されるあの決断の原動力になっているのかもしれない。
が、そんなことはどうでもいいのだ。
ちなみに人々はここを指して「まつやまひがし」と呼ぶようであったのでそれに倣うことにする。
授業初日、男は先生たちの言葉を一言も漏らさず聞いた。
休み時間、教科書を開いて精一杯の予習をした。周りでは初日にしてあちらこちらで談笑が起こっている。
昼休み、校庭に出て昼食をとった。土のテニスコートが遠くでやけに懐かしく見えた。
その日の帰り道、石手川の夕陽を横目に片道50分の家路に着いた。
しかしどうしたことだろう?
まつやまひがしに入ってみたはいいものの、男には大切なものが1つ欠けていた。
それは何より、知人の少なさだった。
同じ地域からここに入学してきたものはほぼおらず、周りを見渡す限り、他人、他人、他人。
しかも「天は二物を与えない」なんて言葉は存在しないんだと言わんばかりの整った顔が小綺麗に並んでいる。
ここは本当に自分の居るべき場所なのだろうか?
男は、「まつやまひがし」をどこか自分の為に用意された秘境の楽園のようにとらえていたのだろうか。
ここは決して桃源郷ではないし、教室は決して総理官邸室では無かった。
ここは男が今まで暮らしてきた公立中学校となんら変わりない場所だったのだ。
男はなんとも言えぬうやむやを胸に抱いた。
期待と帰結。
しかし、今までの生活とここでの生活で違うことが1つだけあった。
それに気づかせてくれたのは、男の唯一古くからの知人である人物であった。
彼は確かこれから先、皆に「おかやん」と呼ばれることになる人物だ。
―continued to "第3説"///
