オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』 -3ページ目

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/




20.



どうやら南口を出てすぐの所は二階部分だったようだ。
人の流れにそって直進していくと、そこにはエスカレーターがあった。
周囲を見渡すと、自分は誰よりも強い男だと言わんばかりの男たちや、何か勘違いしているようなチャラチャラした男、仕事終わりのサラリーマンなど様々な人がいた。
二階部分には女性も多く居たのに、エスカレーターで下っていくのはどういう訳か男ばかりだった。

それもそのはず、エスカレーターを降りてすぐ目に入ってきたものは、ノブの言っていたキャバクラなどの風俗店街だった。
ザッ見ただけでも数えきれないほどの店が並んでいる。

――美波に似た人がいたのは、どの店なのだろう……

この数の店から、美波 に似た人が居る店を見つけ出すのは至難の業に思えた。

とにかく一つ一つの店の看板を見ながら、ゆっくり前に進むことにした。
ポアロ、ミリアリア、シルバニアなど、店の名前は赤や青の華やかなネオンによって鮮やかに飾られていた。
入口の横には小さな掲示板があり、そこにはその店で勤めている女の子の写真と簡単なプロフィールが掲載されていた。
俺はそれを頼りに、美波似の人を探すしかなかった。
一つ一つの店の掲示板を、くまなく確認していく。
はたから見れば、可愛い女の子のいる店を探す男にしか映らないのだろう。

途中途中、外で勧誘している女の子に何度も声を掛けられた。
「お兄さんお兄さん、安くするから一杯どう?」「今ならアフターもサービスするよ」と。俺は言葉を発さず、まるで聞こえていないかのような態度でその声を振り払った。

――もしかしたら美波もこうやって色んな男に声掛けてるのかな……

そう考えるとぞっとした。
背筋が凍りつき、腕は鳥肌が立っていた。
もう何分、何件ほどの店を見て回っただろうか。
どの店の女の子を見ても、美波程の可愛さとスタイルの良さを兼ね備えている人はいなかった。

途方に暮れながら歩いていると、道路を挟んだ反対側にある店の方から、女性の甲高い悲鳴と男のどすの利いた声が聞こえてきた。
「なあ、姉ちゃん。いいじゃねえかよ。お前のためにどれだけ金落としてやってると思ってんだよ。ちょっとくらい奉仕しろよ」
かなり酒に酔った男が、肩から背中にかけ て白い素肌を露わにし、白く細長い足を美しく見せ、キラキラとしたラメが施された赤いドレスを着た女性の腕をとり、車に引きずりいれようとしていた。
騒ぎを聞きつけた店の支配人が慌てて店の外に出てきたが、利益に貢献してもらってるその客に対して、強くは出られないようだ。
しかし女性は、「やめて。放して!!」と叫びながら必死に手を振り払おうとしている。
周囲の人もその騒ぎを見ていたが、あまりの状態にどうすることもできず、ただ立ち尽くしているだけであった。
変なことには関与しない方がいいと思った俺は、その状況を横目にしながらその場を立ち去ることにした。

その現場の真横を通り過ぎようとしたとき、俺は一番信じたくない現実を目にした。
間違いな かった。
決して、見間違いなどではなかった。
ノブの言った通りだった。
その赤いドレスを着た女性の横顔は、紛れもなく美波の顔だった。
それがわかった時、驚きや嘆きの前に美波を助けなくてはという本能が働き、咄嗟に俺は美波の方に向かって走り出した。
「やめろ!!」
周囲にいた人の目は、一気に俺に注がれる。
無論、美波の目も。
「おい、なんかヒーロー気取りのやつが来たぞ」とコソコソと隣の人に耳打ちする者もいた。
「敦……」
美波はどうやらこの状況を飲み込めていないようだが、それは俺も同じだった。
美波のその一瞬の表情は、助かったという安堵感と、ついにこの時が来てしまったかという絶望感が同時に襲ってきたことを表していたように感じられた。

「なんだ、お前。ガキは引っ込んでろ!!」
酔った男は、より大きな声を出し俺を睨み付けた。
しかし、怖くはなかった。
俺も無言で、その男のことを睨み返した。
遠くから見た時は大男に見えたが、近づいて見ればただの太った男。
美波の細さから余計に大きく見えただけで、背丈は俺とさほど変わらなかった。
「お前その目はなんだ。俺とやるつもりか?」
この場で喧嘩をしても、負ける気は一切しなかった。
しかし、この場で喧嘩をすれば当然警察沙汰になるだろう。
もしかすれば、この騒ぎを聞きつけた人が既に警察に通報しているかもしれない。
駅であれば近くに交番があることも間違いはないし、警察が到着するまでおそらく時間の問題だろう。
警察沙汰になって しまえば、美波から話を聞くことなど到底かなわない。
ここは、平穏に話を終わらせるしかなかった。
「すみません。彼女はこの後俺がお借りします。元からこの時間に予約を入れてたんです」
「は?予約?そんな制度この店にはねえぞ。適当な事抜かしてるんじゃねえぞ、くそがき」
「俺はオーナーと知り合いでね。優遇してもらってるんです。ね、オーナー」
そう言って、辻褄を合わせてもらえるよう、男に見られないようにオーナーにウインクして見せた。
オーナーもそれがわかったようで、「そうです。この子が小さい頃からの顔見知りでね。彼だけはVIP扱いさせてもらってるんです」と男に説明した。
その声は微かに震え、目はきょろきょろと泳いでいた。
その様子を見ればどう考えても嘘を言っているように見える。

――この嘘が男に通用しなかったらどうしよう

俺はハラハラしながら必死に思考を巡らせていた。
腑に落ちな い様子の男も、オーナーにそう言われて諦めたのだろう。
それでも「ちっ」という舌打ちをして、俺をもう一度睨み付けてから車に乗り込んだ。
その様子を見届けた周囲の人も、だんだんと散らばってまた夜の街に消えていった。

「敦……」
美波は今にも涙が流れ出しそうな目で、俺をそっと下から見上げた。
「話は中で聞かせてもらうから」
次に予約してあると言った手前、中に入らないわけにもいかない。
美波の細い手首を掴み、店の中に入ることにした。
見せはどうやら地下にあるようで、薄暗い階段を一段一段ゆっくりと降りて行った。
これから俺が進もうとしている道は、この店の階段のように、暗く、深い場所に通じているのかもしれない。
それでも、前に進むしか、 俺に道は残されていなかった。
美波はただひたすら、無言で俺に引っ張られていた。