オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』 -2ページ目

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/




21.



生まれてこの方、このような店に入ったのは初めてだった。
店が地下ということもあり、いくらか息苦しく感じたが、内装はそれを覆すように華やかで地下だということを思わせないような内装になっていた。
入口を入ると、皺ひとつない真っ白いシャツに黒の蝶ネクタイとベストを纏った同年代くらいの青年が、「いらっしゃいませお客様」と背筋をぴんとしたまま軽く頭を下げた。

店に入ったはいいもののこういう店に入ったのが初めてな俺にとっては、店の仕組みやこの後どうしたらいいのかが全く分からなかった。
その様子を察知した美波は先程までとは反対に俺の手首を掴み、「6番テーブルに水をお願いします」と青年に告げ俺の腕を引っ張って店の 奥に連れて行った。


入口入ってすぐの所には受付があり、その奥に入るとバーテンダーが2人いるカウンター形式、更にその奥に入っていくとレストランのようなソファにテーブルが所狭しと並べられていた。
レストランと決定的に違ったのは、天井には直径2mはあろうかというシャンデリアがつりさげられていること。
そして、店内にいる客は皆スーツなど正装をしていて、そこで働く女性たちは赤や青、白などきらびやかで艶めかしいようなドレスを着ていることだ。
その雰囲気は今までには経験したことのない、独特なものだった。
美波の誘導に連れられ、一つの小さなソファに座った。
座って10秒もしないうちに先ほどの青年が銀で作られたピッチャーとワイングラスを持っ てきて、氷が銀とぶつかる音を小さく響かせながらワイングラスにそっと水を注いだ。
水を注ぐ際に机に垂れた水滴を青年はさっと一拭きしたかと思うと、また先ほど同様笑顔で軽く頭を下げその場を去った。
この独特な雰囲気にのみこまれそうになり、俺のことをはたから見れば挙動不審のようになってしまっていたと思う。

隣のテーブルの人を見てみると、50代ぐらいの太った男性が両隣に座っている赤とピンクのドレスを身に纏った女性の肩を抱えて高笑いをしていた。
両隣の女性も同じように笑っていたが、本心から笑っていないということはすぐにわかる。
それを知ってか知らずか、男性はまだ話を続け、話をしたかと思うと自身でまた高笑いしていた。
俺は酒の種類はよくわからない が、その男性の座るテーブルにあるお酒のボトルが、いかにも高級そうなのは一目瞭然だった。

美波はというと、下を見て俯いているだけだった。
美波にどう声をかけていいかわからなかったし、美波もおそらく何を言っていいのかわからないのだろう。
お互いが沈黙していても、周囲からは大きな話し声や笑い声が聞こえてくる。
それは俺にとって雑音でしかなく、どう言葉をかけようか、この後どうしようかと必死に思考をめぐらせる俺にとって聞き苦しく邪魔でしかなかった。
「失礼致します」
声のした方に顔を向けると、オーナーがテーブルのすぐ横に立っていた。
「先程はお見苦しい所をお見せして、更には助けていただいて誠にありがとうございました。先程の男性は週に3, 4回程いらっしゃる常連のお客様でごひいきにしてもらってる身ですので、私どもも止めることができませんで……」
オーナーはそう言いながら額にかいた汗を白いタオルで拭った。
「いえいえ……彼女は、僕の友達で……」
「おー、君は"ミズキ"ちゃんの友達なのか」
「ミズキ……?」
俺はオーナーの言っていることが一瞬わからなかったが、美波の「えー、まあ」と答える様子を見てわかった。
美波はどうやら、名前を偽ってここで働いているようだ。
確かに、本名で働いていれば知人から見つかる可能性も高いし、名前が違ければ似ている人で済むわけだ。
「ミズキちゃんの友達ということなら、尚更だ。今日は好きにして下さって構いません。何を飲んでも、何を食べてくれても、今日 はこちらでサービス致します」
そういってオーナーは立ち去った。
「そんなこと言われても……な?」と、沈黙を紛らわすために美波に話題をふってみた。
「うーん……。でもオーナーもああやって言ってくれてるし、せっかく来たんだから楽しんでよ」
美波は苦しそうな笑顔を見せ、メニュー表をそっと俺に手渡した。
その美波の笑顔は、とても儚く、俺の心をぐっと締め付け俺を息苦しくさせた。