◆ 「無口=劣っている」という誤解の中で、生きてきた内向型漢(おとこ)の話
午前9時前の自由が丘は、まだ街全体が深呼吸をして落ち着いている。
高台にあるオフィスの窓を少しだけ開けると、柔らかい陽射しが、静かに気分を整えてくれる。
クライアントとのオンラインミーティングの開始まで、あと30分。
画面にはまだ誰もいない。 だが、すでに緊張は始まっている。
このプレッシャーは、20年前にコンサル起業した時から、わたしには定番のこと。
わたし――杉本幸雄(すぎもとゆきお)。
20年間以上、ひとりで経営コンサルタント会社を続けてきた。
2万回以上の指導セッション、110億円を超える売上加算。
商業出版6冊。
だが、そんな数字よりも、もっと根深く、もっと個人的な事実がある。
わたしは、
無口で、
ドモりがちで、
集団が苦手だ。
いわゆる“陰キャ”と呼ばれる側の人間で、辛気臭い。
そして、そのことを、子どもの時分から誇りにしている。陽キャに迎合しない。そういう教育には抗ってきた。
---
◆ 「無口=劣っている」という誤解の中で、生きてきた内向型漢(おとこ)
オンライン会議のアラームが鳴る。
参加者が一人、また一人と入室してくる。
わたしは窓の外の青空を眺め、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
この儀式のような呼吸が、どうしても必要だ。
そうしないと、心が萎縮していく。
緊張が高まる。
声が震える。
言葉がドモる。
「もっと喋れ」
「もっと明るく」
「もっとテンポよく」
「口角を上げて、笑顔で」
そんな要求に応えるつもりは、最初からない。
その場を取り繕うための愛想笑いも、する気はない。
自尊心が削られるからだ。
わたしは、自分を何よりも丁寧に扱いたい。
世の中の“正しさ”や“基準”は、あまりにも雑で浅い。
そのことに気づいたのは、13歳の頃だった。
---
◆ 陰キャは、最高級の武器
無口な人間は、言葉を乱発しない。
意味のない言葉を発しない。
だからこそ、観察が鋭い。
相手の表情の変化、声の揺れ、言葉の裏側。
そういう細部を、静かに拾い続ける。
ドモる人間は、言葉を慎重に扱う。
慎重すぎて場面が待ってくれないこともある。
だが、その分だけ思考が深い。
一度発する言葉に、責任が伴うものだと理解している。
軽いノリで約束をしない。
軽い発想で人を傷つけない。
陰キャは、派手さはないが、
“洞察”と“集中”という、ビジネスにおいて最強クラスの武器を持っている。
わたしが20年以上、ひとりで会社を続け、
クライアントの売上を積み上げてこられたのは、
この静かな武器のおかげだ。
---
◆ オンライン会議が始まる
「杉本先生、今日もよろしくお願いします」
画面越しに、クライアントがわたしの短い挨拶に続いて頭を下げる。
わたしは軽く会釈し、すぐに本題へ入る。
アイスブレイクや天気の話は、しない。
必要がないからだ。
言葉はゆっくりだ。
間がある。
ときどき詰まる。言い直す。
だが、相手は真剣に聴いている。
無駄がないと知っているからだ。
60分間のオンライン会議が終わると、双方どっと疲れる。
休憩も冗談もない、ノンストップの真剣勝負だからだ。
---
◆ 結論:陰キャは、劣っていない。むしろ、強い。
無口でもいい。
ドモってもいい。
明るくなくてもいい。
雑談が苦手でもいい。
それらは欠点ではなく、
陰キャであるあなたの“武器”だ。
静かな人間は、深く考える。
深く考える人間は、精度の高い判断をする。
精度の高い判断をする人間は、信頼される。
信頼される人間は、長く勝ち続ける。
つまり、洞察である。
自由が丘のオフィスで、
オンライン会議の画面を見つめながら、
わたしは今日も確信する。
陰キャは、最高級の武器。
それを修正する必要なんて、どこにもない。
---

