9. 「本能を活性化させる教育」は本当に本能なのか


戸塚ヨットスクール では、「本能を活性化させる教育」という言葉がよく使われていました。創設者の

戸塚宏 は、現代社会では理性ばかりが強くなり、本能が弱くなったと考えていたと言われています。


しかしここで一つの疑問が出てきます。実際に行われていた訓練は、本当に「本能」を活性化させるものだったのでしょうか。


戸塚ヨットスクールでは、生活の多くが厳しい規律によって管理されていました。起床時間、食事の時間、訓練の内容、行動の順序などが細かく決められ、集団で同じ動きをすることが求められました。号令に従い、決められた動作を繰り返すという形です。


しかし、生物学的な意味での本能というものは、普通はこのような形では現れません。本能的な行動とは、外から細かく指示されるものではなく、状況に応じて自然に出てくる行動だからです。


例えば動物の世界では、狩り、逃避、縄張り、防衛、繁殖などの行動が本能的に現れます。これらは誰かの命令で行われるわけではありません。


この点を考えると、戸塚ヨットスクールで行われていた訓練は、本能というよりも「規律訓練」に近いものだったとも言えます。むしろ本能とは逆に、行動を強くコントロールする仕組みだった可能性もあります。


ここで見えてくるのは、言葉の使い方の問題です。「本能」という言葉はとても強いイメージを持っています。自然、人間らしさ、生命力といったイメージです。そのため、この言葉を使うことで教育の正当性が強調されることがあります。


しかし実際の内容を見ると、必ずしも本能と一致しているとは限りません。


戸塚ヨットスクールの議論は、「本能」という言葉が社会の中でどのように使われているのかを考える材料にもなります。言葉のイメージと、実際に行われている行動の間には、意外と大きな差があることもあるからです。