8. 「本能が弱くなった若者」という発想はどこから来たのか


戸塚ヨットスクール を語るときによく出てくるのが、「現代の若者は本能が弱くなった」という主張です。創設者の

戸塚宏 も、現代社会では若者の本能が弱体化しているという考え方を繰り返していました。


しかしここで一つ疑問が出てきます。そもそも「本能が弱くなった」という判断は、どうやって決められるのでしょうか。


例えば昔と比べて、若者が反抗しなくなった、根性がなくなった、努力しなくなったという言い方はよく聞かれます。しかしこのような評価は、世代ごとに繰り返されてきたものでもあります。歴史を見てみると、古代の文献にも「最近の若者はだめだ」というような記述が残っています。


つまり「若者の質が下がった」という言い方は、かなり昔から存在している一種の社会的な言い回しでもあります。


また、「本能が弱くなった」という表現にはもう一つの特徴があります。それは、本能という言葉がかなり曖昧に使われていることです。本能という言葉は、生物学的な意味では生まれつきの行動傾向を指します。しかし社会の議論の中では、根性、やる気、精神力といった意味で使われることが多くなっています。


戸塚ヨットスクールの文脈でも、本能という言葉はかなり広い意味で使われていました。勉強しない、学校に行かない、努力しないといった行動を「本能の弱さ」として説明することもありました。


しかし別の見方をすると、それは本能の問題ではなく、社会や教育の仕組みの問題かもしれません。例えば学校の制度が合わない、家庭環境に問題がある、社会の価値観に疑問を感じているなど、さまざまな理由が考えられます。


このように考えると、「本能が弱くなった若者」という言い方は、問題を説明する一つの言葉ではあっても、必ずしも原因を正確に表しているとは限らないのかもしれません。


戸塚ヨットスクールの思想を考えるときには、この「本能」という言葉がどのような意味で使われていたのかを注意して見る必要があります。それによって、この教育思想の特徴がよりはっきり見えてくるからです。