昨日の記事に引き続いて、下の動画の話。



アイスダンスを見るときの基本ということで、14分38秒くらいで出てくる言葉。

「男性は土台で女性は花」。
「しっかりした土台がないとキレイな花は咲かない」。

この動画を見た人たちの間で、ざわめきを呼んだ言葉である。



私もこの言葉、あまりいいと思わない。理由は単純、直感的に分かりにくい。
だってさ、花って土台に置くもの?土台と言えば建物とかでしょ?

実をいうと、自分が少し前に見た光景思い出した。下の写真ね。

これ、公園にある切り株の上に花が咲いているんだけど、花は自然状態で生えたものじゃない。誰かが植えたらしい。見ればわかる通り、園芸店の苗についているような札が一緒に刺してある。
写真に取るくらい面白いと思ったんだけれど、でも、花と切り株の両方が引き立て合ってるとはとても言えない。ちぐはぐだ。
「花と土台」と言われて、正直、この様子を連想してしまったんだよね。

「土台」は、アイスダンス関係者内の言葉としてはいいと思う。
男子選手に、「あなたが二人の世界全体を支えているんだ」ということを伝える点では分かりやすい言葉だ。
一般に男子は自分でやらなくても、野球やサッカーといった団体競技のことをある程度知識として持っている。そして団体競技では「目立たなくても重要な縁の下の力持ち的ポジション」というのがある。そういう「縁の下の力持ち的な役回りなんだよ。」というのを伝えるにはいい言葉だと思う。

ただ「観るだけ」の部外者への言葉としてはいま一つだと思う。「花」と「土台」は本来組み合わせて使う言葉じゃないから、分かった気分になれない。
「マイナー競技のマイナー種目の関係者の内部向けの言葉が、そのまま表に出てきてしまったなあ。」と正直思った。
素人さん向けになら「分かったような気分になる言葉」の方がいい。

「花」ならもっと、それに合った言葉はないだろうか、とつらつら考える。
植木鉢、土、花瓶…。あれ?土台と花器って、英語だと同じ「ベース」じゃなかった?
……調べたら違った。土台は「base」、花器は「vase」だった。

花器はしっかり花を支える。
普通の瓶に花を生けようとしたら倒れるなんて経験をしている人は多いと思う。つまり、花を生けることを前提として重心が取れるように作られている。
見えるところ以外に(重心を下に置く作りという)工夫がある。
また、色を多彩に使い細かく絵が描かれた有田焼の花器に、カスミソウを少し生けても映えない。花器は花に合わせたものを使わないといけない。

「花と花器」の例えで行けそうな気がするんだけど。どうなんだろうね。



アイスダンス関係者の言葉として何回か聞いたことがある言葉は、「絵と額縁」。女性が絵で、男性はそれを支える額縁。
こちらの方が、土台と花というミスマッチ感がない分、いいような気がする。

とはいえ、「絵と額縁」という言葉に対しても私、ちょっとしっくりこない。

絵は取り換えがきかないが、額縁は取り換えがきく。本質的なもの、世界観を提示しているのは絵であり、額縁はそれを引き立てているだけである。
しかし、アイスダンスのカップルが解散したら、女性ダンサーが別の選手と同じような世界観を示せるかというと疑問である。
アイスダンスではカップル二人で世界観を作り上げ、提示しているのである。

額縁であれ土台であれ、しっかりしていれば絵や花は同じような美を示せるはずである。
痛烈なことを言えば、女性が絵という言葉が本質なら、女性ダンサーはやりたい演技に合わせて男性パートナーをころころ変えてもいいはずだ。
しかし実際は、アイスダンスの演技は、「二人の」作品である。目標を共有し、時間を共に過ごし、作り上げる。
組んでいる相手が変わったら、おそらく同じ世界観のプログラムは作れない。
アイスダンス関係者間での言葉としては、額縁も土台も大事な思想なのだろう。ただその外の人間から見ると、ちょっと違わない?という気になるのだ。

この「二人で世界観を作り上げている、けれど女性が主として視線を集める」という感じをうまく例に出来ないかな、と考える。
写真かな?
この間見た「美術館女子」の写真を思い出す。タレントさんは見事に自分のアピールポイントを見せていた。そしてカメラマンはそれを最適な構図で捉えていた。
写真(picture)の内容を提示する女性と、それを収める枠組み(frame)を決めて作品にしていく男性。
絵(picture)と額縁(frame)より、こっちの方がよくね?
……まあでも、写真の撮影者は男性アイスダンサーと違って、自分の姿は関係ないか。微妙に違う?
ただ、ともに時間を共有して一つの世界を作り上げていく同志、という感じは出るような気がする。

こうやって考えると、パッと分かるような気分になるフレーズというのは難しいなあと思う。
メジャー競技を知っていくとこういうフレーズが色々ある。
野球に置ける「ラッキーセブン」とは、7回の攻撃のときに使われる言葉。投手は疲れが出てくる一方、打者は投げられる球に目が慣れるため打ちやすくなる。
得点が入ることが多い、という事象を表している。
こんな、「あ、なるほど」と思えるような、素人がとっつきやすくわかりやすい言葉がマイナー競技にはなかなかない。
まあ、考える人の数自体が少ないもんね。



そういう意味では、しばらくざわざわしながら進んでいくんだろう。
そしてそのうち、いい言葉が生まれたら定着するんだろう。そういう動き全体を「シーン」というんだろうな。